yoshiepen’s journal

さまざまな領野が摩擦しあい、融合し、発展するこの今のこの革命的な波に身を任せ、純な目と心をもって、わくわくしながら毎日を生きていたいと願っています。

『滝の白糸』劇団花吹雪@新開地劇場 9月19日昼の部

第一部が舞踊ショー、第二部がお芝居の二部構成。芝居は『滝の白糸』。そういえば水芸の部分のみを4、5年前の公演で見たのを思い出した。場所は(多分)今日と同じ新開地劇場。春之丞さんが滝の白糸を演じていた。水芸なるものを見たのが初めてだったので、感動した。

今日はきちんとした狂言。それも1時間40分(!)の長いもの。もちろん例の水芸も組み込まれている。芝居は市川千太郎(現叶太郎さん)に指導を受けたとおっしゃっていた。千太郎さんの『滝の白糸』は見ていない。でも座長大会で出演された『道中夢枕』(DVD)を見る限り、古いお芝居をきちんと演じられる座長さんだとわかる。

『滝の白糸』の原作は泉鏡花の『義血侠血』。以前、映画版『滝の白糸』を見た後で原作に当たったのだけど、あの文体に辟易、途中で投げ出していた。で、先ほど「青空文庫」に収録されている原作を読み直してみた。なんと、私が見た映画とはストーリーがかなり異なっているのに驚いた。映画は記憶に誤りがなければ入江たか子/岡田時彦のものだった。サイレントの白黒で画面がチラチラしてとても見難かった。役者の動きがサイレント映画特有のもので、おかしかったのを思い出す。結末部分が原作と違っていた。こちらの方がどちらかというと、リアリティがあるかもしれない。

劇団花吹雪の『滝の白糸』、この大作に挑戦したその意欲に感動。何しろ鏡花ですからね。あの独特の世界観を出すのは戯曲の形だと不可能とは言わないまでも、かなり無理がある。映画が原作と違った形になっていたのも、そのあたりに理由があるのだろう。文体に乗って醸し出される雰囲気。鏡花作品は、その雰囲気を描出するところに主眼がある。事件なり出来事はその雰囲気から派生したもの(に過ぎない)。それはモノクロで、しかも靄が全体にかかった世界で、出来事が起きて初めてそれに濃淡が刻まれる。モノクロがカラーになることはない。それが映画化を阻んでいる原因かもしれないとは思う。何度も映画化されているようだが、おそらくモノクロに淫した一番古い映画のみが成功で、後のものの受容はさほど良くなかったのでは。

花吹雪のものは原作にほぼ忠実。まず、これに驚く。あの耽美的な擬古体の文体、それがそのままセリフにもなっているので、役者泣かせ。特に裁判の場での村越欣弥役の愛之介さんのセリフの長さ、難しさ。それを朗々と語った愛之介さんに拍手を送りたい。凛々しく、すっきりしていて、欣弥という人をよく表していた。

春之丞さんが演じた滝の白糸こと水島友のセリフも難しかったと思う。鏡花のセリフのような大仰な喋り方をする人は、今では絶滅種。だから、それをできるだけ現代のものに直し、それでいて原作の雰囲気は残したものにしなくてはならない。最初に鏡花を戯曲版にした人はそこに苦労しただろう。でも間違いなく戯曲化したものが残っていたはず。千太郎劇団、そして劇団花吹雪が使ったのはそれだろう。うまくできていて、感心した。とはいえ、やっぱり現代の口調とは違うから、ナチュラルに語るのはとても大変だっただろう。春之丞さんが全く瑕疵なしでそれを語ったのは感動もの。

また、劇場の大夫元を演じた寿美英二さんの粋な雰囲気にも感心した。あのひとひねりもふたひねりもあるセリフを、ごくごく自然に語っておられた。

滝の白糸の水芸に「邪魔」を仕掛ける怪しい中国人役の京之介さんの機知に富んだおしゃべりにも(いつものことながら)、引き込まれた。根っからの役者という感じ。楽しくて仕方ないという感じ。それがビンビンと観客に伝わって、芝居が何倍にも楽しくなる。

すべての役のキャラクター造型がとてもよくできていた。一つ欲を言えば、なぜ白糸太夫が人を殺すに至ったのかのあらましをもっとはっきりと描いて欲しかった。さらには太夫が「お金を盗られた」と白状したことが、なぜ決定的だったのかも。もっとも原作もそこのところを(鏡花らしく)明確にしてはいなのだけど。鏡花の小説では読み手は理解するだろうけど、戯曲になると客はキョトンとなってしまう。

とは言いつつ、今日の観客は少なくとも鏡花世界のあの雰囲気を(なんとなくではあっても)感じ取り、感動していたように思う。大成功だった。特に最終場面の天井からのスポットライトに照らし出された滝の白糸の荘厳な姿。よかった。大衆演劇がここまで出来るということを、知らしめてくれたように思う。

劇団花吹雪はもともとお芝居の上手い劇団さん。ここ数年ご無沙汰だったのだけど、最近見るのを再開。それで気づいたこと。お芝居によりいっそうの力を注いでおられると。そういえば京之介さんは、以前から歌舞伎を観に行かれるしビデオも揃えておられる(ご本人が以前にもおっしゃっていた)。本気度、それにともなう本格度が、すごいのひとこと。良い芝居なら他劇団から「借りる」ことも厭わない。その姿勢にうたれる。先日見たのは劇団荒城から借りたもの、今日のは市川千太郎さんの指導を仰いでいる。明日の「刺青奇偶』は春陽座から?歌舞伎(シネマ歌舞伎になっている)の玉三郎/勘三郎との競演について、京之介さんが言及しておられたので、歌舞伎から?

劇団花吹雪の『残菊物語』は何年か前に見ている。『滝の白糸』も明日の『刺青奇偶』、明後日の『鶴八鶴次郎』にしても、歌舞伎、新派のもの。それを舞台にするにはかなり勇気がいる。大衆演劇のお芝居は毎日、日替わりなんですものね。それでもあえてというところに、並々ならない矜持と自信を感じる。このまま挑戦と快進撃を続けて欲しいと、切に思う。

第一部 舞踊ショー
曲名等に誤りあれば、ご容赦。

群舞 「なごり雪」
大人の群舞という感じ。でも「なごり雪」ですからね。青春なんです。

健之助 「渡良瀬橋」

英二  「遊侠流れ笠」

京之介 「妻恋道中」

梁太郎 「波止場時雨」

愛之介 「白雲の城」
愛之介ワールドにWelcome!袴姿も凛々しく素敵でした。凛々しいんだけど、色気があるんですよね、彼の踊りは。

京之介・健之助 「硝子のプリズム」?

春之丞  「かざぐるま」
可愛いかざぐるまを髪に挿し、手にはかざぐるまを持って登場。ほっこりとします。

京之介・かおり 「お蔦」
寸劇になっている。短いのに泣かせます。

愛之介・梁太郎 「ちょうちん」

春之丞  「愛燦燦」
白地に黒の模様が入った着物で。艶やか。

京之介・京誉  「ダイナミック琉球」
京之介さんの躍動感あふれる踊りについて行けないお父上。おかしい。しかも真っ赤な長振袖のド派手な着物で。この発想が花吹雪!そして京之介さん!

健之助  「えじゃないか」

春之丞  「CLUB ZIPANGU」

京之介  「月」
嗚呼、「月」!

京誉  「山陽道」

ラスト 「じょんがら女節」
ラスト群舞でこの曲は、先月恋川純劇団でも見ている。いずれ劣らぬ素晴らしさ。圧巻!全員揃っての扇子遣い、お見事。

今後の予定 (聞き取れたもののみ)
20日(明日!)「刺青奇偶」
21日 恋川心哉さんゲスト
22日 「鶴八鶴次郎」
23日 劇団花吹雪25周年大会
27日 「マリア観音」
29日(千秋楽)大花吹雪祭