yoshiepen’s journal

さまざまな領野が摩擦しあい、融合し、発展するこの今のこの革命的な波に身を任せ、純な目と心をもって、わくわくしながら毎日を生きていたいと願っています。

玉三郎と海老蔵主演『与話情浮名横櫛(よわなさけうきなのよこぐし)』七月大歌舞伎@歌舞伎座7月23日昼の部

構成と配役、それにみどころを「歌舞伎美人」から。

見染め
源氏店

配役
与三郎     海老蔵
蝙蝠安     獅童
番頭藤八    猿弥
お岸      歌女之丞
鳶頭金五郎   九團次
和泉屋多左衛門 中車
お富      玉三郎


みどころ
一目惚れから始まった男女の恋の顛末
 江戸の大店伊豆屋の若旦那与三郎が木更津の浜見物をしているところへ、この界隈の顔役赤間源左衛門の妾であるお富が通りがかり、互いに一目惚れします。逢瀬を重ねる二人の関係を知った赤間により、瀕死の重傷を負った与三郎。与三郎が死んだと思ったお富は海へ身投げをしますが、和泉屋多左衛門に救われます。
 それから3年が経ったある日。今は多左衛門に囲われているお富が番頭藤八と話をしていると、小悪党の蝙蝠安が相棒を連れて訪れます。お富は金をやってその場を収めようとしますが、戸口から頬被りで顔を隠した男が現れ…。
 おなじみの名せりふが織り込まれた世話物の名作にご期待ください。

『切られ与三』として人口に膾炙した演目。こういうのをやるって、役者にとってはやりがいがあるのだろう。と同時にかなりやりにくいものでもあるに違いない。玉三郎は深く考える人だから、今までさんざんやってきたであろうこの芝居、きっとやりにくさを逆手にとって、それをみどころに変えてしまうんだと思う。相手によってやり方、雰囲気を変えながら。

今回の相手は海老蔵で、この芝居では初共演という。意外だった。仁左衛門とのコンビがあまりにも有名。私は残念ながら観ていない。玉三郎のお富も観るのは初めて。私が見たのは海老蔵と菊之助のものと去年の菊之助と梅枝のもの。だから玉三郎のお富、とても新鮮だった。今回は「見染め」と「源氏店」のみなので、彼の本領発揮を十分見れなかったという不満足感は多少あるものの、これがあの「伝説」のお富かとかみしめながら観ていた。

海老蔵との年齢差。まったく感じられなかった。この昼の部は「はりこんで」一等席。それも花道すぐ横の席を確保していた。もちろん玉三郎を近くで見たかったのが理由のひとつ。すぐ横を通って行く玉三郎。年齢を感じさせない若さ。白粉を真っ白に塗った顔は年齢をより際立たせてしまう。それがそうじゃないんですよね、玉三郎の場合は。だから「見染め」の場で海老蔵演じる与三郎が一目ぼれしてしまうのに、まったく違和感がない。「当然でしょ」って感じ。対する海老蔵も大分痩せたせいか、つっころばしの役が似合っていた。このつっころばしが次の場ではあのゆすりの与三郎に変身するんですからね。顔やら身体に傷だらけになっていても、どこか昔の坊ちゃん風情が残る与三郎だった。仁左衛門と比べたらすごみに多少欠けていたのかもしれない。両方見比べてみたかった。海老蔵の与三郎は初々しい色気が立っていた。

色気といえば「源氏店」での玉三郎の湯屋帰りの流し髪、たまりません。でもきわどい色気っていうんじゃなく、きりっとした色気。鉄火な色気。だからこそ番頭藤八の戯言をさらりとかわすサマが絵になる。べたべたしたところがない。彼のこういう雰囲気というか場の質感がこの場を覆っていたように思う。それは玉三郎のこの芝居の解釈なんだろう。私が今まで思い描いてきたお富とはかなり違っていた。

それに合わせて、海老蔵も獅童も演じていたようだった。獅童の蝙蝠安、まったくくどくなかった。いやらしさが少なかった。これも玉三郎路線をなぞったからかも知れない。中車も彼の得意とする心理的深入りを避けていた。全体としてまるで「景色」のようだった。人物間の心理的な葛藤は見ている私たち観客に委ねられている、そんな感じがした。

そういえば番頭藤八がその「さらさら感」をいちばんよく表していたかもしれない。私が以前にみた藤八は市蔵が演じていたのだが、いかにもいやらしいスケベおやじ。それを猿弥が演じると、なにか憎めない、ちょっとまぬけなスケベ程度になる。それも玉三郎路線を踏襲していたからかもしれない。

この路線で『与話情浮名横櫛』をやって欲しい。通しで。かなり衝撃的だと思う。今までのとは違った新しいものになるはず。もっとモダンなものになるだろう。もちろん、玉三郎・海老蔵コンビで。