yoshiepen’s journal

さまざまな領野が摩擦しあい、融合し、発展するこの今のこの革命的な波に身を任せ、純な目と心をもって、わくわくしながら毎日を生きていたいと願っています。

まるで不条理劇だった劇団荒城の『因果は廻る狂々(くるくる)と』@浅草木馬館 10月24日夜の部

まさに不条理劇。そのエネルギーの甚大さに圧倒された。以下、主要な配役一覧。ただし、劇団は初見に近いので、誤っているかもしれない。ご容赦。

人斬り十左  真吾

親分     和也

せむし安   勘太郎

おまち    美夕

佐吉(おまちの弟)  蘭太郎

「劇団荒城」のお芝居をまともに見るのはこれで3回目。前回は今年8月、川越公演で、初回は3年前にこの木馬館で。今日のこの芝居が一番長く、力作だった。おそらく真吾座長の創作だと思う。5時始まりで、芝居前編が約1時間。休憩を挟んで1時間弱の舞踊ショー。口上は勘太郎さんが5分程度され、そのまま芝居に。この時すでに7時半。そのまま2時間弱の芝居後編に突入した。終わったのが9時20分!意外だったのは、この超ナガーイお芝居、客受けは上々だった。帰りぎわ「良かった!」、「見た甲斐があった!」と多くの絶賛の声が聞こえてきた。ほとんどの人が最後まで残っていたのも、その証左だろう。私は実のところこのウルトラ・悲劇にちょっと辟易し、帰ろうとしたヘタレです。浅草のお客さんを見くびっていたのかもと、反省。「ここに『芝居の荒城』あり!」というメッセージを最もダイレクトに受け止めていたのは、観客だったんですね。私にとって、こういうのは大衆演劇の観劇では初めての体験だった。芝居の長さだけではなく、観客の「食いつき」ででも。

たしかに、洗練度という点から見ると荒削りではあったかもしれない。でも、地から湧き出るマグマのようなパワーがあるんですよね。それは他のジャンルの演劇にはない魅力である。こういう「原初的パワー」は今の整った歌舞伎の舞台空間には生まれにくいだろう。昼は歌舞伎座で歌舞伎の昼の部を見たところだったので、特にそう感じた。歌舞伎の昼の舞台も悪くはなかったのだけれど、あまりにも様式化された芝居、舞台にはこういう計算を超え出てしまうパワーの放出が起こりえない。

この芝居を見ながら感じていたのは、日本の古くからの舞台と「不条理劇」的なもの(今風「小劇場」ではなく)とのハイブリッドがここに現出しているということだった。それを眼の前で見ているのが、なにか不思議な感覚だった。芝居の背景を取れば現代にはなかなかありえない極端なものではあるのだけれど、でも可視化されないだけで実際には現代社会にも起こり得る状況である。「不条理」を、江戸という封建時代にその背景を置き換えることにより、可視化できる。「ひどい状況」の解説というか、「ことわり」は不要になるわけである。こういう風に封建社会を「使う」(用立てる)のは、ある意味「ずるい」のかもしれない。でも、それこそ古い時代を扱う芸能の特権ですよね。不条理を描くのに、現代を背景とするより、封建時代の方が観客によりリアルに伝わるのは確か。その極端が、誇張しなくてもすんなりと見る側に入ってくるから。

芝居は色々な題材のコラージュの様相を呈していた。『アーサー王物語』(「円卓の騎士」)に似ている。でも、まず思い浮かんだのが、主人公が傴僂であるということで、シェイクスピアの『リチャード三世』。その出自背景が原因で「人格的に障害あり」という点も、共通している。西洋的なもう一点は「ダブル」の扱い方。さらに、従来の大衆演劇の定番も多々あった。九州系の十八番である「人斬り」のモチーフ。もちろんヤクザ間の抗争のモチーフも。

荒城真吾座長はかなり言葉に対しての感性の高い人だろうと感じた。あえていえば「詩的言語」への想い入れが強い。セリフはかなり「クサイ」(詩的な)部分があって、これを他の人が喋ったら白けてしまうところ、彼が使うと「生きる」のですよね。演技力もそうだけれど、おそらく役者自身のレゾンデートルが透けて見えるからだと思う。

 もう一点、真吾座長の音へのこだわりも並大抵でないものがあった。とくにBGM。あのフューチャリスティックなアニメ映画『イノセンス』のBGM、「陽炎は黄泉に待たむと」が芝居冒頭でかかったとき、懐かしさがドッと押し寄せてきた。押井守と川井憲次のコラボの傑作が甦(黄泉)がえってきたようだった。草薙素子とバトーも。今気づいたのだけれど、このお芝居の下敷きの一つは『イノセンス』なのかもしれないですね。『リチャード三世』や『アーサー王』だけではなく。十左とおまちとの関係がバトーと素子のそれに重なるような気がする。

主要人物を演じた三人がとくによかった。真吾座長ももちろんだけれど、長男の勘太郎座長がせむし安の屈折した内面を描き出して、秀逸だった。おまち役の女優さんもとても綺麗な方で、演技もとてもよかった。前回見たとき、女優さんの出演がなかったのだけれど、今回は三人出ておられて、ほっとした。みなさん力演だった。

この木馬館公演、気合いの入り方がハンパない。演目一覧を見てぶっ飛んでしまった。連日で芝居を二本かけているんですよ。情報は

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今日は幕張メッセで開催される「IT EXPO」なるものに出かける予定だったのだけれど、木馬館に行くことになりそう。5時のフライトなので、最後まで見るのは無理で残念だけれど。