yoshiepen’s journal

さまざまな領野が摩擦しあい、融合し、発展するこの今のこの革命的な波に身を任せ、純な目と心をもって、わくわくしながら毎日を生きていたいと願っています。

『ナミヤ雑貨店の奇蹟』「さよならBRAVA!」公演 @シアターBRAVA 5月7日夜の部

今月29日に閉館するシアターBRAVAでの「さよならBRAVA!」公演。そういえばちょうど3ヶ月前の2月6日に、ここで猿之助、宮沢りえ主演の『元禄港歌 千年の恋の物語』を見たばかりなのを思い出した。この芝居そのものには感心しなかったけど、劇場は良かった。以下に画像検索で出てきた劇場。外見とステージから見た客席。

小劇場の劇場ほど小ぶりでなく、かといっていわゆる「明治座」、「新歌舞伎座」と言った商業演劇用の劇場ほどは大きくない?サイズ的にはこれぐらいが小劇場と商業演劇の間にある劇団には手ごろな大きさだと思う。先月観劇したABCホール、近鉄アート館のホールと似たようなサイズ。この劇場は欧米の劇場を思わせる。私が見た中で一番近いのはミラノのミラノ・ピッコロシアター。きっと設計者の強い思いがあってデザインされたのだろう。それが伝わって来るだけに、残念。

ただ、小ぶりな分、チケット代が高い。これぐらい取らないと採算が合わないのだろう。でも、歌舞伎用劇場とその舞台の充実度、コスパを考えると、かなり不満。それが閉館に至る主たる原因だったのかも。「CINRA.NET」に掲載された紹介記事が以下。

舞台『ナミヤ雑貨店の奇蹟』が、4月21日から東京・Zeppブルーシアター六本木、5月6日から大阪・シアターBRAVA!で上演される。

東野圭吾の同名小説を原作にした同作は、同じ養護施設で育ち、盗みを働くようになった敦也と翔太、幸平の3人が、逃亡の途中で逃げ込んだ雑貨店で、手紙をきっかけにしてある秘密を知るというあらすじ。成井豊が脚本と演出を手掛け、2013年に演劇集団キャラメルボックスよって初演された舞台の再演となる。

出演者には、キャラメルボックスの多田直人をはじめ、『仮面ライダー鎧武/ガイム』などで知られる松田凌、舞台『ピーターパン』の鮎川太陽、舞台作品には4年ぶりの出演となる川原和久らが名を連ねている。また、脚本と演出を初演時と同じく成井が担当するほか、サトウヨシアキによる主題歌“もう一度笑って”も初演時に引き続いて起用されている。

なお大阪公演の会場となるシアターBRAVA!は今春に閉館を予定しており、同公演は「さよならBRAVA!」と銘打たれている。前売チケットは3月5日から販売スタート。

で、本題のこの芝居、『ナミヤ雑貨店の奇蹟』。よくできたお芝居だった。特に装置がよく練られていた。舞台中央に「ナミヤ雑貨店」の店そのものを設置し、その表(玄関)と裏(部屋)とを廻り舞台で見せる仕掛けが秀逸だった。場面毎に転換させる。また上手、下手に必要に応じてテーブルやベッドを配して場面転換を図るというのも、シンボリック度が高く、実験演劇っぽくて良かった。

役者陣も充実していた(らしい)。以下。

多田直人 松田凌 鮎川太陽/菊地美香 鯨井康介 石橋徹郎/
大森美紀子 岡内美喜子 左東広之 小林春世 金城あさみ 近藤利紘/川原和久 

私にはほとんど未知の人たち。知っていたのは、川原和久さんのみ。脚本・演出は成井豊さん。どの役者さんも手練れ、またきれいな人が多かった。上の紹介記事にあるように、テレビ、商業演劇に出ている人が多いのかもしれない。劇中、三人の「ジャンキー」が狂言回しの役をしている。これはジャンキー四人を主人公にした『ハイ・ライフ』を思わせた。この1月に真紅組公演で見て感動したもの。でも「切実さ」の度合いがまるで違っていた。『ナミヤ雑貨店の奇蹟』の役者たちがいわゆるタレントだからだろう。それ以下でもない代わり、それ以上でもない。

ちょっと鼻白んだのは、劇中のブレイクダンスと歌。ミュージカルではないのだから、これはない方が良かった。ダンスも歌もプロ級だったので、タレントを「生かす」工夫の一環かもしれないけど、統一感を乱してしまっていた。まるでスーパーの「安売り出血大サービス」のよう。

「Well-made story」ではある。おそらく原作もそうなんだろう。ミステリーとファンタジーを下敷きとした謎解きがテーマというのなら、おそらく90%の人を惹きつけることが可能だろう。しかも構成がよくできている。出来過ぎるくらいよくできている。ただし、こういうの、私の好みではない。ほころびがないのが、嘘くさいから。整合性を追求するあまり、文学作品(演劇を含む)のある種の不条理、不合理性を犠牲にしているように思う。その不合理性にこそ、人生の、人の「生」の深淵が垣間見えるから。全体が極めて意図的に構成されている。まるで工作物の設計図を見ているよう。隅々まで計算されたプロット展開。もちろんそういう「剛」には、いささか感傷的すぎるぐらいのオチの「柔」がはめ込まれている。それも「いかにも!」という感があるのが、あざとい。私から見ると、リアリティに欠ける。

でもそういう「あざとさ」は、大衆演劇の十八番なんですよね。でもこの作品と大衆演劇の作品には、超えられない溝があるように思う。あざとさという共通項があるから、逆にその溝にいたたまれない思いになる。一言で言うなら、今日見た『ナミヤ雑貨店の奇蹟』にはリアリティがない。この「リアリティ」というのは現実性という意味ではない。念のため。真実味に近いかも。こういう演劇の「嘘臭さ」は、大衆演劇を永遠に超えることができないだろう。

ファンタジー性とミステリー性で、そして複層の時間層の絡み等、村上春樹の『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』(1985) を思わせる。私は村上を高く評価はしていないけど、でもこの作品のみは素晴らしいと思う。残念ながら、『ナミヤ雑貨店の奇蹟』の舞台には、ファンタジー性とミステリー性に、足枷、手枷をはめ込む「不合理」なるものが見られなかった。その不合理そのものがリアリティなんですけどね。

一つ確信できたのは、観客の多くは原作を読んでいただろうこと。私のように東野圭吾作品を全く読んだことがない人間は、いなかったのでは。観客は小劇場のそれとも、商業演劇のそれとも、まして歌舞伎のそれとも違っていた。

「株式会社KADOKAWA」のサイトにあった以下の記事というかコメントを読んで、変に納得した。断言できるのは、私が今後東野作品に手を伸ばすことがなさそうだということ。

東野ミステリの最高峰『ナミヤ雑貨店の奇蹟』が早くも90万部を突破 !
天才が生み出した 小説の中の小説

 『容疑者Xの献身』『ナミヤ雑貨店の奇蹟』などの話題作を次々に舞台化している人気演劇集団キャラメルボックスの劇作家・演出家の成井豊さんは、「私が所属する演劇集団キャラメルボックスは、2013年5月に『ナミヤ雑貨店の奇蹟』を舞台化した。この小説を初めて読んだ時の感動は、今でも忘れられない。設定は〈過去から手紙が届く〉というファンタジーなのに、物語は〈なぜ届くのか〉を説き明かしていくミステリー。そして、数々の伏線が見事に一つに収束するラストシーンは、落涙必至。ファンタジーにしては苦すぎる。ミステリーにしては温かすぎる。では、一体何なのか? ずばり、天才・東野圭吾が生み出した、小説の中の小説。これを読まずして、小説を語るなかれ!」とこの作品の「強さ」を表現した。

「困難も本気で立ち向かえばきっと大丈夫」
 SHIBUYA TSUTAYAのBOOK担当・関屋美那さんは、「東野さんの作品のメッセージ性があるところが好き。『ナミヤ雑貨店の奇蹟』を読んで、時にある困難も本気で立ち向かえばきっと大丈夫、頑張れと言ってもらえた気がしました」と語る。

「感動」こそがこの作品の魅力 
 ジュンク堂書店新潟店の小松さんは、「これまでの東野作品に〈感動〉という要素がさらに加わって読みごたえがアップしています。作中の浪矢ジイサン??とのやりとりを通じて、周囲の人々は成長を遂げていきます。手紙のアドバイスに対してどのような決断を下すにしろ、彼らの人生にそれは良い影響を与えてくれるに違いないし、重要なのは自らが悩んで考え抜くことのように思えます。この本を読んで、たっぷりと感動を味わった後は、信頼できる友人や家族に思い切って悩みを相談してみてはいかがでしょうか?」 と語る。

ああ、何をかいわんや!こういうコッパズカシイことを臆面もなく披瀝するっていうのには、永遠に馴染めそうにもない。