yoshiepen’s journal

さまざまな領野が摩擦しあい、融合し、発展するこの今のこの革命的な波に身を任せ、純な目と心をもって、わくわくしながら毎日を生きていたいと願っています。

大槻文蔵師シテで半能『三輪』大槻能楽堂自主公演能×TTR 能プロジェクト YouTube能楽公演@大槻能楽堂 ライブ配信4月25日

さすが大槻文蔵師、大鼓の山本哲也師と小鼓の谷口達志師お二人が編成する「TTR能プロジェクト」と組んでの能楽公演を実現されている。まったく失念していて、今朝気がつき、早速見ることができた。同時的でなかったのが残念。YouTubeサイトをリンクしておく。

ただ、『三輪』は、同じく文蔵師のシテで、今年2月29日の「大槻能楽堂特別公演第二日目」で見ている。演者は今回のものとは文蔵師以外、ワキ、アイ、囃子方が全く違った演者たち、地謡方も斉藤信輔師を除いて別メンバーだった。さすがと唸る舞台だったのだけれど、巷間にすでに感染の危機が叫ばれていた頃で、後ろめたくもあってこちらのブログ記事にはしていない。再度映像で確認できて良かった。今回のライブ公演のメンバーは大槻能楽堂所属(?)の演者たち。つまり大阪勢。

演能に先立って、斉藤信輔師の解説があった。

ここでは、「銕仙会」の能楽事典より概要をお借りさせていただく。これは半能なので、後場からとなる。

<前場>

三輪山中に庵を結ぶ玄賓僧都(ワキ)のもとに、いつもやって来ては花水を捧げる女(前シテ)がいた。晩秋のある日、夜寒をしのぐ衣を玄賓から授かった女は、自分は三輪の里に住む者だと名乗ると、杉の木を目印に訪ねて来てほしいと告げ、姿を消す。

<後場>

そこへ里の男(アイ)が訪れ、玄賓の衣が三輪明神の神木の杉に懸かっていたと教えられる。実は先刻の女こそ明神の化身であった。玄賓がその神木のもとへ行くと、三輪明神(後シテ)が出現し、玄賓に感謝を述べる。明神は、自ら罪を背負うことで人々を仏道へ導くわが身の行いを明かし、いにしえ男の姿で現れ一人の女のもとへ通った故事を語る。明神はさらに、先刻の受衣こそが罪の苦しみを和らげる法の恵みであったと明かすと、その礼として天岩戸の神秘を見せ、神道の奥秘を玄賓に伝えるのだった。

後場のハイライトはなんといっても、神楽部。シテが御弊を手に舞う。ここの笛の出だしに、なんともいえないワクワク感がある。時折止まる感のあるゆったりとした間で吹かれる。それが繋がって、あの神楽のメロディーになる。神遊びが始まるのである。最初にこれを聞いたのが、社中会の舞囃子「三輪」だった。ずっと耳に残り、そのあともこのさわりになると、訳も分からずワクワクしてしまう。自分の心臓の鼓動と共振しているような、そんな懐かしさもある。大鼓、小鼓が加わる。やがて太鼓も。

文蔵師のシテ、どの所作も完璧。犯しがたい品格がある。雑味がない。かと言って冷たいわけではなく、柔らかい親しみがある。首の動かし方、御弊を持つ手の出し方、足の運びは、これ以上ないほど決まっている。やはり「すごい!」のひとこと。

流れの中心になっているのはやはり笛。煽るというのではなく、切れ目を刻むように小鼓、大鼓、そして太鼓を先導する。ああ、私はこういう舞台に飢えていたんだと、改めて思う。

ゆっくりと回って、手に持つ御弊を上にあげる。狂いのない動き。姿勢はあくまでもまっすぐ、軸がぶれない。ここまで完璧に舞ってもらえれば、お囃子方も嬉しいだろう。 

だんだんとテンポが速くなる、そしてまた緩くなる。そしてここにあの所作が入る。ゆっくりとお辞儀をする所作である。始まるのは、囃子方との連弾、連舞(?)、一度見たら、忘れられない。お弟子さんでもそうなのに、文蔵師ですからね。もう、典雅そのもの。このお辞儀の所作が何回か入るのだけれど、同じものではなく、微妙に違えている。ちょっとずつテンポが速まる。ただシテの動きはゆったりのまま。

背に御弊をかけてお辞儀をする。ますますテンポが速くなる。今度は御弊を扇に持ち替えての舞になる。ここでシテ、「天の岩戸を 引き立てて」と和歌をうたいあげる。ここからは、シテと地謡の掛け合いで、三輪の神婚説話と天の岩戸神話が語られていく。元は伊勢の神と一体だったのに三輪の神が分かれたのだと。

速くなっていた舞が緩くなる。ここの動きが素晴らしい。まさに神。三輪の神が憑依している。

(天照大神)が岩戸に入り、闇が世界を覆ったと地謡。ここでシテは再び作りもの中へ入る。シテ、「八百万の神たち。岩戸の前にてこれを歎き。神楽を奏して舞ひ給へば」と謡う。そして、地謡が「天照大神其時に岩戸を少し開き給へば 又常闇の雲晴れて 日月光り輝けば 人の面白々と見ゆる」と謡うと、シテは座位から立ち上がって、作り物から出る。まさにあの天の岩戸伝説を演じる。

そこからのシテの舞は喜びを表すもので、所作が大きくなる。お囃子も大きく、激しくなる。シテの「面白やと神の御声の」での振りは開放感に溢れている。同時に優雅で楽しげ。地謡が、「思へば伊勢と三輪の神 思へば伊勢と三輪の神 一体分身の御事今更何と岩倉や その関の戸の夜も明け かく有難き夢の告 覚むるや名残なるらん」と締めて、終わる。

ここでの文蔵師の謡いが素晴らしい。嫋嫋としているのだけれど、芯がしっかりしている。やはり銕仙会のもの。「神楽を奏して舞ひ給へば」なんていうところは、凄みさえある。

この2月に見たときはアイが野村又三郎師で、非常に良かった記憶が蘇って来た。記事にしていなくて残念。

演者一覧は以下。

後シテ 三輪明神   大槻文蔵

ワキ  玄賓僧都   福王知登

アイ  土地の男   後場のみなので、無し

笛          貞光智宣

小鼓         谷口達志

大鼓         山本哲也

太鼓         中田弘美

地謡         斎藤信隆 上野雄三 浦田保親  

           斉藤信輔 水田雄唔 浦田親良

後見         赤松禎友 竹富康之