ちょうど6年前の7月に国立劇場でこの「葛の葉」を見て記事にしている。
葛の葉を演じたのは今回と同じく時蔵だったのだけれど、子供を抱いたまま筆を口にくわえて障子にあの有名な歌を残す場面は、今でも目に浮かぶ。時蔵の予想外の(失礼)達筆に感動したものである。
「歌舞伎美人」サイトから、この日の演者とみどころをお借りする。
女房葛の葉/葛の葉姫
安倍保名
信田庄司
庄司妻柵時蔵
萬太郎
松之助
吉弥
陰陽師の安倍保名に命を救われた白狐は、保名の許嫁である葛の葉姫に化けて夫婦となり童子という子をもうけます。しかしある日、本物の葛の葉姫とその両親が訪ねてきたことで、葛の葉は身を引く決心をします。そして葛の葉は、泣く子をあやしながら、家の障子に「恋しくばたづね来てみよ和泉なる 信田の森のうらみ葛の葉」という歌を書き残して、古巣の信田の森へと帰って行くのでした。
信田の森の葛の葉狐の伝説と安倍晴明の伝説をもとにした、早替りなどの技巧に富む親子の情愛あふれる作品です。
6年前にはさほどピンとは来なかった安倍晴明伝説。羽生結弦さんが「SEIMEI」を演じられてからは、俄然身近に。この葛の葉と保名との子供が晴明なんですよね。晴明が人間を超えた力を持っているのが、そこから解るわけです。
そしてこの日の「葛の葉」。やはり時蔵の書は素晴らしかった!たおやかで凛としていて、役者時蔵そのもののようだった。そういえば、6年前から一歳も年をとっていない感じっていうのは、一体なんなんでしょう?余談ですが、ご子息の梅枝があれほど力のある役者になっているのは、やはり血なんでしょうか。てな雑念とともに、舞台に魅入っていました。
保名の萬太郎はまだ若すぎる感があって残念。お父上の時蔵や兄の梅枝とは違い、立ち役者。これからの伸びに期待したい。
上村吉弥はさすがのツボにハマり方。上方女房役では1、2を争う女方だと思う。上方味たっぷりなんですよね。好きな役者さん。
この日、迂闊なことにオペラグラスを持ってくるのを忘れてしまい、仕方なく15年ぶりくらいに「イヤホンガイド」を借りた。プロ中のプロの方々の解説、やはり刺激的でためになる。思わぬ儲けものをした感じ。『芦屋道満大内鑑』の背景、全体筋を立体的に解説されたこの「葛の葉」のものが特に良かった。