yoshiepen’s journal

さまざまな領野が摩擦しあい、融合し、発展するこの今のこの革命的な波に身を任せ、純な目と心をもって、わくわくしながら毎日を生きていたいと願っています。

しみじみと「懐かしい」感のある『壺坂観音霊験記』@国立文楽劇場 1 月14日

お里の夫への愛と強い信仰心は、やはり心を打つ。観音の霊験を受けて、ついには夫の目が見えるようになったというハッピーエンドも、ホッとするしうれしい。

 

以下に平成25年5月の「赤坂花形文楽」でのこの演目チラシをアップさせていただく。

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赤坂花形文楽チラシ

 あまりにも有名な「三つ違いの兄さんと」

「懐かしい」というのは、「三つ違いの兄さんと」のフレーズがあまりにも有名だ(だった)から。この人口に膾炙した台詞はお里のもの。かっては誰でも知っていたこのフレーズ、現代では(私も含めて)親しんだ人はいないだろう。前後を入れると以下になる。

モ父様や母様に別れてから、伯父様のお世話になり、お前と一緒に育てられ、三つ違ひの兄さんと言うて暮らしてゐるうちに、情けなやこなさんは、生まれもつかぬ疱瘡で、眼界の見えぬその上に、貧苦にせまれどなんのその、一旦殿御の沢市様。たとへ火の中水の底、未来までも夫婦ぢやと、思ふばかりかコレ申し。

これは夫の沢市が、彼女が夜な夜な外出するのは好きな男に会い行っているからと邪推、「それなら別れてくれ」と言ったのに対しての、お里の返答。二人が従兄妹同士で、幼い頃から一緒に育ったことがわかる。「懐かしい」というのは、この二人の仲でもある。しかも舞台は観音霊場の寺として有名な奈良の壺阪寺。観音の慈愛は懐かしくもある。

しみじみとした夫婦愛にほっこりする

封建体制中での主への忠義でも、大義への殉教・殉死でもなく、夫婦のしみじみとした愛を描いている点も、懐かしい。好きな狂言の一つ。大衆演劇の(今は解散してしまった)伍代孝雄劇団のお芝居「お里沢市」で見て、圧倒された。沢市を孝雄座長、お里を三河家諒さん。演技派のお二人らしい、しっとりした狂言になっていた。歌舞伎では2003年、松竹座の『壷坂霊験記』。沢市=我當、お里=秀太郎という配役だった。上方感が充溢した舞台だった。ただ、歌舞伎にはあまりかからないようである。大衆演劇でもおそらくあまりかからないのでは。難しいからだと思う。それと、現代では例の名台詞を知らない役者、客がほとんどだということもあるかもしれない。以下に主要な演者一覧を。

人形

  吉田玉也 (沢市)

  吉田勘彌 (お里)

  吉田玉峻 (観世音) 

  桐竹勘二郎(茶店の嬶)

太夫・三味線

 土佐町松原の段

  豊竹亘太夫 

  鶴澤清允 (三味線)

 沢市より山の段

  豊竹靖太夫

  野澤錦糸 (三味線)  
  豊竹呂勢太夫

  鶴澤清治(三味線)

  鶴澤清公(ツレ)

 

浄瑠璃・呂勢太夫と三味線・清治の最強コンビ

呂勢さんがすばらしい。あの彼独特の高音が復活していて、うれしかった。清治さんの三味線も、微妙な緩急と強弱のつけ方が独特で、さすが人間国宝!この二人の演奏は、ずっと聴いていたい。豊竹靖太夫・野澤錦糸のコンビも、もう中堅の上。演奏も安定していた。そして何よりも、人形遣いの面々が若返りが印象的だった。舞台いっぱいにパワーが満ちていた。