yoshiepen’s journal

さまざまな領野が摩擦しあい、融合し、発展するこの今のこの革命的な波に身を任せ、純な目と心をもって、わくわくしながら毎日を生きていたいと願っています。

芸能百花繚乱「“東海道四谷怪談”〜忠義と欲望の果てに〜」NHK eテレ

8月15日(月曜日)の芸能百花繚乱は『東海道四谷怪談』(1825)だった。鶴屋南北作であり、『仮名手本忠臣蔵』(1748—1749)の外伝として書かれたものである。

歌舞伎ソムリエのおくだ健太郎さんの非常に丁寧、詳細な解説がついていた。いままでの撩乱番組の中で、もっとも分かりやすい解説だった。とくに当時の江戸の街を川中心に図示したのは、当時の江戸っ子のような予備知識をもたない現代の視聴者にはとても役立った。神田川に流されたはずのお岩と小仏小平を裏表に打ち付けた戸板が、隅田川を横切り支流の小名木川に流れ込み、そこで夜釣りをしていた伊右衛門のもとにやってくるという設定は、当時の川の地図なしではピンと来ない。また、『忠臣蔵』とのテーマの枠組み、人物の絡みも懇切丁寧に示されたので、作者南北の新しい狂言スタイルへの挑戦の試みもすんなりと理解できた。

南北の「新しさ」はいろいろな人が言ってはいる。その奇抜な斬新さ、とくに『四谷怪談』にも登場する「戸板返し」、「提灯抜け」といった意表を付く工夫を、またその退廃的な雰囲気を特色としているのは事実である。また伊右衛門に代表される「色悪」という人物造形を創りあげたのも演劇史上大きな功績だろう。今日の解説は、そういう南北の特色を表す映像場面を重点的に示されたので、分かりやすかった。

今日放映された『四谷怪談』の配役は以下だった。

民谷伊右衛門…松本 幸四郎、お岩…中村 勘三郎、直助権兵衛…片岡 仁左衛門、宅悦…市川 左團次、お梅…市川 染五郎、お袖…片岡 孝太郎、伊藤喜兵衛…片岡 芦燕、後家お弓…中村 吉之丞、四谷左門…松本 幸右衛門

何年上演のものかを控えなかったのだが20年くらい前のものだと思う。

私自身は残念ながら『四谷怪談』をみたことがない。私が頻繁に歌舞伎に通っていた頃にはあまり舞台には乗っていなかったのだろう。これだけの舞台装置をそろえるとなると大変だろう。1994年中村勘三郎率いる「コクーン歌舞伎」*1で演じられたのだが、そのときは見損ねて残念だった記憶がある。このときはいろいろな仕掛けを使ってのもので、大評判になっていた。

昨日スーパー兄弟の『明治一代女』をみた際、お梅の巳之吉殺害場面が南北の『かさね』を思い出すと書いたのだが、この『かさね(色彩間苅豆)』と『桜姫東文章』のみが南北でまとまってみた記憶のある演目である。どちらも南北ならではの退廃美に満ち満ちたものだった。この二つにせよ、『四谷怪談』にせよ、退廃美の奥には南北の時代への屈折した心理があったのではないだろうか。それは怪異小説を書いた上田秋成にもいえることだけど。

*1:http://ja.wikipedia.org/wiki/コクーン歌舞伎