yoshiepen’s journal

さまざまな領野が摩擦しあい、融合し、発展するこの今のこの革命的な波に身を任せ、純な目と心をもって、わくわくしながら毎日を生きていたいと願っています。

劇団荒城『二人の藤太郎』@行田湯本温泉茂美の湯内「もさく座」 11月9日昼の部

お芝居はタイトルは違っても大衆演劇でよく見るお芝居だった。詳しい内容は書けないので、ごく簡単に人物像を。

藤太郎     秋太郎に殺された男

秋太郎     一宿一飯の義理で藤太郎を殺めてしまうが、藤太郎故郷の母の元で藤太郎になりすまし「親孝行」することになる。

藤太郎の母   今は盲目になっている

おきみ     藤太郎許嫁

土地の親分   おきみに横恋慕し、なんとか奪おうとしている

一家の子分   親分の言いなりのおばか集団

用心棒の侍   事実をバラすと藤太郎を脅迫し続け、金を巻き上げている

他劇団で見てきたものとの「差別化」が施されていた。用心棒の侍は亡くなった藤太郎と親しく、秋太郎が本当に「親孝行」をするかどうかを見届けるために、ずっと秋太郎に密着、彼を脅し続け、金をせびっていたという設定。最後に親分を「裏切り」、秋太郎に今まで巻き上げてきた金を返すというどんでん返しがある。こういうところに他劇団との「差別化」が認められますよね。

8月に見た川越で見た芝居と同じく、この用心棒の侍を演じるのは(もちろん)真吾座長。主役の(はずの)和也さんを完全に喰っていた。川越では最後にチョロっと登場、場をさらっていたけれど、今回のものでは最初から「思わせぶり」に出てくる。これがまた惚れ惚れするほどの器量に立ち姿。眠狂四郎のような美しさ。悪者一家に連なっている(イケメン揃いの)ご子息四人がお気の毒に見えるほど。もちろん主役の和也さんも影が薄くなってしまっていた。それでも和也さんの手堅いお芝居ぶりに感心したんですけどね。真吾座長のようなすごい人が横に立って、半端ないオーラを発散し続けたら、「誰も太刀打ちできないでしょ!」のレベル。周囲の人は大変だろうと同情してしまう。とはいえ、さすが荒城のメンバー。他劇団ならばその容色、技術共に座長になるレベルの高さの座員さんぞろいではある。それほどの彼らが、存在感、力量で自分たちをはるかに凌ぐ真吾座長に、「役者の粋とは何か」お手本を常々見せらつけられているのだ。大変だろうけど、すごい財産。この経験はやがて実ると確信できる。 

芝居で「さすが!」と感心したのが、リーズニングの付け方。普通の大衆演劇版では、秋太郎が親分一家と渡り合い、最後に皆殺しにするという設定がほとんどだったけれど、荒城版は違っていた。歌舞伎的に言うと、「実は…」の「世界転覆」を使っていた。悪者と思っていたら、実は「正義の味方」だった。用心棒という「狂言回し役」を登場させ、いささか陳腐な芝居内容を活性化する。こういうところ、さすが「芝居の荒城」だと納得。芝居の構成、展開が実に分析的なんです。

粋の極みの真吾座長、舞踊は若武者姿で「古城の月」を踊られた。こちらも惚れ惚れする舞踊。扇子の遣い方が綺麗なんですよね。手の表情も非常に能弁です。もちろん長身を活かした大きくダイナミックな所作も。帝王の風格、しかも父であって優しい。癒されます。存在自体が圧巻です。

そうそう、もう一点舞踊でよかったものは、冒頭の(曲がわからないのですが)美夕さんを中心にご子息の蘭太郎、月太郎さんが踊る連れ舞い。ちょっとジーンとしてしまった。

勘太郎さんが口上で、「女子高生(!)の団体さんのおかげもあり、大入りです」とアナウンス、そのまま大入りの手打ちになったのも、立ち会えてよかった。

この日は朝早いフライトで羽田到着。11時からの国立劇場歌舞伎を見る予定でチケットも取っていたのだけれど前日に急遽予定を変更、埼玉のこの地までやってきた。歌舞伎座の夜の部のチケットもとっていて、三番目の演目、猿之助主演の『法界坊』が始まる午後5時40分に間に合うように3時半に「もさく座」を後にした。真吾さんの舞踊がなんとか間に合ってよかった。

劇場サイトの情報では交通の便が今一つの感じだったけど、吹上駅からバスの便が結構頻繁にあり、乗車後7分ほどで「産業道路駅」に到着、そこから「茂美の湯」まで徒歩で10分程度だった。帰りの道中、上野駅までは1時間強かかり、そこから東銀座に出ての歌舞伎観劇は、もう若くない身にはかなりきつかった。でも行った甲斐はありました。観劇だけなら、料金が千円という安さなのにも驚きました。