yoshiepen’s journal

さまざまな領野が摩擦しあい、融合し、発展するこの今のこの革命的な波に身を任せ、純な目と心をもって、わくわくしながら毎日を生きていたいと願っています。

必見!『シンデレラ 灰被姫』in 「俳優祭」@歌舞伎座 2009年4月 録画

YouTubeにアップされたもの。リンクしておく。こういうハチャメチャな舞台を見ると、少しは気分も晴れる?

https://www.youtube.com/watch?v=w4t8Lz9X5RE

2009年4月、歌舞伎座での「俳優祭」の出し物。これはこの翌年(2010年)に建て替え前の歌舞伎座での「さよなら公演」の一つだったのだろう。

副題は「賑木挽町戯場始(にぎわうかぶきざことはじめ)」。ここで「あれっ?」感が。そう、シネマ歌舞伎にもなった『東海道中膝栗毛 歌舞伎座捕物帖(こびきちょうとりものちょう)』(2017)が連想されるから。

あのふざけ倒した『歌舞伎座捕物帖』には元ネタがあったんですね。和洋混淆、おなじみの歌舞伎の人物や場面を脈絡なく、パッチワークのように散りばめ、そこにセリフを入れ込み、さらには東西の異ジャンル芸能を割り入れるという趣向はここに原点があったのだと、納得至極だった。「俳優祭」のおふざけ精神を、しっかりと受け継いではいる。ただ、俳優祭の俄(にわか)っぽさ、即興性とは違い、『東海道』はストーリーとしての整合性には注意が払われていたような。とはいえ、荒唐無稽さはふんだんにあったのだけれど。

 

「俳優祭」、一度は見たいと思ってはいたけれど、とてもじゃないけとチケットは入手できない。それがこのように動画配信によって観劇できるのが、ありがたい。「日本俳優協会」サイトに解説兼配役が載っているのも、ありがたい。リンクしておく。

灰被姫シンデレラ | 公益社団法人 日本俳優協会

また、「歌舞伎美人」には簡単な解説が。以下。

 舞台は明治22年、歌舞伎座が初開場したときのパーティー会場。時はまさに鹿鳴館時代。当時としては洋風豪華建築の歌舞伎座のロビーに名士、紳士淑女が集います。
 その日の朝、築小路伯爵家では、灰被姫(玉三郎)の継母の金子(勘三郎)と二人の姉(福助・橋之助)が、豪華絢爛なパーティーに出かける支度で大忙し。灰被姫はお手伝いばかりで、パーティーには連れていってもらえません。三人を見送ってしょんぼりしている灰被姫の前に、魔法使いの老女(左團次)が現れて・・・。

『シンデレラ』のおなじみの冒頭部。全部見終わった結果、この冒頭部が一番面白かった。あとの場は役者総出(総覧)の「顔見せ」なので、一人一人のキャラ立ちがない。滑稽さもちょっと減じてしまっている。

勘三郎のおしゃべりの間の取り方が絶妙。ごく自然なんだけれど、なんともおかしい。楽しくて仕方ない感じが出ている。それでもきちんと矩を外さないのは、さすがである。

福助の銀子、初め誰か分からず。大衆演劇ではおなじみではあるけれど、歌舞伎でここまで「カブクか?」というほどの「変身」ぶり。「俳優協会」の該当サイトにアップされていた写真をお借りする。右から二人目。

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和か洋か判別不能な衣装に鬘。異様な化粧。玉三郎も吹きそうになるのをこらえていた。あとで、「矢島美容室」のヤジマ家長女「ナオミ・カメリア・ヤジマ」に扮したDJ OZMAのコピーであることがわかった!ご子息の児太郎があれほどおかしいのは、やはり父譲りだったと納得。次女役の橋之助は「姉」に比べてごく普通の着物。化粧も福助ほど異様ではない。

この変な三人に玉三郎が加わる。灰被とあだ名で呼ばれているが、本名はお国。もちろん出雲お国に倣っている。灰を被っていても美しい。それだけではなく、なんかおかしい。冒頭部の勘三郎とのやりとりが、実にケッサク。

勘三郎=金子がこれから向かう歌舞伎座の舞踏会がどれほど素晴らしいかを期待を込めて語り、「どんなに美味しいご馳走が・・・・」と続けようとしたところに、玉三郎が「あのー」と口を挟む。金子すかさず、「美味しいセリフを喰うんじゃないよ!」と怒る。さらに、玉三郎の顔を扇子で指し、「少しばかりここが良いからといって、あんまり私を馬鹿にするんじゃないよ!お前さんはね、自分のことを買いかぶり過ぎてんだよ!」。

 

ゲラゲラ笑ってしまった。二人の仲の良さを勘三郎の著書で知っていたので、余計おかしかった。そして勘三郎がこの三年後に亡くなったことが、ズンと胸にきた。義弟に当たる福助も、このころは元気よく弾けていたのだと、こちらも胸にくる。

このおふざけ演目で、唯一真面目(?)なのが玉三郎、そして彼の浄瑠璃の床に合わせての口説きである。自分も舞踏会に行きたいと嘆く。

まだまだ駆け出しだった頃の萬太郎、種太郎、巳之助、壱太郎、梅枝がネズミ役で「ビビデバビデブ」を踊るのがおかしい。たしかこれ、自身が演出したスーパー歌舞伎のどこかで猿之助が使っていた?

菊五郎がチェロ演奏(もどき)で「おくりびと」を「演奏する」のも前年にヒットした映画タイトルを「盗んだ」もの。本筋には全く関係ないのに、無理やり入れ込んでいる。

歌舞伎座での舞踏会シーン。進行役は翫雀演じる美濃紋太郎と亀治郎演じる白柳徹子!まだ亀治郎だった猿之助、しばらく誰か分からず。大きな玉ねぎ鬘に厚化粧、大した化けようだった!写真が「俳優協会」サイトにあったので、お借りする。

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この場ではテレビの流行り番組(?)を多数採り入れて、百花繚乱というか、ハチャメチャのなんでもあり。出てくる役者が「芸」を披露するのだけれど、おそらく即興。

ガラスの靴ならぬガラスの扇の落とし物の主を捜すのに、ガラスの扇子を使いこなせて、踊りを踊ったものが持ち主という踊り比べになる。最初に挑戦した銀子(福助)はその衣装に合わせて、巳之助と新悟を引き連れて矢島美容室の「SAKURA ハルヲウタワネバダー」を披露。DJ OZMAの踊りを模したもの。笑ってお腹が痛い。矢島美容室三人の写真をお借りする。一番右がDJ OZMA。

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藪から棒に出てきた染五郎演じる薮空棒之助が、特訓を受けた二枚扇の技を披露。スムーズに決めていたのに最後に扇を落としてしまう。 

芸を採点する方式は、当時のテレビ番組にあった?最後に玉三郎が鹿鳴館ルックで登場、扇の芸を披露する。正直いって、あまり上手くないのは、こういう芸に慣れていないせい?とはいえ、最高得点を獲得。

第二場は芝翫、富十郎、藤十郎、幸四郎、吉右衛門ら、大御所が打ち揃ってのお披露目となる。解説は以下。

歌舞伎座の守り神(松王丸=幸四郎、坂田藤十郎=藤十郎、八重垣姫=芝翫、石橋の獅子の精=富十郎、毛谷村六助=吉右衛門)が現れて、お国に「皆の心をひとつにして、この歌舞伎座を守っていこうではあるまいか」と声を掛けます。

建て替えでしばらく休業となる歌舞伎座。それを惜しみつつ、新しい小屋への想いが一つになっていた。その間に鬼籍に入った人もあり、こうやって見ると、やはりしんみりとしてしまう。