yoshiepen’s journal

さまざまな領野が摩擦しあい、融合し、発展するこの今のこの革命的な波に身を任せ、純な目と心をもって、わくわくしながら毎日を生きていたいと願っています。

梅枝が本領発揮した『神霊矢口渡(しんれいやぐちのわたし)頓兵衛住家の場』in 「十二月大歌舞伎」@歌舞伎座 12月4日夜の部

作は福内鬼外とあるけれど、平賀源内のペンネームだとか。

全編義太夫語りに乗りながらの狂言。これがどれほど難しいことか。それを「新米」の梅枝が見事に演じきった。素晴らしかった。「歌舞伎美人」から「配役」と「みどころ」をお借りする。

<配役>

渡し守頓兵衛
娘お舟
傾城うてな
下男六蔵
新田義峯

松緑
梅枝
児太郎
萬太郎
坂東亀蔵

<みどころ>

極悪非道の父に立ち向かう娘の恋心

 六郷川の矢口の渡し。渡し守の頓兵衛は、足利と新田の争いで褒美の金欲しさに足利方の手先となり、新田義興の溺死に加担した強欲者。ここへ、義興の弟義峯が恋人である傾城うてなと訪れ、偶然にも頓兵衛の家に一夜の宿を乞います。頓兵衛の娘お舟は、気品あふれる義峯にひと目惚れ。義峯に恋心を明かします。一方、義峯の素性を知った頓兵衛は、再び金目当てに、その命を狙いますが…。
 江戸時代に多分野で活躍した才人、平賀源内が「福内鬼外」のペンネームで描いた浄瑠璃の傑作。父頓兵衛の強欲非道ぶりが、娘お舟の悲恋を一層際立たせます。

何度も見ているはずなのに、なぜか今回の『矢口渡』は新鮮だった。おそらく演者が若返った所為だろう。とくに児太郎の全身を使っての演技が、目に焼きつくものだった。前に見たとき、こんなにも大仰な所作が多かったのだろうか、記憶にない。 

まず、義峯の男ぶりを見て一目惚れ、宿を貸すことにする場面。一目惚れがありありとわかる所作、客席から笑いが漏れる。可愛いけれど可笑しい(そういえば、児太郎もそう)。如何にもという「あざとさ」、でも若手女方が演じるとそれが魅力になる。

亀蔵(初代亀寿 )の義峯もきっちりとした役の造型に好感が持てる。兄の彦三郎(五代目亀三郎)も同じく折り目正しい演技である。『吹雪峠』で梅枝と組んでの迫力ある芝居は忘れられない。

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この兄弟は派手な役者揃いの音羽屋では地味な扱いだけれど、実のある芝居をする役者であり、もっと前に出て欲しい。

そして、児太郎。グッとlow profileにしていても何しろ柄が大きいので(それをあまり隠さないので)やっぱり目立つ。でもクライマックス部での梅枝の激情の前にはちょっと霞んだ感があった。

この二人、このあとすぐに『白雪姫』での野分の前と鏡の精として出番がある。やはり若いからだろう、『白雪姫』では疲れを気振りも見せずに大熱演。客へのサービス精神に脱帽した。そして、この『矢口渡」が新鮮な感じがした理由もわかった。役者が若く、演技が旧歌舞伎調でなかったからだと。