yoshiepen’s journal

さまざまな領野が摩擦しあい、融合し、発展するこの今のこの革命的な波に身を任せ、純な目と心をもって、わくわくしながら毎日を生きていたいと願っています。

姫神『神々の詩(海流バージョン)』

先月、新開地劇場で公演中の橘菊太郎劇団の舞踊ショーでかかった曲がずっと気になっていた。今月の朝日劇場でもかかったので、控えた歌詞をネットで検索してみたけれど、ヒットなし。ところがラッキーなことに、先日劇団でいただいたDVDにこの舞踊が入っていることが分かった。『橘劇団、橘大五郎歌手デビュー「時薬」発売記念特別公演』を録画したDVDだった。

そこでiPhone 用のアプリ、Mobion Music をダウンロードした上でこの曲を確かめたところ、姫神の『神々の詩(海流バージョン)』だと判明した。ネットでこの曲を検索してみて、多くの人がこの曲に感動していることが分かった。この曲を舞踊に使われた大五郎さんのセンスのよさに改めて感心した。

私ははじめこの曲は『Ghost in the Shell 』のテーマ曲を作曲した芸能山城組の手になるのかと推測して、アマゾンの視聴を使って芸能山城組の曲をあれこれ聴いてみたが該当曲はなかった。シンセサイザーを使っているところ、合唱がはいっているところ、民謡っぽいところ、なにか太古の昔を偲ばせるところ等てっきりこの芸能グループの創作だとおもったのに、とてもがっかりした。

だからiPhone のこのアプリがなければ、いまだにいろいろ当たってはがっかりするの繰り返しだったと思う。ありがとう、Mobion Music さん。もつべきものは最適アプリです。Youtube にもアップされている。

新開地でもそうだったけれど、DVD中でも遥かなる昔の神秘的な雰囲気を出すのに、様々な工夫がなされていた。まず衣装。(大五郎さんを除く)劇団員総勢がシンプルな片身が薄桃色の白い着物に笠をかぶった衣装。笠を目深にかぶっているので、顔はほとんど見えない。そして踊りもそれにあわせて、きわめて単調な弧をなぞる線状の踊りと正面を向いての踊りの組み合わせで、盆踊りを思わせる振りも極度に単純化されている。

そこに村娘風の、それも大原女や茶摘み女のような仕事着姿のめぐみさんが登場。黄緑の着物に赤い襷がけ、赤い蹴出しが見えている。背中には花笠。彼女が途中から群舞に合流するのだけど、群舞に入る前の踊りが完璧にナンバになっている。右手が出るときは右足が前に出て」、左手の場合は左足が出ている。この踊り方も、私たちの身体に入っている動きの先祖還りであり、いにしえの記憶を呼び覚ます。日本人の原型のようなかわいい娘の踊りはのどかでいて、どこか哀しげにもみえる。もう永遠に失われてしまった日本のイノセンスの象徴でもあるから。娘役のめぐみさんのどこか頼りげない様子、群舞に入り込もうとするのにまるで拒否されているかのような姿にも、私たちは自分を重ねてしまう。めぐみさんの踊り/演技は秀逸である。他の人だとここまでしっくり来なかったと思う。

歌詞が気になったのでネットで調べたら、なんと「縄文語」をイメージしたものだという。このサイトによると国立民族学博物館の崎山理教授の指導を仰いだということだが、崎山先生は南方語の権威だから、かなりきちんとした歌詞のはずである。歌詞は以下のようになっている。

(私の名前はマポ)
アバ ナガ マポ
(私は赤い着物が好きです)
アバ アカキ コロモボ コノミブム
(私は弟が泣くので彼を抱きます)
アバ オト ガ ナグリブドゥ エイボ ムンダクリブム

(私の名前はマポ)
アバ ナガ マポ
(私に祖母と父と母と兄と弟がいます)
アニ ノノ ト アヤ ト イネ ト 
イエ ト オト シブイブム

(私の名前はマポ)
アバ ナガ マポ

カタカナ部分が歌われている部分で、あとはその訳である。とっても単純な歌詞で、これを何度も繰り返すのだ。別の人のサイトにこの名前をなんども繰り返すことに注目した言及があった。このうら若い女性と思われる語り手が何度も自分の名前を言うのは、古代に名前を名乗るということに特別な意味があったからだというのだ。

そういわれてみれば、まさしくその通り。万葉集の巻一、冒頭に収められている雄略天皇(418-479)の歌があるが、まさにそこに「名を名乗る」ことの意味が明示されている。

籠もよ み籠持ち 堀串もよ
み堀串持ち
この丘に 菜摘ます子 家聞かな 名告らさね
そらみつ 大和の国は おしなべて われこそ居れ
しきなべて われこそ座せ 
われこそは告らめ 家をも名をも

これは雄略が丘で菜摘みをしている美しい少女をみそめたときの歌ということだが、その少女の名前を聞き、自らも名乗っている。名を名乗るということは自身を相手に曝け出すということでもあった。この場合は求婚ということになる。雄略期は縄文よりははるかに新しい時代だが、この時代の「名乗り」の意味をそのまま縄文にあてはめてみるのもそう無理な話ではないと思う。

そう想像しながらこの曲をバックにした舞踊を観ると、めぐみさんという菜摘娘の紡ぐ物語が浮かび上がってくる。

追記
コメントをいただきました。「Ghost in the Shell」の作曲は川井憲次さんです。訂正しておきます。