yoshiepen’s journal

さまざまな領野が摩擦しあい、融合し、発展するこの今のこの革命的な波に身を任せ、純な目と心をもって、わくわくしながら毎日を生きていたいと願っています。

前進座『切られお富』@南座 1月公演

前進座が『切られお富』をやるのを、先日南座に顔見世で出向いた折に知った。お富は河原崎国太郎、与三郎を嵐芳三郎、蝙蝠安を藤川矢之輔、赤間源左衛門を中村梅之助、その女房お滝を山崎辰三郎、按摩丈賀を小佐川源次郎という配役である。これは嵐広也の芳三郎襲名興行でもあるようだ。

前進座を観たのはいつだったかずいぶん前で、それも一回限りだった。確か東京でだった。演目が何だったのか、たぶん『河内山宗俊』だったように記憶している。こういう備忘録をつけていれば、あとで思い返せるものを、当時はそんなことを考えもしなかったので、手がかりがなくて困ってしまう。そのときに、女優さんが出ているのに驚いた。また、リアルなお芝居で、それを歌舞伎の趣向とは違った路線で演じられているのにも驚いた。梅之助初め役者たちの芸達者ぶりにも驚愕した。ソフィスティケートされているのだが、それが歌舞伎のものと質が異なっていた。なんというかもっと人間臭いというか、人物の生々しい息遣いが感じられるような、そういう演じ方が採られていた。こういうのって、歌舞伎では上方の世話ものでしかお目にかかれない。

『切られお富』での"evil woman"人物造型について、今年3月、ザルツブルグでの国際学会で発表した。そのとき、映像資料を探したのだがなくて、歌舞伎チャンネルをとっくにキャンセルしてしまっていたことを後悔したものだ。仕方なく『切られ与三郎』の、それも歌舞伎ビデオではなく映画版をもっていって一部上演させてもらった。でも聴き手にはもうひとつぴんとこなかっただろうと思う。

私自身が、『切られ与三郎』は数回観ていたのに、『お富』の方は歌舞伎ではみたことがなかった。唯一、「たつみ演劇BOX」が2009年の3月に明生座でやったのを観ただけだった。これは非常によく出来ていた。

歌舞伎の『切られお富』にようやくめぐり合うチャンスがやってきた。というわけで、チケットを手に入れるつもりだ。チラシでみるかぎり、お富はイメージどおりである。歌舞伎の誰がやるよりもはまり役ではないかと思わせる雰囲気を国太郎さんはかもし出している。