yoshiepen’s journal

さまざまな領野が摩擦しあい、融合し、発展するこの今のこの革命的な波に身を任せ、純な目と心をもって、わくわくしながら毎日を生きていたいと願っています。

八月納涼歌舞伎第二部『東海道中膝栗毛』@歌舞伎座8月26日その弐

先日アップした「その壱」の続編。

全部で十三場もある。そのほとんどにいろいろな仕掛けの工夫が凝らしてあって、感心。びっくり玉手箱から何が出てくるのか、ワクワクして待つ心境だった。どの場の演出にも裏切られなかった。とにかくすごい!

感心したのは、役者それぞれに必ずぴったりとした魅せ場が設定されていたこと。

亀蔵には案の定悪役が振られている。闇金利太郎なんてふざけた名前。名前通り、ちょっと抜けた金貸し。弥次郎兵衛と喜多八にいいようにコケにされる。芸達者な弘太郎には今でいう芸能レポーター役が。「読売文春」なんていう。今の世相を表すふざけた名前が。笑えた。しつこく二人ならぬ四人を付け回し、その都度大げさにレポするところなど、まさに「週刊文春」の記者もどき。レポも先だっての都知事選を意識したもので、唸らされる。この軽さが弘太郎にぴったり。

悪者の一味、盗賊、白井髭左衛門(市川右近)に女盗賊、お新(新悟)もどこか「のどかな」盗賊。その感じを上手く出していた。それぞれニンに合っていたから当然。

上方役者の壱太郎にもニンに合った役が。ちょっと遠慮気味に振られていましたけど。美しい女役者ならぬ幽霊の役。彼女のいる離れ座敷に夜這いをかけた弥次郎兵衛と喜多八(これなど、まさに大衆演劇の芝居によくある設定)、彼女が実は幽霊だったことを知る。気づけば座敷は断崖絶壁の上!これはチャップリンの『黄金狂時代』の有名シーンのアリュージョンだろう。

その次の「座頭の背に乗って川を渡る」シーンは元の本にもあった場面のよう。二人は「ズル」をしたのだけど、川中に放り出されて、散々な目に。でもそれはそもそも若い侍剣士の二人、梵太郎と政之助に船の席を譲ったためでもあった。義侠心のゆえ。弥次喜多は小者ながら、ヒーロー的なところも持っているのだ。

第十場がトンデモハップン(古いか?)の場面。なんと舞台はラスベガスってんですからね。これ、きっと染五郎の発案。先だっての彼自身のラスベガス公演での『獅子王』が好評だったのを、再現したものらしい。これに猿之助が乗っかった。いかにも猿之助!劇場支配人に獅童。石油王の亜刺比亜太(アラビアータ)に門之助、その妻、麗紅花(レベッカ)になんと!笑三郎という配役。この三人にお腹を抱えて笑った。ここまで外すとは!今までの歌舞伎では考えられないだろう。以下が筋書きから「拝借」した写真。この三人の「外人」ぶり、もう一度見たい!

ラズベガスのキャバレーレストランにやってきた弥次喜多の二人。そこの支配人にキャバレー(レストラン)の舞台に引っ張り出された弥次郎兵衛と喜多八は、調子に乗って獅子の毛ぶり(「鏡獅子」!)を披露する。これが大受け。で、石油王とその夫人にVIPルームに招待され、一緒にカジノを楽しむことになる。そこに運び込まれた巨大なルーレットマシーン。それを回すのは女札親師の毬夜(マリヤ)。これは春猿が演じた。二人は連勝だったが、実は喜多八がイカサマをしていたから。それがついには露見、二人は警備員に追いかけられる。これは例の勘三郎のNY公演、『夏祭浪花鑑』のもじり。追いかけ荒れて逃げてゆくのだけど、噴水に吹き上げられて、どこかへ消えて行ってしまう。水を使っての舞台。

前から二列目までの観客にはあらかじめビニール袋が配られていた。私もちょうど二列目だったのだけど、ほとんど水滴の被害には会わなかった。やれやれ。本音では被害に会いたかった。あの興奮を役者と共有できたんですものね。

そのあと、気を失った二人が息を吹き返したのが、なぜか美保の松原。「あまりにも荒唐無稽!」なんて堅いことは、言いっこなし。二人を介抱していたのは若侍のあの二人。なんでもAEDで人工呼吸を施したとのこと。猿之助さん、團子くんに「口、臭かった!」って言われて、腐っておられました。おかしい。

最後の場は伊勢。悪者一味—盗賊と大家の一味—が二人を捕らえようと集結している。そこにやってきた弥次喜多、一味に追いかけられる。それを阻んだのがあの凛々しい若剣士達。伝家の宝刀を使って悪者を散々にやっつける。

騒ぎを聞きつけてやってきた伊勢奉行(獅童)がこの二人の志に感動。家督相続の請願書を受け付ける。これで二人は晴れて国に帰ることができる。弥次喜多の二人は花火の大筒の中に隠れているのだけど、その花火が打ち上げられてしまう。ここで観客は大喝采。というのも弥次喜多道中の仕上げが二人の宙乗りだから。観客のみならず、ご本人たちも大いに楽しみながら天井から吊り下げられたロープで空を移動し、引っ込んで行く。

考えられる限りの奇抜な趣向を凝らした舞台。猿之助、染五郎のタッグで初めて実現できたもの。それが嬉しくてたまらない。なんという挑戦!そして気概!感動に次ぐ感動。言葉がありません。ただただ、「こんな素晴らしい舞台をありがとう!」というのみ。