通勤には阪急を使うのだが、これがかなり苦痛である。朝は男性の服にしみついたタバコの臭いと口臭、体臭にうんざりするし、昼間に帰宅する電車では年配女性のおしゃべり、口臭(こちらは男性ほど当たる確率は高くないけれど)にうんざりである。宝塚に引っ越してくる前は通勤はJRだったのだが、こちらはもっとひどかった。口臭の強い人が多くて、電車内では二重にマスクをしていた。中年以上の男性、特に年配の男性の傍に座ったり立ったりするのを極力避けるようにしていた。混んだ電車にのると苦行を強いられる羽目になるので、1時間目のある日は6時台の電車に乗るようにJRではしていたし、今もそうしている。
アメリカでは歩いてキャンパスまで通っていたので、こういう「工夫」をしなくてもよかった。日本では通勤は痛勤である。ひどい口臭の人の「攻撃」を受けた日は一日気分が悪い。駅のトイレに駆け込んで、鼻と口を洗うこともある。
アメリカでこういうきつい口臭の人には出くわさなかった。もちろん電車に乗る場合、日本ほど混んでいることがないから厳密な比較はできないのだが、電車でこんなイヤな思いをしたことがない。
日本人は臭いに対して無神経な人が多いからだと思う。特に口臭。おそらく歯の治療を怠っているのだろう。ずっと以前にある大学で非常勤をしていたころ、控え室で一緒になるアメリカ人女性に「なぜ日本人は歯の手入れに無神経なの」と聞かれたことがあった。彼女は年に数回は歯石をとりに歯科医に通っているとのことだった。たしかに当たっていると思った。それからアメリカに行って、彼らが年に数回歯医者に定期検診に行くことを知った。口腔衛生にはきわめて神経質なのがアメリカ人である。
体臭にももちろん日本人以上に気を遣う。だから香水を付けている人が男女ともに多い。もっとも学生にはこれは当てはまらなくて、ときどき汗臭かったり、異臭がしたりする学生(もちろん男子学生)もいたけれど、それも日本の学生ほど多くはなかった。アメリカ人は普通朝晩と2回シャワーをするから、「臭く」なる暇がないのだと思う。
ビジネスマン、ウーマンは香水をつけていることが多かった。大学の先生でもそういう気遣いをしている人が少なくなかった。それはおそらく、ヨーロッパの人よりもアメリカ人の方がずっと臭いに敏感だからだろう。もちろん個体差はあるだろうが、全般的にそういう印象である。日本人のビジネスマンたちがアメリカ人と交渉したりするとき、臭いで損をしていることがあるのではないかと、いらない心配までしてしまう。若い人にはそういう「心配」はないだろうが、問題は中年以降の男性である。