yoshiepen’s journal

さまざまな領野が摩擦しあい、融合し、発展するこの今のこの革命的な波に身を任せ、純な目と心をもって、わくわくしながら毎日を生きていたいと願っています。

阿国さんが魅せてくれた京女の深情け『銀のかんざし』in 「咲之阿国祭り 劇団あやめ」@がんこ座 7月16日

『銀のかんざし』は元々松竹新喜劇の作品。以前に他劇団で見てあらすじを書いている。それを参考にして、この日のものを以下に。

ところは京都。井戸掃除の職人(きらら)が仕事を終え、依頼主の借家長屋の家主(千鳥)と井戸端で話している。職人が銀のかんざしを井戸底から見つけたという。二人の立ち話は、店子の髪結いのおかつ(阿国)とその亭主、静之助(猿之助)夫婦の噂話になる。清之助は腕の立つ大工だが、今では「髪結の亭主」の典型のような男。働かずにおかつに食べさせてもらっている。というのは表向きで、実際はおかつが清之助が他の女に「盗られる」のを怖れ、家の中に半「幽閉」状態にしている状態だと語る家主。おかつのあまりの清之助への偏執、独占欲に辟易した周りの人たち、二人を笑いものにしているという。

噂をすればなんとやら、そこへ現れたのが清之助。銀のかんざしをみて、それは自分がおかつに贈ったものだと取り返す。そこへおかつが清之助を探して現れる。散々家主に嫌味をいう。おかつと清之助の掛け合いから、清之助の母親までがおかつに追い返され、清之助の元の棟梁のところに泣きついたという。

おかつの髪結床も最近はめっきり客が減っている。というのも、おかつが本業そっちのけで清之助にかかりっきりなため。この場面のおかつ役の阿国さんの嫉妬心丸出しの清之助への執着ぶりは鬼気迫るものがあった。京都出身の阿国さんならではの京都弁がそれを煽る。しんねりとしていて、かつ深い。京女の美貌も生きている。

梳き子のおさよ(千鳥さん二役)の兄(きらら二役?)がやって来ておさよを連れ戻すという。客が減ったため、給金も払ってもらっていないという。家主も家賃を四ヶ月滞納されているという。それを聞いて驚く清之助。おかつもしぶしぶそれを認める。兄は一計を案じていた。清之助を元の棟梁のところでふたたび働かせ、さらには彼を母のもとに戻すというもの。もちろん清之助とおかつにはそれを隠し、表向きは二人が一ヶ月だけ離れて暮らすことを「提案」。おかつも折れる。亭主の「『預かり証』を取る」というおかつ。オカシイ。

松竹新喜劇的?善/悪が凄まじい対立を演じる西洋の演劇とはまったく違う世界。四世南北、黙阿弥が描く世界とも違っている。

清之助はそういう「企み」を知らずにおかつと別れ、実際は元の棟梁のところに戻る。棟梁は清之助がおかつと一緒になるのに反対だったので、おかつが無理に清之助を辞めさせたのだった。

減っていた客も戻ってきて、おかつの髪結床は繁盛している。あれから一ヶ月経ち、清之助が戻ってくるのを楽しみにしているおかつ。ところが実際には清之助が元の棟梁のところで働いているという情報を、豆腐屋(音声のみ)が漏らす。そんなはずはないと打ち消すおかつだが、心配になる。それのみならず、元の棟梁が清之助を別の女と結婚させようとしていると聞き、確認のため出て行く。

おかつの狂暴な怒りを怖れたおさよ、逃げ出そうとしたところにおかつが戻る。おさよは問いつめられて、清之助を巡る陰謀、そして清之助に縁談が持ち上がっていると白状。それを聞いたおかつ、一升瓶にどんぶりでやけ酒をあおる。酔った勢いで剃刀を持ち出し、棟梁のところへと飛び出して行くが、連れ戻されてしまう。挙げ句の果て深酒がたたって、眠り込んでしまう。

そこへおさよ兄と清之助が戻って来る。おかつが剃刀を持ち出して「なぐりこみ」をかけたと聞かされた清之助。おさよ兄に抗議する。ここからが最大の魅せどころ。清之助は寝ているおかつを起こす。おかつは清之助をみて、またもや大騒ぎ。そのおかつに向かって、清之助は「おまえだけがわしの女房や」と愛の告白をする。清之助にすがって大泣きするおかつ。清之助はおかつが清之助を足止めするため作った銀のかんざしを胸に刺した藁人形を高く上げて、ここまで深く惚れられた男冥利を説く。

この最後の場面、ほろりとします。さすが藤山寛美の名作!しんみりとオモロく、かつ悲しい。猿之助さんと阿国さんの息のあった演技が光っていました。また、おさよを演じた千鳥さんのツボにハマった演技が良かった。4日の『夏祭浪花鑑』での彼女の義平次の役が鬼気迫っていて、団七ならぬお七役の阿国さんとの「ワタリ」に凄みがありましたことを、思い出しました。

「阿国祭り」ということでこのお芝居を阿国さん自身が選ばれたとか。演出によっては思いっきり過激に女の嫉妬を描く手法もアリでしょうが(それによって喜劇味は増すでしょうが)、彼女の場合は、もっとその抑えようとしても抑えきれない自らの嫉妬心に苦しむ女の心理を描いているように感じました。こちらの方が数段難しいでしょう。 

劇団員の人数が限界を超えて少ない劇団あやめ。六人!投光まで自分たちで担当されているんです。それでこのクオリティの高さですからね。頭が下がります。全員が(新入り半年のウランさんまで)芸達者であることが必須条件になります。だから、みなさんうまい。

「阿国まつり」ということで、阿国さんの舞踊曲名を以下に。歌舞伎を意識したものがいつも多い。阿国さんはあの藤間紫さんのお弟子さんだとか。道理で舞踊が素晴らしい。

「おさん茂兵衛」

大店商家の奥方の着物で。考証が完璧。

 

ミニショーラスト

「安宅の松風」ご存知『勧進帳』

弁慶=阿国、義経=きらら、そして冨樫を猿之助座長という配役で。女弁慶が素敵でした。

「Haru Koizakura」きららさんとの相舞踊

お二人とも唐風のひらひら衣装で。この最後にも人形振りを入れられました。阿国!

ラストは「曽我兄弟」の仇討ちを歌舞伎仕立てで。

十郎=阿国、五郎=きららの配役、そして工藤祐経はもちろん猿之助座長。

 

古典的なところをきちんと踏まえつつ、新しい工夫もいっぱいあるワクワクする舞台だった。 必見!

 お昼の部は数席の空きしかなかった。2枚の大入り。あちらこちらで「おくにさん」コールがかかっていた。