yoshiepen’s journal

さまざまな領野が摩擦しあい、融合し、発展するこの今のこの革命的な波に身を任せ、純な目と心をもって、わくわくしながら毎日を生きていたいと願っています。

ロックと哲学の饗宴−−羽生結弦選手のSP「Let Me Entertain You」in「フィギュアスケート全日本選手権男子フリー」@長野市スポーツアリーナ・ビッグハット12月25日

羽生結弦選手のショートの「Let Me Entertain You」は初お披露目。内容は4年前のSPで選んだプリンスの「Let’s Go Crazy」を思わせるものだった。「Let Me Entertain You」の振り付けもジェフリー・バトル。でも今回はリモートなので、(推察するに)ほとんど羽生選手が独自に振り付けた?その結果は吉と出て、バトルの一見過激にモダンとも見える振り付けを、より結弦調に改善したものになっていた。もちろんおなじみの「パリの散歩道」や「Let’s Go Crazy」を思わせるステップ、スピンはそのまま生きてはいたけれど、それが羽生結弦の文法に置き換えられたので、より優雅さが際立つ結果になっていた。

振り付けもそうだけれど、今回のショートのプログラム、「Let Me Entertain You」は明らかに4年前の「Let’s Go Crazy」の発展版。ただ、曲の過激度がマイルドに、また歌詞もマイルド?なものなので、曲の最終選択は羽生選手が決定したのだと推察している。羽生選手が発信しているメッセージは、プリンス版のものとかなりかぶるので、4年前にアップした当ブログ記事の一部を引用させていただく。

羽生選手の曲はプリンスの「Let’s Go Crazy」。(中略)後でこの曲をyoutubeとネットに掲載されていた歌詞を照らし合わせて見た。振付師のジェフリー・バトルの選曲らしい。バトルの振り付けは「パリの散歩道」が素晴らしかったので納得なんだけど、この曲については「?」だった。でも羽生選手のあくなき挑戦する強い意思は感じられた。彼にとってはこの曲はきっと組み伏せるべき相手なんだろう。ステップも今まで以上にアップテンポなもの。そこに技巧の極みを組み込む。難しい4回転ジャンプやら3回転ジャンプがずっと続く構成。常時緩急の「急」の部が続く。「緩」をあえて入れないような組み方にしてあるのが、桁外れの挑戦に映った。

プリンスの曲のみならずその生き様を彼は個人的に好きなのかもしれない。それにあの悲劇的な死ですものね。その生き様をそのまま表象するようなラディカルな歌詞に惹かれた?音楽のミューズに愛されたというより、打ちのめされた(smashed)っていう感じのプリンス。羽生選手はあえてこれを「悪魔祓い」的なセンスで選んだ?先シーズンからの怪我という不運。これを祓いたいという意味を込めて選んだのかも。読み込み過ぎかもしれないですけどね。(2016/10/30記)

 

曲自体がポリフォニー的であるけれど、羽生結弦選手の演技もまさにそう。司祭だったり、恋人だったり、悪魔だったり。また嫋やかな女性だったり、荒ぶる男性だったり。さらにいうなら、アメリカ的だったり、日本的だったり。キリスト教の神だったり、日本古代の神々だったり。演技の表情としてこれらが複層的に立ち上がる。それをこなすにはもちろん高い技術力が必須だったろうけど、知的、精神的な高さが絶対条件。(2016/12/13記)

「Let’s Go Crazy」とRobbie Williamsの「Let Me Entertain You」に共通するのは「悪魔祓い」。今回の意図はあまりにも明らか。コロナという悪魔をはらいたい!「Let’s Go Crazy」の衣装もまるきり祭司だったけれど、今回の衣装もまさにそれ。髪型もそれ。司祭、羽生結弦が悪魔祓いをする行程を私たちは見ているんです、コロナという悪魔に打ちのめされ、呻吟する者として。

最後にRobbie Williamsの「Let Me Entertain You」原詩、そしてそれに私の訳をつけておく。メタファー、メトニミー、アナロジー、アリュージョン等の比喩を駆使している上、隠語などもあって精確に翻訳できているとは思えず、あくまでも留保つき。 例えば、”rock”なんてタームは元の「岩」の意味から、ロックミュージック、大麻、男性のシンボルといった隠語等のコロキアルな意味まで孕んでいるようである。だから参考程度にみなしてください。区切った節ごとに訳をつけています。リフレイン部の訳は省略しています。 

Hell is gone and heaven's here
There's nothing left for you to fear
Shake your ass come over here
Now scream

地獄は終わった、天国はここにある

だから何も恐れることはないよ

さあ、こちらに来なよ

大声で叫ぼう

I'm a burning effigy

Of everything I used to be
You're my rock of empathy, my dear

「僕は燃える生贄の人形*1

厭な過去を燃やしてるんだ」と!

心を一つにしてロックしよう

So come on let me entertain you
Let me entertain you

慰めてあげるよ!

さあ、楽しもう!

Life's too short for you to die
So grab yourself an alibi
Heaven knows your mother lied
Mon cher
Separate your right from wrongs
Come and sing a different song
The kettle's on so don't be long
Mon cher

人生短い、まだまだくたばれないだろ

アリバイを用意しておこうぜ

君の母さんは間違いなく嘘つきだ

ねえ、君

だから自分で判断しよう

母さんとは違った歌を歌おう

やかんをかけたよ、一緒にお茶しよう、早く来なよ

ねえ、君

Look me up in the yellow pages
I will be your rock of ages
You see through fads and your crazy phrases yeah
Little Bo Peep has lost his sheep
He popped a pill and fell asleep
The dew is wet but the grass is sweet, my dear
Your mind gets burned with the habits you've learned
But we're the generation that's got to be heard
You're tired of your teachers and your school's a drag
You're not going to end up like your mum and dad

イエローページで探してね、僕を

君の砦*2になってやるよ

君は先入観で間違った解釈をしてるんだ

ナーサリーライムの坊やも羊を迷子にしちゃった*3

ヤクで寝ちゃったんだって

露で湿っていても草*4はいい匂いがするんだよね

おとなしくいうことを聞いてきて君はまるで燃えかす

僕たち世代は伝えなきゃ

「先公にはうんざり、学校も退屈

父さん母さんのように人生終わりたくない」と!

So come on let me entertain you
Let me entertain you
Let me entertain you
He may be good he may be outta sight
But he can't be here so come around tonight
Here is the place where the feeling grows
You gotta get high before you taste the lows

だから、僕が君を慰めてあげる

楽しもうぜ、楽しもうぜ!

奴はいい奴だしカッコいいし

でもここには来れないから、いいだろ、今晩は

ここが盛り上がる場所だ

落ち込む前にハイにならなきゃ

歌詞は作詞者が英国人だということもあり、プリンスの過激とはかなり異なった印象。お茶が出てきたりNursery Rhymeが出るあたりでも、イギリス色が強く打ち出されている。宗教色はさほど濃くない。ただ、禍を祓い、浄化するという姿勢に非常に強い共通点がある。羽生選手の意図が明確に読みとれる歌詞ではある。やっぱり自身がメディアムであることを意識されているんでしょうね、羽生結弦さんは。

*1:新年、カーニバル、イースター時に人の罪を負って燃やされるダミー人形

*2:讃美歌260番の冒頭「千歳の岩よ 我が身を囲め」の「rock of ages千歳の岩」と大麻をかけている

*3:有名な童謡です。”Little Bo-Peep has lost her sheep,and doesn't know where to find them;leave them alone, And they'll come home,wagging (bringing) their tails behind them”

*4:もちろん大麻