「歌舞伎美人」から配役とみどころを。
配役
ルフィ/ハンコック/シャンクス:市川 猿之助
白ひげ:市川 右 近
ゾロ/ボン・クレー/スクアード:坂東 巳之助
サンジ/イナズマ:中村 隼 人
ナミ/サンダーソニア:市川 春 猿
はっちゃん/戦桃丸:市川 弘太郎
アバロ・ピサロ:市川 寿 猿
ベラドンナ:坂東 竹三郎
ニョン婆:市川 笑三郎
ジンベエ/黒ひげ(ティーチ):市川 猿 弥
ニコ・ロビン/マリーゴールド:市川 笑 也
マゼラン:市川 男女蔵
つる:市川 門之助
エース 福士 誠 治
ブルック/赤犬サカズキ 嘉島 典 俊
レイリー/イワンコフ/センゴク 浅野 和 之
みどころ
大秘宝ワンピースを探す大いなる航海の次なるステップ、新世界への入り口となるシャボンディ諸島での海軍との戦いの中で、麦わらの一味は散り散りになってしまう。一人になったルフィは兄エースの処刑宣告の知らせを聞き、救出に向かう。侵入不能の海底監獄を突破するルフィだが、エースは海軍本部に移送されてしまった後。そしてついにその海軍本部を舞台に、エースを救おうとする海賊団やルフィと、海軍との間で壮絶な決戦が繰り広げられる!!
思いつくままに良かった点を挙げると、今まで歌舞伎になじみのなかった比較的若い観客層を劇場に来させたこと。といっても小劇場の観客と比べると、やっぱり平均年齢は高めではあったけど。話題性に敏感な40、50代の観客が増えたのかもしれない。
舞台装置が『阿弖流為』と同じく、凝ったものだったこと。ただちょっとキッチュぽかったのはわざと?『ワンピース』というマンガに合わせたということなんだろうか。
華やかさの演出、とくに舞台一面に繰り広げられた「オカマ」のダンスが楽しかった。これもキッチュ度が高い。しかもそれを徹底させたことで、この世ならぬ猥雑で楽しいまるでパリやベルリンの夜の世界、そこでのレビューのような雰囲気を醸し出させていたのでは。私もそんなところに行った経験がないのだけど、そういう想像をさせるような舞台になっていた。でもそれって、『ワンピース』のコアなファンには不評かもしれない。
演出の最大のハイライトは、第二部最後の猿之助の宙乗り、そしてその前後の滝舞台。舞台全面に滝がしつらえられ、そこから水がどっとおちてくる壮観!私は二列目だったのだけど、三列目まではあらかじめビニールが用意されていた。たしかにいっぱい水しぶきがかかった。でも、水しぶきがかかってもいいと思わせる、むしろこちらも舞台の役者さんたちと一緒に水浴びしたいなんて思わせる楽しさだった。
役者がそろっていたのが良かった。猿之助はもちろんのこと、おなじみの澤瀉屋の役者たち。とくに笑三郎が最高だった。シネマ歌舞伎の『海神別荘』(これが二回目になる)を観た折にもあらためて彼のうまさに唸ったんだけど、この舞台でも圧倒的存在感。
存在感といえば、イワンコフ役の浅野和之もすごかった。『空ヲ刻ム者』のときもその上手さに唸ったことを思い出した.怪優。この人を舞台でみれただけでもやってきた甲斐があったと思わせるほど(ちょっと言い過ぎ?)。
猿之助も大奮闘。ありとあらゆる歌舞伎の技を駆使して、総動員しての活躍。アイデア満載だった。今までのスーパー歌舞伎のすべてをぶち込んだんでしょう。研究熱心な彼の一面がよくみえた。
それと舞台と花道が近かったおかげで役者さんたちの素が見えたことも良かった。巳之助!彼のうまさと真摯さを改めて確認した。特にボン・クレー!コミカルなところにこそ本領を発揮する役者さんとは想像していたけど、実際はそれ以上。頭もすごくいい。頭のいい人大好き!偏見と偏愛に満ちた感想ではありません。念のため(???)。
歌舞伎役者たちのキャスティングは無難だったのだけど、エースが福士誠治というのは、ちょっと無理があったような。私の大好きな役者さんではあるんだけど、エースはミスキャストだと思う。麦わらの一味の誰かの方が良かったのでは。
脚本は横内謙介。市川右近の『新水滸伝』を2年前に観た折と同じ感想をもった。このブログ記事にもしているのでリンクしておく。説教調が過ぎた。とくに「家族の絆」云々のくだり。これが7,8回も使われていて、完全に鼻白んだ。原作漫画では「家族」ではなく「仲間」の連発で、批判もされているけど、「家族」はもっとダメでしょ?その点では『阿弖流為』の中島かずきにはるかに及ばない。脚本がこれなので、演出をどうしようが、かなり無理が出てくる。横内の思想というかスタンスがあまりにも時代がかっている。山田洋次監督を思わせた。
それと、『空ヲ刻ム者』のときと同じく、長すぎた。2部で終わった方が良かったと思う。二幕目終わりに舞台スクリーンに「To be Continued」と出たんだけど、あれで終わった方が良かった。余韻が次への期待を膨らませることができたから。最後の説教調の幕も省けたし。