yoshiepen’s journal

さまざまな領野が摩擦しあい、融合し、発展するこの今のこの革命的な波に身を任せ、純な目と心をもって、わくわくしながら毎日を生きていたいと願っています。

『薄桜記』における市川雷蔵の「武士(もののふ)」像造型@神戸国際松竹1月23日

「市川雷蔵祭 雷蔵没後50年」で見た『薄桜記』(大映 1959)。映像美にやられてしまった。

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雷蔵作品は三島由紀夫原作作品の『炎上』、『剣』、それに確か『眠狂四郎』シリーズの一つを観ただけ。『剣』での演技の壮絶さに、この稀代の剣戟俳優(?)の本質がいわゆるチャンバラ劇にではなく、こういう現代劇にあるのではと感じた。ただ、雷蔵の眠狂四郎は私が抱いていた狂四郎のイメージとはかなりかけ離れていたので、ビデオを借り出してまで見ることはなかった。

今改めて、この人のすごさを認識させられている。武智鉄二があれほどまでに雷蔵を買っていた訳がようやく理解できた。歌舞伎界では門閥でないため主役のつかない雷蔵に、「武智歌舞伎」では主役をつけていた。先般亡くなった扇雀(当時。後に中村鴈治郎、そして坂田藤十郎)や鶴之助(当時。後に中村富十郎)も武智歌舞伎の生徒だったけれど、おそらく彼らよりも雷蔵に才の際立ちをみていたのかもしれない。武智プロデュース=演出で雷蔵が冨樫を演じた1964年1月日生劇場での『勧進帳』を観たかった!「武智歌舞伎」と雷蔵については別稿にする。

上にあげたのは、角川映画の宣伝用短編 (1:28)の一部をスクリーンショットさせていただいたもの。この場面の絵葉書をシアター入り口でもらっている。主人公典膳と妻の最期シーン。

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降りしきる雪の中、片腕で脚を負傷した満身創痍状態で追手に立ち向かう瀕死の典膳と胸を撃たれ息絶え絶えながら、なんとか典膳に近づこうと這い寄る妻、千春の壮絶な最期を描いている。

スタッフとキャスト、そしてストーリーをWikiからお借りする。

 

薄桜記

Samurai Vendetta

監督

森一生

脚本

伊藤大輔

原作

五味康祐

製作

三浦信夫

出演者

市川雷蔵
勝新太郎
真城千都世
三田登喜子
大和七海路

音楽

斎藤一郎

撮影

本多省三

製作会社

大映京都

配給

大映

公開

 1959年11月22日

旗本・丹下典膳は高田馬場の決闘へ向かう途中の中山安兵衛とすれ違う。駆け付けた典膳は安兵衛の決闘相手が同門知心流であると知って場を離れ、安兵衛は堀部弥兵衛親娘の助けを得て仇を倒す。典膳は同門を見捨てたとして、師匠・知心斎に破門される。安兵衛も師匠・堀内源太左衛門の心をくみ、道場と距離をおく。源太左衛門の紹介で安兵衛に上杉家への仕官話が来る。安兵衛は上杉家江戸家老・千坂兵部の名代・長尾竜之進の妹・千春に好意を抱くが、千春は典膳と恋仲だった。2人の祝言が近いことを知り、安兵衛は上杉家への仕官を断って、弥兵衛の娘・お幸の婿となり浅野家に仕える。典膳は千春と祝言をあげた。

典膳が公用で旅立った留守中、典膳を恨む知心流の門弟五人が屋敷に乱入し、千春が凌辱される。ほどなく、千春が安兵衛と密通していると噂が伝わる。旅先から帰った典膳は真相を知ると、浪人となり五人に復讐する決意を固め、長尾家を訪れ千春を離縁すると伝える。怒った竜之進は抜刀し典膳の片腕を斬る。同日、安兵衛が仕える浅野家当主・浅野内匠頭は上杉家当主の実父・吉良上野介を江戸城松の廊下で刃傷に及び、片腕を失った典膳は行方をくらませた。

1年後。吉良邸討ち入りを画策する浪人・安兵衛は、吉良の茶の相手をつとめる女を尾行し、女が千春であると気づき驚く。典膳と別れた千春は兵部の世話で自立しており、典膳は兵部の好意で米沢での療養を経て吉良家に迎えられていた。江戸に戻った2人は兵部の死を知る。知心流5人を斬った後、典膳は上野介の用心棒となり、赤穂浪士と戦うことを決意する。安兵衛ら赤穂浪士の計画は、あとは吉良邸で行われる茶会の日取りを確かめるだけと大詰めだった。その頃、5人のうち生き残った2人が再び典膳を襲った。

単純明快?な筋立てと人物が多い時代劇を期待したら、現代劇風のプロットと複雑な心理描写に驚くだろう。どちらかというと心理劇に近いから。監督の伊藤大輔が原作者の五味康祐の了解を得て、アレンジした脚本(ほん)だという。恐らくは心理描写と立廻りとの併存という従来のチャンバラ映画とは違った方向性を出そうとしたのだろう。まさに映画の最盛期。とはいうものの、この頃微かに落日の足音も聞こえつつあったのではないだろうか。従来型の時代劇では新時代の観客に訴えることができない。もっと舞台劇風の演出、あるいは海外映画のような演出を編み出そうとしていた時期に、斬新な時代劇を創り出す意気に燃えた演出家、脚本家、舞台美術家、カメラマン、そして俳優と、何拍子も揃ったスタッフ、キャストが揃った。チャレンジする高揚感がこの映画にはある。

上のスチールにあるように本田省三のカメラが素晴らしい。京都生まれで同じく京都生まれのあの宮川一夫に憧れて日活に入り、その下で「多くを学んだ」。戦時中はラバウルで戦場カメラマンとなり、終戦後は大映に入社、衣笠貞之助に付き、雷蔵・(勝)新太郎のチャンバラ映画を支え続けたという(Wikiより)。

ストーリーで面白いのは、これが「忠臣蔵外伝」のようになっていること。複雑な経緯を経て赤穂浅野家の家臣になった堀部安兵衛(勝新太郎)。他方吉良家に迎え入れられた丹下典膳(雷蔵)。武士であることを何よりも誇りとする若い二人。本来なら親しく交わるはずの縁の糸。それが一旦もつれると、もう歯止めが効かないほどもつれにもつれてしまう。それを切断したのは四十七士の討ち入りだった。典膳と安兵衛はそれぞれの武士としての節を曲げず、貫き通す。いかに非合理、不条理であろうとも。 

冒頭から旗本である典膳と一介の浪人である安兵衛、すでに階級差のある二人を対比させている。またその間に千春という美しい娘を介在させることで、それぞれの「武士理想像」、「女性理想像」が異なっていることもわかる仕組み。そのズレが二人をして仇敵にしてしまう。典膳と千春の最期の決着をつけたのは、他ならぬ安兵衛だった。

ちょっとごちゃごちゃ感があるのは、すでに存在するエピソードの数々を入れ込んだためだと思う。いくつかのエピソードは大衆演劇、そして歌舞伎ですでに観た記憶が甦ってきた。だから私にとってはこのごちゃごちゃ感もまた楽しかった。

先日パリ・オペラ座シネマの『眠れる森の美女』を観た折、「雷蔵祭」のポスターが目に止まった。雷蔵のスチールがなんともいえず魅力的だったので、見入ってしまった。22日から2月4日まで雷蔵主演作品中14作品を選んでの上映。毎日2本、一週間が折り返し点で次の1週間は逆行で同じ作品を上映。最初に観たのがこの『薄桜記』。

今回の「市川雷蔵祭」の神戸での上映は2月4日までで、昨日が折り返し点。スケジュールは以下のようになっている。

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私は今日までに『薄桜記』以外に『眠狂四郎勝負』、『大菩薩峠』、『切られ与三郎』、そして『弁天小僧』を見たのだけれど、あと何本かは見る予定。また、メルカリで『眠狂四郎』シリーズ、『大菩薩峠』シリーズ、そしてこの『薄桜記』を注文したところ。また図書館で5冊ばかり関係図書を借り出してきた。

三島由紀夫と雷蔵は浅からぬ縁があるように感じた。それにしても美しい男である、雷蔵は。清潔感、清涼感が抜きん出ている。