yoshiepen’s journal

さまざまな領野が摩擦しあい、融合し、発展するこの今のこの革命的な波に身を任せ、純な目と心をもって、わくわくしながら毎日を生きていたいと願っています。

『アガメムノーン』(Agamemnon)@Broad Street Ministry in Philadelphia 9月5日

今日はレイバーデーで休日だったので、お芝居上演も休みが多かった。先日の記事にも書いたが、このギリシア悲劇の上演も "Live Arts Festival" という「ライヴ芸術祭」の一環であり、先日のシェイクスピアといい、このギリシア悲劇といい非常に意欲的な試みではある。

これはご存知のようにアイスキュロスのオレステイア三部作の一つで、このあとに『供養する女たち』『慈しみの女神たち』と続く。紀元前458年に成立したそうである。*1 このプロジェクトでは来週、再来週とこのあとの2作品を上演することになっているという。通しでは17日のこのフェスティバルの最終日に上演があるということだった。もちろん帰国しているので、みることはできない。

非常によく知られた悲劇で、このあとの復讐につぐ復讐劇の発端になる事件が描かれる。もともとの事件は妻の絶世の美女ヘレンをトロイア王パリスに奪われたスパルタ王のメネラオスがオデュッセウス、そして兄のミュケーナイ王アガメムノーンとともにトロイアに攻め込んだ戦争である。あのトロイの木馬で有名なように、ギリシア軍の勝利に終わった。しかし大きな遺恨を残した。出航したアガメムノーンの艦隊は当初風に邪魔され前進できなかったので、娘を生け贄として女神に捧げる。これを恨みに思った妻のクリュタイムネーストラーがその愛人とともに帰国したアガメムノーンと彼がトロイアから連れ帰った捕虜のカッサンドラー(パリスの妹)とを殺害する。

三部作の第一部になっている『アガメムノーン』では戦争の発端とアガメムノーンの帰国、妻の出迎え、そしてカッサンドラーによる悲劇の予言と嘆き、館に入ったアガメムノーンとカッサンドラーの殺害へと続く。最後にクリュタイムネーストラーが愛人とともに現れ、この殺人が娘の復讐であったことを高らかに告げて終わる。

このあとアガメムノーンの息子のオレステスは姉のエレクトラと結託して母のクリュタイムネーストラーとアイギストスを殺す。この父のための「母殺し」が「エレクトラ・コンプレックス」といわれる所以である。

会場になったのはふつうの劇場ではなく教会だった。二階部分が回廊になっていてそこから舞台になるスペースを見下ろすようになっているのだが、それをうまくつかった演出になっていた。もちろんいわゆる「照明装置」のたぐいはまったくない。昔の舞台はかくばかりかというような造作で、それはとても新鮮だった。

ただ、役者たちはスクリプトを手にそれを読みながら演じていたので、本当の芝居とはいえない。朗読劇に近いかもしれない。これはこれで新しい試みだったのだろう。ちょっと不満は残ったけれど。

観客は役者たちともお互いにも知り合いのようで、このフリンジでの演劇上演のプロジェクトがある程度の期間を経て定着しているのが分かった。プロ中のプロの役者から素人に近い役者まで色々な層を巻き込んでの企画で、それゆえに役者と観客との間の垣根が低いのだろう。それがこういうフリンジでの上演の魅力でもある。この点でも大衆演劇を連想してしまった。こういうのが演劇の原点だと思う。入場料はわずか10ドルだった。

*1:http://ja.wikipedia.org/wiki/オレステイア