yoshiepen’s journal

さまざまな領野が摩擦しあい、融合し、発展するこの今のこの革命的な波に身を任せ、純な目と心をもって、わくわくしながら毎日を生きていたいと願っています。

『新版 喜劇 売らいでか! ―亭主売ります―』@新歌舞伎座2月15日夜の部

「オケピ」でチケットを入手。2500円という破格値。浜木綿子さんの芝居を一度観たいと思っていたので、願いが叶った。以下は500回上演のカーテンコールに応える役者陣。

公式サイトから以下。


岸 宏子 = 原作「ある開花」より

花登 筺 = 脚本 / 野田 昌志 = 潤色
池田 政之 = 演出

出演者
浜 木綿子
左 とん平
正司 花江
大和 悠河
小野寺 丈
荒木 将久
臼間 香世
青山 郁代
大空 眞弓
加藤 茶

亭主の浮気に堪忍袋の緒が切れた!
――耐える生活もうヤメだ!
鬼姑をおまけに付けて、ダメ亭主を売りとばせ!
キレ者なつ枝の大奮闘!!

【あらすじ】
物語の舞台は伊賀上野―。
町一番の名家、神代産業の当主、里子さま(大空眞弓)は亭主運が悪く、未亡人。一人身の淋しさで情緒不安定気味の奥様に、支配人・石上(加藤 茶)らは振り回される日々。
一方支配人の弟・弘(小野寺 丈)は野心家で、里子に男をあてがい、遠隔操作で神代産業を牛耳ろうと企んだ。
そして目を付けたのが、長年里子に恋焦がれている杉雄(左 とん平)。祭り囃子に町が浮かれている頃、弘の計略にハマった杉雄は里子の寝室に連れて行かれる…。
杉雄の妻、なつ枝(浜 木綿子)は明るく貞淑な働き者。姑ぎん(正司花江)の嫁イビリにも耐え、組紐の内職に精を出していた。
折も折、ぎんの想い人である南出(荒木将久)の娘・敬子(青山郁代)のお腹が膨らみ始め、ちょっとした騒動に。どうやらお腹の子の父親は…?
なつ枝は弘の恋人で神代産業の女中・きく子(大和悠河)から組紐の儲け話を持ち掛けられるが、どうも魂胆がありそうで…。
さらに最近、夜勤続きで疲れていると言うが、杉雄の様子がおかしい。女の直感でピンときたなつ枝は、里子と対決するため、神代産業に乗り込んだ…。
「いらん所から、いる所へ」
なつ枝は亭主を里子に売り払い、その金を元手に女だけの会社、株式会社伊賀組紐商会を設立。神代産業の事務員・節子(臼間香世)やきく子も加わり、なつ枝は社長に就任した。
いよいよ浮気亭主と意地悪姑から離れた、なつ枝の快進撃が始まった!
売られた亭主とオマケの姑の行く末は?

女実業家のサクセスストーリーというよりも、ある種のシンデレラストーリー。重点はいかに女の細腕でビジネスを成功させたかというより、女房と愛人、そして姑間の女のバトルとその間に立って右往左往し、遂には虚仮にされる情けない男たちの生態に置かれていた。『三婆』に近いのかもしれない。

シンデレラストーリーなのだから、勝利を収めるのがなつ枝になるのは初めから予測できる。ホテル建設に失敗、財産を失った神代産業の当主、里子が尾羽うち枯らして訪ねて来た折に、満艦飾のド派手なドレスで出迎え、一矢報いるというのも、その文脈に則っている。

里子や姑のぎんは旧タイプの女たち。それに対し、「シンデレラ」なつ枝は新しいタイプの女である。事務員のきく子、節子をはじめ校長の愛人、敬子もシンデレラ組に加わって行く。まるで連合軍を作るように。それに比べると男たちのなんとだらしないこと!なつ枝の元亭主の杉雄はいうに及ばず、神代産業の支配人石上とその弟の弘、然りである。もっともみっともないのは、普段は教育者然とした元校長の南出だろう。愛人を「娘」と偽り、妊娠までさせている。

「女のバトル」を描いた『三婆』を観ていないので比較はできないのだけど、おそらく『三婆』のバトルは家父長制という制度があってはじめて生まれたものだろう。その制度中で女たちがが抑圧を逆手にとって新しい連帯を生み出すというところに主眼が置かれていたのでは。制度はまだまだ重くのしかかってという前提なので、笑いの中に一抹の影、陰湿さがあったのではないか。Wikiで土映画版、テレビドラマ版のキャストをみると、映画では三益愛子、田中絹代、小暮実千代といった一癖も二癖もある芸達者が主演。テレビ版の最初のものも、杉村春子、萬代峰子、原泉といったこれまたしたたかな面々である。女優間でも演技の上手さを競う丁々発止のバトルがあったに違いない。

同じ「女のバトル」でも、この作品のそれは底抜けに明るい。それは一重に主演の浜木綿子のキャラと演技に負っているように思う。彼女でなくてはこういうどこまでも明るい、あっけらかんとした「シンデレラ」を演じるのは無理だったのでは。もちろん家父長制は背景にはあるけれど、それは遠景になっていて、コアはあくまでもシンデレラストーリーにある。脇を固める俳優たちも「重すぎず」、キャラ的にはアクの少ない人たちだった。男が前景に来てはだめなのだから、当然だろう。あくまでも浜木綿子というシンデレラの周りを回る小衛星でなくてはならない。

浜木綿子という女優がとても好きになった。実年齢よりもはるかにお若いしおきれい。それに明るさのオーラが全開で、こちらもほのぼのした気分になれた。実生活が役柄と被るときがあるのだけど、暗さなんてまったくない。辛いこともほがらかに笑い飛ばして快進撃するさまに、ホント励まされる。