yoshiepen’s journal

さまざまな領野が摩擦しあい、融合し、発展するこの今のこの革命的な波に身を任せ、純な目と心をもって、わくわくしながら毎日を生きていたいと願っています。

並木五瓶x国立劇場文芸部x吉右衛門の『隅田春妓女容性(すだのはるげいしゃかたぎ)―御存梅の由兵衛―』in 「平成29年大歌舞伎」@国立劇場 12月6日

国立劇場文芸部の今まで見てきた「復活狂言上演」に連なる作品だった。「補綴」となっていて顔は見えないのだけれど、担当者たちが深く丹念に調査、研究を重ねた上で、補綴を施していることがわかる。いつも感心、感激する。

いわゆる「ドブ」と呼ばれる席だったので、役者が正面舞台に立っていると足元が少し隠れてしまって、見難い。でも表情は近くてよくわかる。何よりもの利点は花道を往来する役者をすぐそばで見ることができること。それ以上にありがたかったのは、役者全員のこの狂言にかける意気込みのすごさを目の当たりにできたこと。それを共有できたこと。

特に吉右衛門がとても楽しげで生き生きしてみえた。こんなに溌剌とした吉右衛門を見るのはここ数年で初めて。ずっと出ずっぱりで、体力消耗はハンパないはずだけれど、なんのその。初代が乗り移った?そして、きわめつけは吉右衛門と大川端で渡り合う長吉を演じた菊之助。あの静かで穏やかな外見の菊之助は、裡に並々ならない炎を燃やしている役者。それが直に伝わってきた。筋トレを日課にしている彼だからあの役ができたのでしょうね。由兵衛妻の小梅を二役で演じるのだけど、小梅の時の凄艶な美しさに彼の玉手御前が重なって見えた。

とにかく播磨屋役者のオンパレード。それに狂言所縁の役者が連なっている。歌昇が滑稽なワルを演じたのは驚きだった。それが見事にツボにはまっている。見るたびごとに「成長」」著しい役者。弟の種之助が芸者というのにも驚いた。可愛かったです。二人のお父上の又五郎もどび六という滑稽なワル。いけていました。さすがです。親子共演といえば、歌六と米吉も。米吉が愛も変わらず可愛い娘を好演。錦之助も登場場面は少なかったものの、頼りない白塗り役の色男がまさにニン。三代目時蔵に連なる家系ですものね。

以下に国立劇場サイトから採取させていただいたチラシの表裏をアップしておく。

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もう一度見たいけれど、今月東京に再度行くのは無理。先にきちんと調べて準備しておけば良かったと後悔。侠客を主人公にした江戸の人気芝居。それが「受容」の長い時間を経て、今、国立劇場文芸部の補綴で舞台化される。演じるのは上演史上の所縁のあった役者たち。様々な期待の地平の異なり、齟齬の絡み合う中で、今、ここで私たちが芝居を見る。いわゆる人口に膾炙しすぎていない、上演史の「手垢」にまみれていない作品。江戸/大坂の香りはまだ強く残している。私の期待の地平とそれらの地平とはずれるとは思うけれど、それでもそのずれが文芸部の補綴のおかげで少しは明確になったのはありがたい。ただ、かなり文学的というか上質なテクスチャーなので、観客を選ぶかもしれないナとも思いつつ見ていた。こういう芝居を楽しんだ江戸の人たちは、きっと「芝居通」だったに違いない。私たちが楽しむには補綴も、解説も必要なんですよね。とはいうものの、私の周囲に座られた方々は楽しんでおられるようだった。観客の質が総じて高いように感じた。

この演目、いわゆる復活狂言ではないものの、実際はそれに近い。最も近いところでは、1978年9月に国立劇場で九代目沢村宗十郎の由兵衛。それ以来上演はなかったという。実に40年ぶりの上演。それ以前の近いところでは、1960年に初代白鸚(於明治座)、1948年に初代吉右衛門(於帝国劇場)の二回。ところが「梅の由兵衛」なる人物は江戸時代から歌舞伎お馴染みの人物だったらしい。この辺りは筋書きに載っている水落潔氏の記事を参考にさせていただいた。

Wiki検索をかけると初代並木五瓶(1747–1808) の実家は大坂道修町和泉屋。「大坂で実績を積んだのち、寛政6年(1794年)三代目澤村宗十郎の推挙で江戸に下り、時代物や世話物に優れた作品を残す」とある。水落氏の解説によると三代目宗十郎の推薦で五瓶も江戸に渡り、江戸の作者になった。それまで大坂で当たりを獲っていた狂言を江戸前に改作したという。『隅田春妓女容性』の原型と考えられ、作中で侠客梅の由兵衛が活躍する『遊君鎧曽我』は、江戸で初代宗十郎の当り狂言だった。この芝居でも吉右衛門が使っていた「鷺と烏の衣装に紫頭巾」が「梅の芳兵衛」の定番扮装になっていたという。五瓶はそれを踏まえて三代目のために『隅田春妓女容性』を書いた。特に「長吉殺し」が際立つ話に「仕立て直した」。上方風の話の内容。主人公は江戸の華、侠客。つまり上方と江戸との「結婚」が江戸の客に受けたということ。水落氏曰く、「『隅田春妓女容性』は東西の「梅の由兵衛」の特色を融合した狂言になった」。

明治には小芝居で上演されることが多くなっていたこの芝居、大芝居で人気狂言にしたのは初代吉右衛門で、1917年の市村座。そのあと三代目時蔵も演じたというから、今回の上演は上演史上の「関係者」が打ち揃っての舞台になっていたわけ。これを先に知っておけば、楽しみ方も違っていたかもと残念。以下に構成、配役一覧をアップしておく。

並木五瓶=作
国立劇場文芸研究会=補綴
国立劇場美術係=美術

序幕  柳島妙見堂の場
     同  橋本座敷の場
     同     入口塀外の場
二幕目 蔵前米屋店先の場
      同     塀外の場
      同     奥座敷の場
      本所大川端の場
大詰   梅堀由兵衛内の場
      同  仕返しの場

<配役>
梅の由兵衛    吉右衛門
源兵衛      歌六
どび六      又五郎
小梅       菊之助
長吉       菊之助
長五郎      歌昇
芸者小糸     種之助
お君       米吉
医者久庵     吉之丞
佐次兵衛     橘三郎
曽根伴五郎    桂三
金五郎      錦之助
芸者小三     雀右衛門
勘十郎      東蔵
ほか

国立劇場のサイトに行くと、登場人物所縁の場所の案内があって、楽しめる。ぜひ!

くろごちゃんと行く!
『隅田春妓女容性 ― 御存梅の由兵衛 ― 』
ゆかりの地まちあるき
(東京都墨田区・台東区)