最近の恋川劇団の人気ぶりから、千秋楽はものすごい人出が予想されたので、行かないつもりだった。まだ予約席が残っているようならと、劇場受付の方に座席表をみせていただいていたら、ちょうどキャンセルが入ったとのことで、前から3列目の真ん中席を取ることができた。ラッキーだった。ほんとうに良い千秋楽だった。座長の純さん、そして座員の方々と一緒に千秋楽のお祝いができて良かった。私の席、(おそらく)「劇団席」まっただ中で、周囲との温度差に自分が異物のような気がしたけど。
『間抜けな泥棒』は他劇団でも何度かみたお芝居。先日の明治座で観た猿之助と中車の『あんまと泥棒』と、テーマが攻守逆転という点からおそらくソースが同じでは。盲目の按摩が大衆演劇版では中風ということになっている。
純座長、大奮闘。随所に入るアドリブから、彼が並々ならない勉強家であることが判る。天賦の才だけでは一流になれない。それに知的な判断力が加わらなくては。それをクリアされていることに、今月最も感激した。お芝居には彼の独自の解釈が必ず入っていた。それが純弥さん、初代のものとは違って、まっとうに「純スタイル」。他の劇団ではそれを目撃したことがない。若手座長が前座長等の年長者の方針を「否定」し、新しい工夫をするのはほとんど不可能だろうから。普段から「伝統はぶっ壊すためにある」と信じているので、それを成し遂げるのが難しい(であろう)大衆演劇の劇団で、実際に起きているのをみるのは、胸躍る経験だった。歌舞伎で20代の若手が活躍しているのを最近観てきているので、それと重ねてみてしまう。
<舞踊ショー>ひかえたもののみ。間違いあれば、ご容赦。
純・心哉 「男の土俵」
袴姿で凛々しく。
純 女形 「婦系図」
お蔦に相応しい縞模様の淡色の着物に黒の半襟を付けて。「語り」部の情緒の出し方が秀逸だった。照明も極力抑えたもの。最後には天井から左右2本のライトが中央に立つお蔦を照らし出す。万感を込めて。
群舞 ? 「祭り太鼓」、「鬼太鼓和太鼓を」という歌詞の入ったもの。爽やか。心哉、純加を中心に。
純 ? 「火の鳥になり」という歌詞の入ったもの。
白地に濃朱の花柄の艶やかな着物。鬘は黒長髪。朱の部分が生き生きと生きているかのようだった。
心哉 立ち 「睡蓮花」
真っ赤なマント、下には銀っぽい地に黒模様のオシャレな着物で。マントを脱いだ心哉さんに客席、騒然。このあと、客席を回られた。ひときわの嬌声が。
風馬 立ち 「身も心も」
赤着物で。最近の風馬さん、こういう派手な出立ちが多くなった?お似合いでした。
桃子 「人形の家」+「どうにもとまらない」
着物の赤黒のコントラストがモダン。
群舞 「スタコラマンボ」
黄色の鮮やかなおそろいの着物で。
心哉 「Let It Go」
きれいな水色のドレス調期もの。帯は前でリボン結び。こういう衣裳、初めてみた。斬新でした。長い金髪で。このときも嬌声が止まず。
純 立ち 「明かり残月」
風馬 立ち 「ゆれる」+「 I Am The Best」
マント姿。下には銀地に黒模様の着物で、それに金長髪鬘で。
最近の恋川劇団の男性陣の立ち、金長髪に赤、あるいは黒のコントラストを効かせた着物で踊られることが多い?劇団カラーの変化を象徴しているような気がした。ウルトラモダン!
純 立ち 「貝殻節」
下から金地がすけてみえる黒着物に光沢のある黒の袴姿で。黒袴ではあまりみない色と組み合わせ。ウルトラモダン。漆黒の長髪鬘に扇を持って。このときの照明もかなり抑えたもの。最後は暗闇の舞台を上の4本のライトが純座長を照らし出すという趣向。その効果に息を呑んだ。
ラスト 「ヒーロー」
これも今まで観てきたラストの中ではもっとも斬新だった。この少ない人数でどうすれば最大限の効果を挙げることができるかを、考え抜いたもの。感心至極。
アンコール、3曲。最後は観客全員が総立ち。
送り出しのルールを座長自ら口上で仰ったのが良心的。純さんの誠実なお人柄がしのばれる。ただ、その誠実さに付け入る人がいる(らしい)のが、残念。そういう層が閉め出されることを願うしかない。
この公演で確実に地歩を築かれたし、これからも益々発展されることが予測される純座長と彼の率いる劇団。次はどんな趣向を凝らし楽しませてくれるのか、ワクワクする。躍進のスピードの速さと革新性では、現在ナンバーワンだと思う。歌舞伎でも同様の現象が起きているのを目撃してきている。それも20代パワー。パワーがあるだけではなく、芝居、舞踊における斬新な工夫をみれば、純座長が知的にもきわめて優れた方であることがよく分かる。来月公演が箕面の大江戸温泉なのがちょっと残念。劇場ほどには工夫を凝らせないだろうから。でも8月は新開地劇場。きっと素晴らしい舞台を展開してくれるだろう。