yoshiepen’s journal

さまざまな領野が摩擦しあい、融合し、発展するこの今のこの革命的な波に身を任せ、純な目と心をもって、わくわくしながら毎日を生きていたいと願っています。

「木版画家 立原位貫 特別展」@臨済宗南禅寺派 光雲寺10月14日

立原位貫さんについては、NHKの「プレミアムカフェ」の再放送で知った。国芳の「達男気性競 金神長五郎」の復刻を担当、見事に成功されるまでの過程を追ったドキュメンタリーだった。膨大な作業工程。それを黙々とこなして行かれる姿に職人魂を見た。またその結果の芸術度の高さに驚嘆した。

10月13、14、15日に光雲寺で「立原位貫特別展」が開かれるとホームページで知った。HPをリンクしておく

残念なことに2015年7月に亡くなられた。今日見てきたものは彼の遺作ということになる。国芳の「達男気性競 金神長五郎」の小サイズのものは今日の展示の中にも入っていた。鮮やかな色調に「さすが!」って思った。これは国芳というより、立原位貫に向けてのものです。

驚いたのが亀治郎、仁左衛門の役者絵があったこと。彼の趣味が当方と同じで、うれしかった。こういうのを見ると、亡くなられたのが本当に残念。以前にペンシルベニア大学で開催された浮世絵師、名取春仙についてのシンポジウムで上方歌舞伎役者について話したことがあるけれど、春仙も役者絵を多く描いていた。浮世絵から役者絵をとったら、きっと貧相なものになるだろう。それくらい多様、多彩なものが色々な絵師によって描かれてきたんですよね。それを現代で継承しようとされていたのが、立原氏なので、彼を失ったのことは本当に残念だし、大きな損失だと思う。

展覧会は明日までです。

会場の光雲寺、東天王町のバス停から10分程度坂を登って行ったところにあって、ちょっと分かり辛い。でも行くだけの価値はあります。展覧会も素敵だし、お寺も素敵だった。ゆったりとした時間が、あえていうなら江戸時代の時間が流れているような、そんな場所だった。

この後観世会館に能を見に行く予定だったのに、立原位貫さんの分厚い図録を買ってしまった。重かったけれど、甲斐があったというもの。

図録は三章から成っている。第一章は「立原位貫の復刻版画」。図版全てが美しい。鮮明というのではなく、落ち着いた色調。第二章、「立原位貫の素材と道具」が最も興味深かった。これはNHKの番組内でも取り上げられていたけれど、それをさらに詳しく解説してあった。江戸時代の素材、道具を再現して、浮世絵の復刻をするというのが、いかに大変な作業か。そのほとんどが今では失われてしまっているから。「ここで取り上げる素材や道具は立原氏の制作に対する姿勢と作品の方向性をまさに象徴するもの」であるという紹介文が、言い得て妙。放送、そして展覧会のみではしっかり伝わらなかったことも、この図録の中に収められている。最後の第三章は「立原位貫のオリジナル作品」で、ここにはさっき挙げた仁左衛門、亀治郎の「浮世絵」が収められている。また、彼が描いた、夢枕漠氏の『沙門空海唐の国にて鬼と宴す』の装幀画も。これらはこの展覧会で見ることができる。

週末の京都はそれこそ鬼の都と言えるほど観光客でごった返し、昔を忍ぶ縁もないけれど、このお寺のあるあたりは観光客も少なく、辻々に昔の雰囲気が残っている。このお寺は立原位貫さんの菩提寺でもある。晩年は京都で作品制作を行って来られた立原位貫さん。彼が安まるにふさわしい場所だと感じた。