yoshiepen’s journal

さまざまな領野が摩擦しあい、融合し、発展するこの今のこの革命的な波に身を任せ、純な目と心をもって、わくわくしながら毎日を生きていたいと願っています。

十四世林家当主、林宗一郎師が翁を演じられた『翁』in「林定期能百周年記念公演」@京都観世会館 2月2日

江戸時代の長きにわたり能の観世流京都所司代とまでいわれた片山家。その片山家を頂点とする京都観世流の「五軒家」のうち、唯一現在も残っているのが林家である。このことを、一昨年京都造形芸術大学の芸能コースでの井上裕久師のレクチャーで、初めて知った。

宗一郎師は、お父上の十三世林喜右衛門師を2017年8月に亡くされている。だから現在十四世のご当主ということになる。京都観世会館二階にあるカフェ、「五常」一番奥テーブルの窓に貼ってある写真付「京都観世能楽師紹介」に「京都観世の貴公子」とあるけれど、まさにそう。とにかく男前。なによりも品がある。しかもとてもフレンドリーな方。魅力全開。とにかく実際にご覧あれ!

でも騙されてはいけません、そのイケメン外見に。ものすごいパワーのある方。演技は非常に密度の高いもの。それだけではなく、強いミッション感を持っておられるのだと思う。能を広く知らしめるのに多彩な活動をされているから。以下のサイトの紹介にその片鱗が窺えるでしょう。

hayashiteikinoh.com

このサイトにアップされている写真にもそれがダイレクトに伝わってくると思う。 

前置きが長くなってしまったけれど、能も歌舞伎と同じく先祖から継承してきた様々なものの上に成り立っている以上、閨閥というか「血」というものが大きな意味をもつ。その意味で、林宗一郎師はまさに「正統派」。

『翁』を演じるにはおそらく「正統」ということが条件になるのでは。観世清和宗家、片山九郎右衛門師、そして金剛宗家の永謹師が演じられるのはそこなのだろう。ひょっとしたら、歌舞伎の「十八番」ものを演じるのに、市川宗家の了解がいるのと同じ?

さすが宗一郎師と感心したのが、若手が打ち揃った舞台だったこと。演者一覧を以下にアップしておく。

翁        林宗一郎

面箱持      茂山竜正

千載       味方 慧

三番三      茂山逸平

 

小鼓   頭取  大倉源次郎

     ワキ  吉阪一郎

     ワキ  大倉伶士郎    

大鼓       河村 大

笛        杉信太朗

 

後見   片山九郎右衛門   味方團

 

地謡   橋本忠樹  河村和晃  樹下千慧  佐竹圓修

     味方 玄  河村和重  河村晴久  田茂井廣道

面箱持の茂山竜正さん、千載の味方慧さん、おそらく十代だろう。緊張しながらも瑕疵なく舞台を務められて、感心した。それと、ワキ小鼓の大倉伶士郎さんはまだ12歳?素晴らしい晴れ舞台をお父上の源次郎師と務められて、感動。

こういう次世代の方を「登用」されたことにこそ、本演目、及び本公演の意味があったと思った。宗一郎師が目されたのも、そこにあるのでは?爽やかで、生き生きとした演者の息遣いが聞こえるような、そんな舞台だった。

宗一郎師の翁もどこか若かった。因習の縛りが「宗家」ほどの重みではなく、それを外せる余裕があったような。もちろん宗一郎師はかなり緊張しておられたと思う。でも出てきた結果は、新しい衣を纏った翁だったんですよね。こういう翁を見ることができたことに感謝。

そして、逸平師の三番三もそれに呼応するものだった。新しかった。枠をはみ出すエネルギーがあった。逸平師独自の「解釈」を感じるところが、いくつかあった。こういうの、好き!

「若さ」がさまざまな場で匂い立った『翁』だった。こういう『翁』は普通は演じられないのかもしれない。でも若い演者と、それを理解しその背中を押す器量のある方々の惜しみないサポートの上に、この『翁』が成立していたんだと、改めて感動している。