yoshiepen’s journal

さまざまな領野が摩擦しあい、融合し、発展するこの今のこの革命的な波に身を任せ、純な目と心をもって、わくわくしながら毎日を生きていたいと願っています。

『本朝白雪姫譚話(ほんちょうしらゆきひめものがたり)』in「十二月大歌舞伎」@歌舞伎座12月4日夜の部

随分以前に「俳優祭」での上演があったらしいが(データベースには載っていなかった)、この『白雪姫』はそれとは違った形、内容になっているようである。玉三郎が中心となって、グリム原作を下敷きに歌舞伎にしたということ。竹柴潤一、脚本坂東玉三郎 補綴となっている。

玉三郎の「解説」(筋書)では、「原作よりも母親と鏡の精との関係に意味を持たせ、長唄、義太夫、箏曲を取り[原文ママ]入れた音楽劇にすることにいたしました。ひとつのお楽しみとして、母親と鏡の精と三人でお琴を引く場面を加えています」となっている。玉三郎の音楽劇といえば『幽幻』が思い浮かぶ。あのオタッキー(?)な劇には閉口したけれど、この『白雪姫』は楽しめた。

フロイト的とういうか、精神分析学的な解釈を許す内容にもかかわらず、それを肩肘張らないくだけた形に作り上げているところがよかった。なんといっても、原作では「継母」でなく「実母」となっているのをそのまま適用したのが、よかった。実母が娘を疎ましがり、いじめ抜くという方がずっとリアリティがあるじゃないですか。みている間、例の前皇后の仕業が白雪姫母の野分の前に重なってしまって、腹立たしかった。

と同時に、児太郎のあまりにもの憎たらしさに、滑稽感もあった。こういう役、児太郎は大好きと見えて、実に嬉々と演じていた。「二番ではダメ、一番でなくては」という野分の前のキメ台詞も例の二重国籍の議員と重なってしまった。政治的意図は制作側にはないだろうけれど、でもみている側がそう読み込んでしまう現在の状況があり、なかなか隅に置けない内容だったような。

音楽劇ということで、花柳壽應・花柳壽輔さんたちが玉三郎と共同で演出・振付をしている。七人の小人を演じた子供たちの舞踊も振り付けられたのだろう。とても揃っていた上にきちんと日本舞踊になっているのに感心した。

作曲は杵屋巳太郎、川瀬露秋、金子操由寛、そして作調が田中傳左衛門さん。「作調」って、総指揮者ってこと?舞台前面と奥との間に紗幕があり、奥には琴、三味線、鼓の演奏者が多数打ち揃い、義太夫の太夫もそこに加わっていた。これは『幽幻』の際の大人数の太鼓打ちを思い出させた。ただ、ずっと効果的に演出されていた。きちんと意味のある構成になっていた。

さて、「歌舞伎美人」から「配役」と「みどころ」をお借りする。

<配役>

白雪姫
鏡の精
野分の前
輝陽の皇子
浦風の局
従者晴之進
家臣郷村新吾

玉三郎
梅枝
児太郎
歌之助
歌女之丞
彦三郎
獅童

 

<みどころ>

歌舞伎の美をまとう「白雪姫」

 その昔、とある名家の奥方である野分の前が、大層可愛らしい赤子を授かりました。白雪姫の誕生を皆喜びますが、母親である野分の前だけはつれない様子。白雪姫が美しくなるにつれ、自分の美しさが衰えていくのではないか疑心暗鬼になっていたのです。なだめる局たちの言葉にも耳を貸そうとしない野分の前が、何気なく奥殿の鏡に問いかけると、鏡の精が現れてその美しさを讃えます。これに気を良くした野分の前は、いつまでも鏡に自分の美しさを尋ねるのでした。
 十数年後、白雪姫はさらに美しい姫に成長しています。野分の前の不安は大きくなり、ついに鏡の精も白雪姫の方が美しくなったことを認めます。野分の前は白雪姫をやり込めようと琴の弾きくらべを行いますが…。
 家臣の郷村新吾は、いよいよ白雪姫をなきものにしようとする野分の前の命を受け、白雪姫を山中に連れ出します。姫を手にかけようとしたそのとき、新吾はそのあまりの美しさに心を打たれ…。
 『本朝白雪姫譚話』は、世界的に親しまれるグリム童話「白雪姫」を題材にした新作歌舞伎です。美しい白雪姫、その美しさを妬む母親、鏡の精や小人たちなど、原作に登場するモチーフを大胆に歌舞伎の世界にとり入れて展開する、新しい白雪姫の物語にご期待ください。

野分の前の白雪姫への嫉妬があまりにも理不尽ではあるのだけれど、でも実際には母と娘の関係が一筋縄では行かないことは、私自身が経験している。グリムの原作が優れているということだろう。グリム作品がフロイトの読みを許す所以である。

その理不尽さが滑稽にもなってしまうところを児太郎がうまく演じていた。彼がこういう役にぴったりなのは、『東海道中膝栗毛 歌舞伎座捕物帖』(2017)での釜桐女房お蝶役でも、また『幻想神空海』(2016) での春琴役でも証明済み。

お父上の福助もコミカルな役がうまいけれど、児太郎はそれにより迫力がかかる。何しろ柄が大きいから。

対する鏡の精を演じる梅枝は予想通りのうまさ。ちょっとした手の所作、身体のひねりが繊細で美しい。で、ところどころ向かい合った野分の前役の児太郎とずれる場面が。でもこれも二人それぞれの個性で、可愛いし、可笑しい。

玉三郎の白雪姫は二階席から見ても十分に美しかった。これなら野分の前は嫉妬するだろうと納得。それにしてもこの三方の衣装の豪華だったこと。特に野分の前は未だに皇居を占拠しているお方を思わせるとっかえ、ひっかえの衣装替え。松竹は太っ腹ですね。税金を使っているわけじゃないから、文句は言いませんよ、ハイ。

そうそう、家臣郷村新吾役の獅童がとてもスッキリといい味を出していた。べったり感がなく、さすが江戸前、そして萬屋。

とにかくすごく楽しめる狂言で、東京在住だったら何度も歌舞伎座に足を運んだのにと口惜しい。