yoshiepen’s journal

さまざまな領野が摩擦しあい、融合し、発展するこの今のこの革命的な波に身を任せ、純な目と心をもって、わくわくしながら毎日を生きていたいと願っています。

『幸助餅』in 九月大歌舞伎@松竹座9月21日

難波の松竹座に着いたのが5時、『華果西遊記』を見逃してしまった。これは市川猿之助演出なので、なんとしても本公演中に観るつもりである。

難波の今はもうなくなってしまった以前の新歌舞伎座で、猿之助さん率いる澤瀉屋歌舞伎を何回かみた。『千本桜』の宙乗りは3、4回観ている。その「伝統」を引き継いで今回のなんば松竹座での公演にも、多くの澤瀉屋の役者が勢揃いである。

いわゆる普通の伝統的歌舞伎と毛色が違った澤瀉屋歌舞伎、ケレン味もたっぷりで、常に斬新さを志向しているのが新鮮だった。

番附によると『幸助餅』は曾我廼家五郎の原作、1915年、京都夷谷座初演だそうである。五郎は上方歌舞伎役者だったこともあって、この喜劇に歌舞伎の趣向を加えているということで、上方役者の翫雀さんが主役を張るのも頷ける。また準主役の相撲取りの雷を演じるのが澤瀉屋で猿之助さんの後継者と目される市川右近さんが演じるのも見所のひとつだろう。

期待を裏切らない舞台だった。翫雀は今までにみた中でいちばんお父さまの現藤十郎に似ていた。声だけ聞くと二十年前の三代目鴈治郎と思ってしまう。上方やつしの優男をこれ以上ないほどに完璧に演じていた。ワキを固めた澤瀉屋の猿弥(主人公の幸助のつれあい)、笑三郎(置屋女将お柳)の演技も世話物の味を巧く出していた。あらためて澤瀉屋がこういう新しいジャンルに「強い」ということが分かった。これは私にとっては「目から鱗」の発見で、今までの「上方ものには上方役者でなくては」という思い込みを覆してくれたうれしい出来事だった。スゴイぞ、澤瀉屋!

そしてなによりも印象深かったのが、相撲取りの雷を演じた右近だった。以前にみたときの印象と同じようでいて違っていた。同じというのは、その若さであり、違ったというのはその円熟ぶりだった。「円熟しているのに若い」というのがこの雷役の右近である。以前は「若くて円熟にはもう一歩」だった。顔、姿ともに以前とあまり変わっていないのに、演技はダントツに巧くなっていた。感動してしまった。ちょっと泣きそうになった。彼の舞台をもっと観たいと思った。