yoshiepen’s journal

さまざまな領野が摩擦しあい、融合し、発展するこの今のこの革命的な波に身を任せ、純な目と心をもって、わくわくしながら毎日を生きていたいと願っています。

味方玄師シテの能『花筐〜筐之伝〜』in 「京都観世会館60周年 第60回京都観世能 第二日目」@京都観世会館 10月28日

記念公演ということで、なんと能が四本!申し訳なかったけれど、最後の『石橋』は失礼した。残念だったのだけれど、疲労の極限だったので。前週の第一日目を見ていないのも残念。体力と財力とに余裕があれば(なにしろ二等席で一万円ですから)、両日見たかった。 

味方玄師シテの『花筐』は隅々まで行き届いた演技がパーフェクトだった。満足度も最高。味方玄師は修羅物を最近みる機会が多かったし、それらもすばらしかったのだけれど、こういう狂女ものもさすがの演技だった。見ている間、「そう、そう!」を心の中で連発していた。ゆっくりと流れるような演技も、静止するときの身体の内にエネルギーを貯めるポスチャーも、共に念が籠められていて、猛烈な磁力を感じた。ひき込まれて、気づかないうちに時間が経っていた。

当日の演者一覧を以下にアップする。

シテ 照日前      味方玄 
子方 継体天皇     味方慧

シテツレ 照日前侍女  田茂井廣道
ワキ 天皇臣下     宝生欣哉
ワキツレ        平木豊男

            野口能弘

            坂苗融

笛           杉市和

小鼓          成田達志
大鼓          谷口正壽

前半は静謐な空間の中で展開する舞台。ほとんど動きがない。天皇に手紙で別離を告げられた照日の前の嘆きも静かに表現される。悲しみをひたすら身内に秘めて佇む照日の前。後半になり、それが花籠を打ち落とされたところから、俄然動きが出てくる。照日の前の狂いの舞は、その前の静謐な空間と時間とがあって、より際立つ。 

とくに照日の前が、「漢の武帝と李夫人との悲しい恋の顛末」を謡に乗せて舞う場面は、それまで身内に納めていたエネルギーが解放されたかのような艶やかさ。このコントラストを極めて計算された身体の動きで表現された味方玄師。この「計算」は次の再会の喜びの舞にも及んでいて、狂いが抑制されたことで、より喜びが際立っていた。とことん研究され、つきつめられた所作。そしてそれを可能にする身体。味方玄師の舞台には、常にこれが存在している。「緩み」をご自身に許さないストイシズムを感じてしまう。姿勢を正して見なくてはならないような気にさせる。見ている側は緊張を強いられるけれど、見終わった後の感動もより強い。

小鼓、成田達志師、大鼓、谷口正壽師の取り合わせも、最高だった。なんとなく似た外見。演奏も同等に力強い。いつも聞き惚れる。

「能.com」からお借りした「あらすじ」と「みどころ」を以下にアップする。非常にわかりやすい解説だった。

<あらすじ>

越前国味真野(現在の福井県越前市味真野町周辺)に、応神天皇の子孫である大迹部(おおあとべ)皇子(男大迹皇子、男大迹邉皇子とも表記)が住んでいました。皇子は武烈天皇より皇位を譲られ、継体天皇(450?〜531?)となり、都へ旅立ちました。帝は、味真野にて寵愛していた照日の前に使者を送り、手紙と愛用した花筐(はながたみ:花籠のこと)を届けます。出先で使者を迎えた照日の前は、天皇の即位を喜びながらも、突然の別れに、寂しく悲しい気持ちを抑えられず、手紙と花籠を抱いて、自分の里に帰りました。

大和国玉穂の都(現在の奈良県桜井市池之内周辺)に遷都した継体天皇は、ある秋の日、警護に当たる官人らを引き連れて、紅葉見物にお出かけになりました。そこに照日の前と花籠を持った侍女が現れます。彼女は、天皇への恋情が募るあまり、狂女となって故郷を飛び出し、都を目指して旅をしてきたのでした。狂女・照日の前が、帝の行列の前の方に飛びだすと、官人が狂女を押し止め、侍女の持つ花籠をはたき落します。照日の前はこれをとがめ、帝の愛用された花籠を打ち落とす者こそ狂っていると言い、帝に逢えない我が身の辛さに泣き伏してしまいます。

官人は帝の命令を受けて、照日の前に対し、帝の行列の前で狂い舞うように促します。照日の前は喜びの舞を舞った後、漢の武帝と李夫人との悲しい恋の顛末を物語りつつ、それとなく我が身に引き寄せて、帝への恋心を訴えます。

帝は、照日の前から花籠を受け取ってご覧になり、確かに自分が愛用した品だと確認し、狂気を離れれば、再び以前のように一緒になろうと伝えます。照日の前は、帝の深い情愛に感激し、正気に戻ります。この花筐以降、「かたみ」という言葉は、愛しい人の愛用の品という意味を持つようになったと伝えられています。かくして二人は、玉穂の都へ一緒に帰っていくのでした。

<みどころ>

古代の伝説から着想して、恋物語にしつらえた能です。「別離-狂い-旅-狂いの舞-再会-ハッピーエンド」という狂女物の能の典型的な構成ですが、曲柄としては、しっとりとした三番目物としても扱われ、帝へ恋慕を捧げる女性の気品、情趣が醸されています。

静かに佇み、手紙を読む照日の前の姿、都を目指して旅をする照日の前と侍女による掛け合いの謡、恋慕に浮かされたカケリの舞、帝の行列に行き逢い花籠を打ち落とされて嘆く照日の前の狂いの舞、ツヨ吟のクセの謡に乗せて漢の武帝と李夫人の悲恋を表す照日の前の舞、そして帝との再会を喜ぶ照日の前の晴れ晴れとした立ち居振る舞……一つひとつのパートに、よく練られた演出で特色のある謡や所作、舞が配置され、古代のおおらかで詩情に満ちた情景が、ふわりと描き出されています。それぞれ、じっくり楽しんでいただけることでしょう。