以下「歌舞伎美人」からの配役とみどころ。
<配役>
左甚五郎 勘九郎
女房おとく 新 悟
娘おみつ実は井筒姫 鶴 松
奴照平 隼 人
京人形の精 七之助
<みどころ>
◆名匠と人形の精とのつかの間の逢瀬
彫刻の名工、左甚五郎は、廓で見初めた美しい太夫が忘れられず、太夫に生き写しの人形を彫り上げ、その人形を相手に酒を飲み始めます。すると、不思議なことに人形が動き出しますが、甚五郎の魂がこもっているため、男のように動く始末。困った甚五郎が廓で拾った太夫の鏡を人形の懐に入れると、たちまち女らしくなり、喜んだ甚五郎は人形を相手に踊り始めますが…。
日光東照宮の眠り猫で有名な左甚五郎を主人公にした舞踊劇です。
それにしても勘九郎の上手いこと!イキなこと!対する七之助も兄に見合うだけの華やかさ、艶やかさ。この二人、いまや歌舞伎になくてはならない逸材になっている。勘三郎、さぞ目を細めて息子二人の舞台をみているんでしょうね。舞台の天井あたりに勘三郎がいるような、そんな気さえしてしまう。舞台にこの三人しかいないような、そんな錯覚さえしてしまう。もちろん新悟も隼人も鶴松も上手いんですよ。でもね、この二人の発するオーラが舞台を覆っているんです。その二人の上に勘三郎がいて、三角形を形作っている、そんな感じ。
今年の2月、松竹座で松緑/壱太郎のコンビでこの『京人形』を観ている。それもとても楽しい舞台だったけど、今度のものはなにか別の力、あえていうならこの世ならないエネルギーが全体を覆っている。人形の精なんてあるはずもないファンタジー、それが少しも違和感なく信じられるのは、異次元からのパワーが送られてきている所為?こういうところに、脈々とそして営々と続いてきた歌舞伎の「伝統」なるもの、その時間の重さをあらためて思い知ってしまう。