yoshiepen’s journal

さまざまな領野が摩擦しあい、融合し、発展するこの今のこの革命的な波に身を任せ、純な目と心をもって、わくわくしながら毎日を生きていたいと願っています。

映画 『レッド・スパロー Red Sparrow』 (Twentieth Century Fox、2018)——ロシアより愛をこめて?——スパイになったボリショイ・プリマの悲劇

バンコクからロンドンに向かう機内で見た映画。私はいい映画だと思ったのだけれど、Rotten Tomatoesの評価は散々(48点)だった。概要はここにある通り。

www.rottentomatoes.com

以下に別の写真を。 

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原作はJustin Haythe、監督がFrancis Lawrence。残念ながらいずれもよく知らない。以下に(アップされていた配役のみですが)役者陣を。

 

Jennifer Lawrence  as Dominika Egorova
Joel Edgerton 
as Nathaniel Nash

Matthias Schoenaerts  as Ivan Egorov
Charlotte Rampling 
as Matron

Jeremy Irons  as General Korchnoi

Mary-Louise Parker  as Stephanie Boucher

ジェニファー・ローレンスは2015—2016年に最も稼いだ女優らしいのだけれど、今までに見ていない。ケンタッキー州生まれの27歳。2012年にオスカーを獲っている。相手役のジョエル・エドガートン(エジャートン)も見たことがないのだけれど、欧米では評価が高い?オーストラリア出身、それも芸能一家の生まれらしい。43歳。知らない人だらけの中、知っている役者が一人。シャーロット・ランプリング!主人公のドミニカがエージェントとしての訓練を受けるスパイ養成学校の女校長?確かに存在感があった。同じくらい存在感があったのがロシアのインテリジェント組織、KGBトップを演じた男性。名前がわからない。この人は実はアメリカ側のダブルエージェントだったという設定。KGB が血眼になって探していた内部の裏切り者こそ、KGBトップだったというオチ。

スパイがスパイを探る、そしてその過程で幾重にもの陰謀に引っかかり、裏切りに出くわし、自身も裏切りを重ねる。裏切りの連鎖の中に主人公のドミニカは巻き込まれてゆく。自身を守るため、母を守るため、そして心ならずも愛してしまったアメリカ側のスパイを守るために、複雑な裏切りの連鎖に絡みとられてゆく。それも彼女が「選んだ」のではなく、そういう必然の中に無理やり放り込まれるという理不尽によって。KGBと西側インテリジェンスの闘いを描くという点で、冷戦時代の諜報戦を描いたフレミングの『ロシアより愛をこめて』と似ているけれど、こちらの方が数段悲劇的。なぜなら、ドミニクはエージェントという道を自ら選んだのではないから。

 そういえば何年か前にボリショイ・バレエのスキャンダルが巷間を賑わせたっけ。ドミニクの「事故」はバレエ団という閉鎖的な空間だからこそ起きた事件なんですよね。そういえば、これまでにもボリショイでは同類の事件が起きていますよね。ドミニクも、彼女のライバルの愛人である男性ダンサーに意図的に怪我をさせられた。幼い頃からプリマを夢見て全てを犠牲にしてきたドミニク。その悔しさはどれほどのものだったか。彼女がその松葉杖で打ち据えた男性と女性ダンサーがどうなったのかは、映画では描かれていない。ただ、足に金属を入れたドミニクがバレエの舞台に立つことは二度となくなってしまったという事実が残る。

それにしてもドミニクが踊るボリショイ・バレエ劇場の壮麗で豪華なこと。舞台で踊るバレエダンサーがそれに負けず美しいこと。この裏に陰謀が渦巻いているなんて、誰も想像しない。したくない。でも芸術に「奉仕する」バレエにも、俗の極みのようなスパイ活動にも、陰謀、裏切りはつきものなんでしょう。それが相手の「抹殺」に至るまで執拗に繰り返されるのも似ているのかもしれない。

ドミニクに怪我をさせた相手方ダンサーは、恋人のためだけではなく実は彼女の叔父の命令に従った?こんな妄想を掻き立てられるほど、この叔父の狂言廻しとしての役割は重要。この叔父こそがドミニクをスパイという底なし沼に引き込んだ張本人だから。悪の権化のような男、それまでの「悪事」がそのままくるっと一回転して己に向かい、挙句の果てに同胞のKGB要員に処刑されるという皮肉。でも、最後にドミニクと対峙した時、彼はどこか嬉しげだった。これを描いているだけでも、私はこの映画に高得点をあげたい。しかもこの叔父の行動に深く沈潜していたのが、ドミニクへの近親相姦的恋情なんですからね。何重にも重ねられた性の欲動の不可思議。そしてそれが理では割り切れない行動をさせるという不思議。性の欲動(エロス)と死の欲動(タナトス)とが一致した瞬間が、この男の最期だったのかもしれない。この男を演じた役者さん、プーチンに似ていて、監督の意図が見える気がした。おかしかった。

Rotten Tomatoesの評価が低かった理由の一つは、ロシア(KGB) vs, アメリカ(CIA) のスパイ合戦を描くとき、アメリカ側の肩を一方的に持っているからかもしれない。冷戦時代構図の「まんま」ですものね。もちろんロシアのインテリジェント組織の非情さは悪名高く、人は人ではなく組織のコマに過ぎないっていうのは、現在のロシアを見れば納得なのではあるけれど。これを見ていて映画「スノーデン」(2016)を思い出してしまった。こちらもスパイの訓練を描いている。アメリカの国家安全保障局での訓練の様はRed Sparrowでのそれと酷似していた。人間性を殺してゆくのがインテリジェンス活動であるという点で。

最終シーン、とても良かった。映画冒頭に出てきた彼女の家の寝室。非常に質素な調度は以前と全く変わらない。すぐ前のシーンでは彼女の上官昇進のセレモニーが挿入されているのに。つまり、それまでの事件はまるでなかったかのように、彼女は日常に戻っている。そこに電話が鳴る。彼女は電話機を取る。相手は無言。じっと受話器に耳を当てているドミニク。ここで終わる。この後、ドミニクとナサニエルの関係はどうなるのか?ドミニクはアメリカ側のダブルエージェントになるのか?何よりも二人の恋愛は続くのか?全てが宙吊りで終わる。ここにも高い評価をしたい。