『姿無き仇討ち』、抱腹絶倒のお芝居でした!座長の若丸さん、副座長の剛さんの丁々発止の笑いの「闘い」が立っていました。若丸さん作だということで、すごい才能の方だと感心しました。なんど観てもきっとそのときどきで笑いのツボがかわっていて、楽しめるお芝居に違いありません。それぐらいの懐の深さを感じさせるものでした。8月に花園会館で観た『瞼に母』にも共通した懐の深さがありました。松竹新喜劇ばりなのですが、それが若丸さんというお若い座長さんの手になるのです。その上、舞台にそれを乗せれば、その座長さんと対等に張り合える副座長さん、そして他の座員さんたちがいます。それがなによりものこの劇団の強みです。最強劇団だとあらためて認識しました。最強ぶりが独りよがりでないところもスゴイ。常に目線は観客に向けられています。そのサービス精神!ここのところは実際に観劇しないと分からないと思います。
Evernoteに役名を控えていたのに消してしまい、以下記憶に頼っての粗筋です。
兄と兄嫁をその兄嫁に横恋慕した侍仲間の伝八郎に殺された真之介(若丸さん)は、仇討ちの旅をかけている。7年経ってやっと伝八郎(城太郎さん)とその弟、伝九郎(星矢さん)を見つけ出すが、逆に斬り殺されてしまう(ここの殺しのシーン、本来なら悲壮感漂うもののはずがどこかオカシかった。殺され川に突き落とされたたはずの若丸さんが何度も「再登場」するのです。お客さんの期待にしっかり応えておられました)。
真之介が突き落とされた川端べり。大工の虎が金貸しのおきん(ゆかりさん)と、おきんから借金に返済を迫られている姉妹との仲裁に入っている。おきんに姉妹の借金を肩代わりすると空約束をしてしまった虎。夕刻までに返済しないとおきんの入り婿にならなければならない。ぞっと寒気がする。このとき虎の背後には幽霊になった真之介の姿が。
姉妹を自分の長屋に行かせたので、虎自身は姉妹の家に帰っている。寒気がとまらないと思ったら、侍の幽霊が目の前に現れたので、ぎょっとする。はじめのうちは怖がっていた虎だが、幽霊の仇討ちの話とその失敗を聞かされて同情するようになる。その虎に、幽霊は彼の身替わりで仇討ちをしてくれないかともちかける。後金ではあるけれど、20両をその仇討ち代として渡すという。なにしろ幽霊の約束なので、虎は信用できないでいる。ここでのお二人の掛け合いも絶妙でした。若丸さんがお上手なのはもちろんなのですが、剛さんがここまで「喜劇」がハマる方だとは。あの真面目なお顔でのこの演技というところが、秀逸でした。
約束の時刻になったので、おきんが訪ねてくる。虎に執拗に迫っているところに、幽霊が現れる。ホウホウの体で逃げ出すおきん。虎は幽霊の真之介に感謝。「幽さん」のためにその仇討ちを引き受けるという。おきん役のゆかりさんの演技も特筆ものでした。先日のお二人のこっけいな相舞踊を思いだしました。お客さんたちはお二人の掛け合いのツボが分かっているようで(残念ながら、私にはワカラないところがありましたが)、なんどもドッとわいていました。楽しい雰囲気の分け前をいただきました。
腰に慣れない刀をさし、仇討ちに出かけた虎。幽霊に誘導されてきた伝八郎一味を待っている。背後には白装束に着替えた幽霊の真之介。彼は虫が出るとそれを追うのに夢中になるので、虎は気が気ではない。一味と虎との対決のときも、彼らの間を縫うように虫を追いかけている。でも肝心なところでは、相手方の動きを「神通力」で止め、みごと虎に一味を討たせる。ここのところのあうんの呼吸、非常に緊密で、ものすごい稽古が積まれたことを窺わせるものでした。
幽霊の真之介と虎の別れの時がやってくる。このころになると虎も真之介に親しみを感じるようになっているので、少しセンチメンタルな気持ちである。それを捉えて、『千の風になって』のBGM。これが笑えました。20両の金はどこかその辺りに置いているので探すようにと言いつつ消えて行く幽霊。虎は探しまわった末にやっとその20両を見つけ出す。幽霊に感謝する虎。そこで再び「私のお墓の前で泣かないで下さい」のBGM。
近いうちにまた観たいと思うお芝居でした。