yoshiepen’s journal

さまざまな領野が摩擦しあい、融合し、発展するこの今のこの革命的な波に身を任せ、純な目と心をもって、わくわくしながら毎日を生きていたいと願っています。

使命感、それに揺るぎない自信がみなぎっていた羽生結弦選手の「SEIMEI」in 「四大陸フィギュアスケート選手権2020」@ソウル 2月9日

羽生結弦選手、まず男子史上初の「スーパースラム」、おめでとうございます!嬉しい。今回の「SEIMEI」、美しく、ダイナミックな演技は素晴らしかったけれど、なんといってもその安定感が印象に強く残った。

 

安定感

今回の「SEIMEI」、「羽生結弦物語」が眼前にひらけていた。将来に向けての決意も語られていた。印象的だったのは、その揺るぎない安定感。己の使命を自覚しているがゆえの安定感。安定感が「物語」の地になっている。だからかもしれない、平昌の演技よりも「確かな手応え」感を、「ツボにはまり」感を、見ている側に与えたのでは。

神官としての羽生結弦さん

一連の演技は、羽生結弦選手が神官(巫女)として執り行っている悪霊祓いの儀式に見えて仕方なかった。奥州羽生氏も神社に所縁のある家系だったとどこかで読んだ記憶が。穿ち過ぎでしょうか。もちろん安倍晴明は陰陽師として、悪霊を祓う役を朝廷で担っていたわけで、題材(?)、テーマの選択時点でその意識は羽生選手にはあったはずである。

音楽と演技次第

<序>

あの印を切るポーズから「SEIMEI」の演技に入る羽生選手。音楽が始まる。能だと一声(最初の音)は高音の笛音だけれど、ここでは鼓(ドラム)。続いて笛。そこからは笛が流れの基調となり、そこにドラムの音が点を打ち込む。

羽生選手、指先で印を切る形が、より複雑に繊細になっている。この後、音楽の流れは鼓に支配されている。「陰陽師」のテーマが流れるのだけれど、この笛とドラムでなる前半部にジャンプを入れ込んでいる。

その後少し音楽速くなり、悪霊退治の剣士のような所作が入る。ジャンプは悪霊への攻撃を示している?バラエティに富んだステップとそれに連動した腕の演技で悪霊を祓う仕草。特に両腕を上げ気合を入れたポーズは、悪霊に対抗する強い意志を示すかのよう。下から突き上げ、上から振り下ろし、前に押し出し、さらに回転しながら悪霊を捕らえ、祓う。一連の祓いの型が恐ろしいまでに完璧。それぞれの型に入る前に腕と手の先に気合を入れるのが印象的。すべての所作がここにくるのは必然であるかのように、スムーズにつながっている。平昌時よりもより強く、しかもピタッと決まっている。まるで劔舞のよう、それぞれの型が決まっているのに、それが繋がって舞になる。能でいえば「序の舞」部。

<破>

緩やかな癒しの音楽に変わる。劔の舞は納められ、優しく抱き込むようなスケーティングになる。そこに連続ジャンプが入る。能でいうと「破」部か。そして、さらなる転調があり、連続スピンが入る。速く美しいスピン。でもシットスピンは苦悩を表しているかのよう。悪霊の攻撃を受け、苦しんでいるかのよう。

<急>

最後は「急の舞」でより奔放に解放感を表している。まるで「僕は自由だ!」と、宣言しているかのよう。苦悩からの解放。もっと過激に!と腕を振り回すところがなんか可愛い。コレオシークエンスで感情はさらに高ぶる。イナバウアーが、さらにはコンビネーションスピンが「束縛、苦悩」からの解放を表明しているよう。最後は手を広げて、解放(開放)度180度の誇示。

「劔舞」や「三番叟」との類似性

以前は気づかなかったのだけれど、今回一連の所作が「劔舞」を思わせるものであることが気になった。調べてみたら、仙台の青麻神社(羽生結弦選手ご自宅の宮城県仙台市宮城野区から車で20分ばかりのところにある神社)に伝わる榊流神楽の「劔舞」(大久米命の舞)が「SEIMEI」の舞と共通点があるのに驚いた。「祭りの追っかけ」さんのブログ記事にその様子が映像でアップされている。参考にさせていただいた。

能『翁』で狂言師が担当する「三番叟」(三番三)での黒尉面は、神楽等、古い芸能の名残である。そういえば「三番叟」を舞う野村萬斎さんの動画をこのブログに以前アップしている。狂言師がこの部分を担当するのだけれど、いろいろな舞の型の古形を魅せてくれる。三番叟の舞も悪魔を祓うものという点で、「SEIMEI」との近似性が高い。

衣装について——平昌版「SEIMEI」との比較

曲の物語の中に深く入り込むための手立ての一つが衣装であり、今回のものは特に神官(巫女)として祭儀を執り行う意気込みを示しているように感じる。

衣装の地は白、そして基調は青でそこに緑が混合される。色でいうと青・蒼・碧だろう。「青」は三原色、和色の二種類、「蒼」は草木が茂るさまを表す緑色、「碧」は緑と青とが合わさったものである。

平昌の「狩衣」を模した衣装

 1.  下の単(ひとえ)が紫

 2.  単の首縁(フチ)の色が碧

 3.  狩衣袖ぐり、袖先に碧色の縁取り

 4.  狩衣の露先(袖先に付いている)紐が紫

 5.  サッシュはゴールド

今回の衣装

 1.  下の単(ひとえ)が若緑色(映画『陰陽師』での萬斎さんの緑の単を踏襲?)

 2.  単の袖ぐり、首縁色が紫

 3.  狩衣の露先の紐が紫で、平昌と揃えた(?)

 4.  サッシュはゴールドで平昌と同じ

 5.  しかも「バラード第一番」のサッシュとも揃えている

 6.  両方に共通しているのが胸、袖、背中の・銀・黒のスパンコール刺繍

  鳳凰の飛び立つ様を表す。

平昌との最も印象的な相違点

それは下の単が若緑色だったこと。これは若々しさを表すと同時に青臭いまでの闘争心を誇示している?(青臭いというときの「青」は実は緑色)。ここに羽生結弦選手のこれからに向けての決意表明が表れているように感じた。「自らの使命に向き合い、それを信じて前に進む」という、それも「初心の若々しさ、みずみずしさを失わないで進む」という表明だったように思う。

今月2日の「林定期能」の帰りに晴明神社に寄り、羽生結弦選手の優勝を祈願してきた。その折の写真。

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 最近の京都は中国人の姿がだいぶん減っているけれど、ここには結構来訪者があった。