yoshiepen’s journal

さまざまな領野が摩擦しあい、融合し、発展するこの今のこの革命的な波に身を任せ、純な目と心をもって、わくわくしながら毎日を生きていたいと願っています。

「エルピーダ経営破綻」にみる日本の製造業の落日

昨日のTwitter でも一番目にとまったものだったが、マスコミでも大きなニュースになっている。エルピーダが設立された1999年当時私はアメリカにいたので、これはてっきり台湾メーカーだと思い込んでいた。この破綻のニュースがあって初めて日本企業だと知った始末である。

NHKのニュース解説にもあった通り、破綻の原因は単に円高で韓国勢との価格競争に負けたから、あるいは震災、タイの洪水といったことだけではないだろう。それらは破綻の時期を早めただけで、遅かれ早かれ破綻は免れなかったに違いない。それは米国で鉄鋼業、電気機器産業が衰退、そして撤退していった経緯をみれば一目瞭然である。1980年代に米国の自動車、家電、オーディオ機器が日本、西ドイツとの競争に負けたことと、丁度今の日本の状況とが重なる。アメリカでは日本たたきが起き、私がロードアイランド州プロビデンスに滞在した1991-1992年には連日そういったニュースがメディアを賑わし、かなり厭な思いをしたものである。日本の家電は価格と信頼度の点で完全にアメリカ製の優位に立っていた。

1997年にアメリカの大学院に入った頃、家電を調達しようとしてそのほとんどが聞いたこともないメーカーのもので、日本製が高級品になっていることに驚いた。アメリカからアメリカ生まれの家電メーカーはとっくに撤退、弱小の海外企業に委託、生産する方式をとっていることを、後で知った。そのころはソニーパナソニック、シャープは高級家電の代名詞となっていて、消費者からの信頼も厚かった。

そして、今度は2006年から2007年にかけて、大学の研究員としてアメリカに舞い戻ったとき、韓国製のエレクトロニクス製品の多さにびっくりした。韓国製のものは1997年から2004年にかけてはそれほど大きなシェアをもってはいなかったが、たった2、3年でそこまで業界を席巻していたのだ。日本製の影が薄くなているのを、肌身で感じたものである。

1990年代アメリカにみられた「日本たたき」、あるいは「韓国たたき」の類いはまったくみられない。それはアメリカでは産業構造の転換がなされ、それが成功しているからである。製造業にかわってアメリカの中心になったのがハイテク産業で、アメリカはかっての製造業を中心とした産業構造をハイテク産業中心に転換し、それを成功させたのだ。マイクロソフト、アップルといった企業がその典型的な成功例といえるだろう。

そして今、産業はGoogleFacebookTwitterといったインターネットに軸足をおいたもの、つまりヴァーチャルなサービス業を中心としたものへと転換しつつあるのだ。

ソニーパナソニックが世界で売れなくなっている原因もそのあたりにある。日本は製造業に拘るあまり、産業構造の転換に乗り遅れてしまった。この件については北尾吉孝氏のブログに非常に正確は分析が載っている。そのポイントの一つが、「エルピーダに限らずどういう形であれ、やはりこれからも既に駄目になった産業の再起を図るのは大変難しく、時代の流れに棹さすものというふうに私は認識していますが、上記半導体とりわけメモリーチップの覇権について言えば今度は中国に移って行くと考えています」という箇所にみられる。彼の論点は以下である。

今回のように所謂「ポスト・インダストリアル・ソサエティ(脱工業化社会)」に相応しくない産業に血税を大量に費やして行くというのは全く持ってナンセンスです。
そうではなく、ポスト・インダストリアル・ソサエティにおける日本の産業構造というものを模索し、時代に相応しい産業を興して行くといった方向性が非常に大事なのであって、例えばエルピーダに投下された上記公的資金がiPS細胞(新型万能細胞)の分野に流れていたならば、どのような成果がそこに現れてくるのかといった楽しみを常に持つことが出来ていたことでしょう。

ここに集約されているように、エルピーダの問題は円高、震災が主たる原因ではなく、一重に「産業構造転換の失敗」に帰するものである。「ポスト・インダストリアル・ソサエティ」への転換に乗り遅れたからである。日本の後を追ってインダストリアル社会に突入した韓国もいずれその主要な産業の構造を遅かれ早かれ転換しなくてはいけなくなる。

問題はそれに早く気づき、ポストに備えることなのだが、日本の対応はその面でもまったく的外れとしかいいようがない。莫大な公的資金が救済に使われたことを思うと本当に腹立たしい。

エルピーダの出資者であるNECや日立等のみならず、かっては躍進する日本のエレクトロニクスの象徴だったソニーからして時代錯誤的な対応しかしていない。最近のブログ記事に「衰退著しいソニーテレビ部門とiOS搭載のアップルテレビ」というのがあった。ここでも飛ぶ取りを落とす勢いのアップルやサムソンに比して、ソニーの衰退が論じられていた。その象徴的出来事が「スタンダード・アンド・プアーズ(S&P)は8日、ソニー長期格付けを従来の「A-(マイナス)」から、1段階低い「BBB+(トリプルBプラス)」に引き下げた。」というニュースである。

成功体験があると人はそのときのやり方をそのまま踏襲し、変えない。でもそれを変えない限り、日本の復活がないのではないかと思う。それを担うのは年寄りではない。若い人たちに決まっている。