yoshiepen’s journal

さまざまな領野が摩擦しあい、融合し、発展するこの今のこの革命的な波に身を任せ、純な目と心をもって、わくわくしながら毎日を生きていたいと願っています。

決め台詞「天河屋義平は男でござる」に痺れる「天河屋の段」in 『通し狂言 仮名手本忠臣蔵』(八段目より十一段目まで)@国立文楽劇場 11月5日夜の部

「天河屋義平は男でござる」は大衆演劇(旅芝居)で度々耳にしていた。ただそれが『忠臣蔵』由来だったとは知らなかった。お恥ずかしい。言い訳をするなら、『仮名手本忠臣蔵』を通しで見たことがなかったため。そうなんですね、あの決め台詞はここから来ていたんですね。昔の日本人の方がよほど現代人より文学教養があったということなんだと、改めて認識させられた。

上演された段は以下。

八段目 道行旅路の嫁入
    九段目 雪転しの段
               山科閑居の段
    十段目 天河屋の段
 十一段目 花水橋引揚より       
               光明寺焼香の段 

八段目から最後の十一段目まで一挙上演。国立文楽劇場での『仮名手本』の全編上演もいよいよ佳境。そして遂に終焉を迎えたわけである。「道行旅路の嫁入」と「山科閑居」という、『仮名手本』中、歌舞伎では最もよく上演される人気の段のすぐ後に、この「天河屋の段」が来ている。道理で飛ばされていたはずだと納得。でももったいない。この段をもっと頻繁にかけてほしい。浪速男の華とでもいうべき天河屋義平が登場するんですから。しかも、四十七士と同程度(?)に「男の中の男」という造型がなされているんですから。浪速男といえば例の「つっころばし」に代表される優男がその典型。でもこの義平は実にカッコいいんです。商人というより武士(魂を持った男)として描かれている。

私個人としては「忠臣蔵」物はさほど好みではない。テーマとなっている「忠義」が到底現代人に受け入れられるとは思えないから。でも、なぜか日本人には「忠臣蔵」物は人気があるんですよね。永遠にそうであろうと予想している。この日も週日にも関わらず観客数は多かった。もちろん年齢層は圧倒的に高い。でもその観客が、場面場面を喰入るように見ているのが印象的だった。眠り込んでいる人は少なかった。それで改めて思ったのが、「日本人は『忠臣蔵』が好きなんだ」という事実。おそらく若い世代もあと何十年かしたら同じように『忠臣蔵』にハマるのではないかと思った。そして、この「天河屋義平」のような人物に痺れるのだろう。

この段の「口」を語ったのは小住太夫で三味線が貫太郎。そして「奥」が靖太夫、三味線錦糸。その前の段の演者達に比べるとちょっと地味な感じが最初していた。でも中途からはノリに乗って圧巻だった。小住太夫、靖太夫共に若手ではあるけれど実力派。織太夫のような「派手さ」がない分、じっくりと聴かせる語りである。私の好きな太夫さんたち。だから余計にこの段にひかれたのかもしれない。清々しくも圧倒的な強さで迫ってくる語りを披露してくれた。大感謝!

筋書に新たな発見が。なんと国芳がこの段を描いているんです。それも丁稚の伊吾と義平倅の芳松が人形廻しで遊んでいるところを。吉田和生師の所蔵品で、今は文楽劇場に寄贈されこの九月まで文楽劇場で展示されていたらしい。残念ながら見逃している。次の機会を期待している。こういうアホの丁稚という役は歌舞伎、文楽共にしばしば登場するけれど、彼らは主役と同じかそれ以上に「人気者」だったらしい。納得。コミックリリーフ役、つまり道化役なんですね。

『通し狂言 仮名手本忠臣蔵』(八段目より十一段目まで)のあらすじと配役表を公式サイトからお借りし、アップしておく。

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