普段は午前10時なんて時間帯は家にいないのだが、冬休みということでこの放送(再放送)に出くわした。そういえば、一昨日立ち寄った書店でみたNHKのテキストにこういうタイトルがあったことを思いだした。このタイトルにムッときて、「高校で日本史を勉強した人なら天心を知らないはずないでしょ!」って思ったので、覚えていた。
この番組の案内人の一人、篠原ともえさんは岡倉天心をご存知なかったそうな。ど素人を専門家のアシスタントとして「使う」のはNHKの常套手段だけれど、これはあまりにも視聴者をバカにしている。この方、以前とはイメチェンをしたとはいえ、こういう番組の案内人としては「?」と思わざるを得ない。
最近は「仏像ギャル」なんてものがブームになっているらしい。それを受けての番組なのだろう。以下が番組の解説。
空前の仏像ブームです。京都・奈良では今日も、仏像ガールたちが古仏を求めて巡り歩いています。人はなぜ、仏像に魅せられるのでしょうか? 今回、私たちを仏像のふしぎな世界へ誘ってくれるのは、仏像修復の達人・籔内佐斗司さん。「寄せ木造り」「乾漆造り」などの複雑な古典技法を実演をまじえながらわかりやすく解説します。
起用された人といいこの解説といい、どうも「分りやすく」というのに主眼がおかれているらしい。
正規の案内人はタイトル通り彫刻家の籔内佐斗司だが、この方のことはまったく知らなかった。そういえば彫刻家そのものをあまり知らない。たしかに仏像といえば彫刻家の作品なんですよね。
岡倉天心については専門の研究者、茨城大学の小泉晋弥教授(茨城大学五浦美術文化研究所所長兼務)が解説され、また美術館への案内もされた。天心は自らが設立した東京美術大学を追われた後、日本美術院を上野に創設、その後ボストン美術館に招聘され、日本では茨城県五浦にアトリエを構えた。のちにその地に日本美術院を移した。茨城県五浦は天心が終生愛した地で、海を見渡す絶景の場所に彼の建てた「六角堂」があったが、それが今度の津波で流されてしまったという。現在復興計画が進行中のようである。
天心の功績は日本美術の価値を世界に知らしめ、それを保存したこと、横山大観を始めとする日本画画壇の中心人物を育て上げたことだけではなかった。仏像の修復、保存に尽力したこともそうだ。天心は奈良に日本美術院別館を造り、ひどく破損されたり破棄されていた仏像の修復をした。そのための人材作りもした。
天心はアメリカでは、とくに日本研究の専門家、そして学生の間では知らない人はいない。もちろんフェノロサの協力者ということもあったのだろうが、『茶の本』の著者としてより有名である。この本、もともと英語で書かれた(The Book of Tea, 1906)ものである。アメリカで原書を読んでそのあまりにもの流暢さに、心底驚いたものだ。一体どうやればこういう英語が書けるのかと、我が身をふりかえって真剣に悩んだりもした。アメリカ人でもこのThe Book of Teaと新渡戸稲造の『武士道』(これももともと英語で書かれたもの、BUSHIDO: The Soul of Japan)は広く知れ渡っている。日本研究者の間ではもちろん必読書である。日本人の方がかえって彼のことを知らない。
天心はわずか50歳で亡くなっている。私が興味をもったのは、九鬼周造が自身のことを天心の庶子だと思っていたという話である。どうも勘違いらしいのだが、でもそう思いたかった九鬼の心情を思ってしまう。