プログラムのひとつがシューベルトの即興曲だった。ちょっとがっかりした。私の好きなリヒテルの演奏とあまりにも違いすぎたから。コブリンはベダルを多用し、即興曲の軽やかさを損なっているところが多々あった。
特に「即興曲変ホ長調、アレグロ」。導入部を軽やかに弾かないので、そのあとの激しい感情の吐露のようなパッショネイトな部位が生きてこない。この軽やかさと激しい部分とが交互に顕れるのが、この曲の魅力なのに残念だった。最後のクライマックスに昇り詰めるところも、ただ力まかせにキーを打ち付けている感があった。四つ目の「変イ長調アレグレット」もこの強弱と緩急との差があまりない演奏に聴こえた。
私がもっているレコードの(おそらく87、8年に買った廉価版)リヒテルの演奏ではシューベルトの即興曲の魅力をあますところなく分からせてくれる。リヒテルはそのピアニッシモがすばらしい。繊細でいて豊かで、鋭いのだけどそれは人を突き放すものではない。ダイナミックな部分でもきちんとコントロールが効いていて、溢れる豊かさを感じる。超絶技巧とはこういう人のことをいうのだろう。それでいて、その技術に溺れる感じはしない。演奏はどこまでも瑞々しく、新鮮である。
ムッソルグスキーの『展覧会の絵』もプログラムに上がっていたのだけど、これもリヒテルの演奏と比べると、差は歴然としていた。まあ、リヒテル、あのグールドを「催眠にかけるほど」だから、こういう比較は意味がないのかもしれないけど。
でも久しぶりのピアノの生演奏。その意味では十分に楽しめた。