yoshiepen’s journal

さまざまな領野が摩擦しあい、融合し、発展するこの今のこの革命的な波に身を任せ、純な目と心をもって、わくわくしながら毎日を生きていたいと願っています。

『上州土産百両首』第一回ダイヤDAY たつみ演劇BOX @京橋羅い舞座10月10日昼の部

2014年の新春浅草歌舞伎で観たのがこの芝居の完全版を観た最初。大衆演劇では2010年1月、箕面温泉劇場に乗った鹿島順一劇団で観たのが最初。新春浅草浅草歌舞伎では正太郎を猿之助、牙次郎を巳之助という配役だったが、それぞれのニンにあった役で見応えがあった。これで巳之助ファンになった思い出の芝居。当ブログ記事にもしている。鹿島順一劇団では蛇々丸さんが正太郎、当時虎順といった三代目鹿島順一さんが牙次郎だった。このときの蛇々丸さんの上手さが目に焼きついている。順一さんもその頼りない感じが、地なの(?)と思えるはまり役だった。

たつみ演劇BOXの『上州土産』、さすがたつみ演劇BOX!と思わせる箇所が随所にあった。この劇団は歌舞伎、長谷川伸ものといった「古典」を大衆演劇風に再構成、アレンジして板に乗せることが多い。それもlimitedな環境を逆手にとって、歌舞伎には出せない大衆演劇ならではのものに仕替えるというのに優れている。これもその一つ。とてもよく出来ていて感心した。

瞳太郎さんがお誕生日公演で、主役の牙次郎を張った芝居ということが判った。当該誕生日公演をみていないのだけど、この日の「ダイヤDAY」にこれをぶつけたのはチャレンジングな試み。牙次郎を瞳太郎さん、正太郎をダイヤさんという配役。たつみ座長は正太郎の掏摸の頭、与一を、ゲストの葵好太郎さんは掏摸仲間の三次役だった。

この日は一部のミニショーを端折っての芝居だったのだけど、それでも時間オーバー。それでも2時間を優に超えるもとの芝居。縮めるのが至難の業だということが分かる。

もともと瞳太郎さんがご自分の誕生日に主役を演った芝居ということで、力の入れ方が半端なかった。頼りなくて、ちょっと足らない男。人の使い走りばかりさせられ、一生を下積みのままで過ごして行くだろう男。その感じを上手く出していた。その牙次郎を常に庇ってきた兄貴分の幼なじみの正太郎。私の歌舞伎版のブログにも書いたが、二人の間はなにか同性愛的な匂いがするほど。ここのところは、瞳太郎さん、ダイヤさんよりも猿之助・巳之助バージョンの方が説得力はあったように思う。この頼りない男が、最後には兄貴分の正太郎を庇う男に変貌するという主従逆転劇を演じる。これが一番のみせどころ。瞳太郎さんの牙次郎はちょっと可愛すぎた感はあるけれど、この「逆転」をきちんと描いていた。瞳太郎さん、最近なにかふっきれた感というか芸(色気も)が目覚ましく伸びた感があるのだけど、「このお芝居を企画、主演したことが転機になっているのかも」なんて、考えながら観ていた。

短い稽古時間の中でこのレベルにまで演じるというのは、並大抵の努力ではなかったことだろう。それに頭が下がる。たつみさんのところの歌舞伎の援用版でいつも唸らされるところ。舞台が近いので、歌舞伎よりも迫力がある。役者が自分の身内(?!)のような感じがする。京橋よりも小さい劇場の方が臨場感があったかもしれない。それでも最後は観客の皆さん、泣いている方が多かった。

この日の京橋はほぼ満員の400人超えの観客だった。去年よりもはるかに多い動員数。芝居を評価する観客が増えているんだろう。それがうれしい。こんなすごいお芝居をたった千円ちょっとで観れるんですよ。最高のコスパですよね。それが広く人口に膾炙してきたことがうれしい。