yoshiepen’s journal

さまざまな領野が摩擦しあい、融合し、発展するこの今のこの革命的な波に身を任せ、純な目と心をもって、わくわくしながら毎日を生きていたいと願っています。

ヘレン・ミレン主演 映画『マダム・マロリーと魔法のスパイス』(The Hundred-Foot Journey)

KLM機内で観た映画。ホテルに着いてからネット検索をかけたら、IMDbで2014年度のベスト500に選ばれている。そのサイトにリンクしておく。

ヘレン・ミレン(Dame Helen Mirren)主演。

インドからやってきたカディム一家。レストランを経営していたのだが、母が火災で亡くなりヨーロッパにやってきた。(すっとパパと呼ばれる父親(オム・プリ)は頑固な昔気質。息子、娘たちは料理の才能がある。とくに長男のハッサン(マニッシュ・ダヤン)は優れた料理人。一家がフランスの田舎を荷物を満載したボロ車で走っていたところ、エンスト。そこを助けてくれたのがマルグリット(シャルロット・ル・ボン)という若い女料理人。この女優さん、美人でかわいかった。一家の長のパパはその地でインド料理レストランを開くことを決心する。それもよりによってマルグリットが働いているフレンチレストランの通りを隔てた真ん前に。

マルグリットの働くレストランのオーナーシェフ、マダム・マロリーはイギリス人女性。そんな田舎町のレストランなのに、ミシュランで二つ星を獲得している。さすがヘレン・ミレン、このマダム、秀逸だった。こういう役、ホントにはまり役。お見事としかいいようがない。このマダムとパパとの「死闘」!がみもの。これだけでも映画に「7.4」という高い評価が付いた理由がわかる。二人の個性的な人間の間の、そして二つの(相容れなくみえる)文化とその価値観とのせめぎあい、ぶつかりあいをこれ以上ないくらいにリアルに描き出している。

父親の出したレストラン(レストラン・ムンバイ)が田舎にはそぐわないインド色を全面に打ち出したド派手なもの。一方通りを隔てたフレンチレストランはきわめてクラッシイ。客もそれにみあった人たち。インドレストランの完敗と思われたが、ハッサンの料理の腕のおかげもあって、客が増え始める。ハッサンは研究熱心で、インドからもってきたスパイスの調合にも研究を重ねている。その上、フレンチも何とか取り入れようと、本を読んだり、マルグリットに聞いたりしている。この二人は次第に親密になって行く。ハッサンがフレンチにassimilateされて行く過程と二人の新密度が高まるのが呼応して描かれている。

向かいのインドレストランの好況。それを快く思わないマルグリットの同僚の若いシェフが放火する。火災はインドでの火災を思い出させた。それとともに辛い記憶も。ハッサンは手に火傷を負うがレストランは大事に至らずに済む。レストランの壁にはそのシェフが書いた落書きが。怒ったマダムはそのシェフを解雇。ここでのミレンのシェフたちへの「説教」も聞きごたえがあった。マダムは雨の中、その落書きを消している。そこへ父親がやってきて傘をさしかける。

なんとなく「休戦」状態になった二つのレストランだった。ハッサンはマダムに自分の作ったフレンチをもってきて試食してもらったのが、ミシュラン二つ星のプライドのあるマダムはそれをゴミ箱に捨てる。ここからまたもや二者の関係は険悪に。やさしいハッサン。そのあと落ち込んでいるマダムにオムレツの作り方を伝授してくれと頼む。彼はそのオムレツにインドから持ってきたスパイスを加え、これ以上ないほど美味に仕上げた。さしものマダムもうならざるを得ない。辞めたシェフの代わりとしてマダムの下で働くことになる。

ミシュランの審査員たちがやってくるとの情報が。ハッサンが作った料理が出されることになる。評価は上々のよう。そして審査結果の日。緊張して連絡をまつマダム。そこには最近とみに仲良くなったパパの姿が。結果は二つ星。喜びあう二人。ハッサンはパリに出る決意をする。マルグリットに別れを告げて。

パリのレストランでシェフになったハッサン。めきめきとその知名度を挙げて、今では料理雑誌の表紙を飾るまでになった。有名人の仲間入り。でもどこかこころには隙間が。ある日思い立ち、彼は父の許へ。マルグリットと再会し、愛を確かめあう。彼の作った料理が招待した人たちに振る舞われる。それも道を隔てた二つのレストラン同時に。マダム、そしてハッサン一家、それに客一同は、二人が結ばれたことを確認しただけでなく、二つの文化の間の「旅」が一つの到達点に達したことを確認する。

たしかに老練のミレンの演技とパパ役のプリのしぶい演技。その二人ともう一人の主役のダヤンの清新さとの対比がすばらしかったのだが、テーマの掘り下げ方としては物足らなさが残った。この原作者のテーマの設定が「シェフたちがミシュランの評価に一喜一憂するサマを描く」というところに端を発しているのではないかと思われたから。文化間の軋轢とその折り合いのつけかたによりも、どちらかというと「シェフもの」の感があった。いまや世界をあげてメディアが料理番組に狂奔しているわけで、たしかにこういうテーマは面白い題材のひとつだろう。でもちょっと安直なような。特にパリに出てからのハッサンののし上がり方があまりにも図式的で「シンデレラボーイ」の話の域を出ていなかった。基調がコメディでハッピイエンドの終わり方がふさわしいのは分かるんだけど。マダムとパパの演技が素晴らしかったので、よけいそことの落差が際立ってしまっていた。

日本でも11月から公開とあったけど、どうなんだろうか。

後記
11月1日から『マダム・マロリーと魔法のスパイス』というタイトルで公開されたよう。ということなので、この記事のタイトルにも日本語版を付けておいた。