yoshiepen’s journal

さまざまな領野が摩擦しあい、融合し、発展するこの今のこの革命的な波に身を任せ、純な目と心をもって、わくわくしながら毎日を生きていたいと願っています。

気鋭リアム・スカーレット演出による英国ロイヤル・バレエ『白鳥の湖』in ロイヤル・オペラ・ハウス・シネマ2017/18@TOHOシネマズ西宮 8月29日

先々月、6月12日の舞台を映像化したもの。私がロンドンにいた期間に当る。6月初旬にロンドンに着いてすぐ、ロイヤル・オペラのサイトに入ってバレエ公演を調べたのだけれど、演目が『白鳥の湖』、しかも主ダンサーが日本人だと知って、予約しなかった。ロイヤル・バレエは2013年の来日公演(『不思議の国のアリス』)といい、昨年10月にロンドンで見た『不思議の国のアリス』(なんとアリスが来日公演と同じダンサー)と、失望していたので、無理にチケットを取ろうとは考えなかった。もっとも2015年に当地で見た『二羽の鳩』、また今年3月に見た『マノン』も良かったんですけどね。今回の『白鳥』がここまで「話題作」だったとは知らなかった。そういえば『マノン』も新演出ということで、隣席の方に感想を聞かれたんだった。ロイヤル・バレエにも新しい風が吹いてきているということだろうか。今ならポルーニンも辞めずに済んだ?

 

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今回のロイヤル・バレエ『白鳥の湖』については、TOHOシネマズのサイトに詳しいダンサー一覧と概説がアップされている。以下、それをお借りする。

白鳥の湖 | 「英国ロイヤル・オペラ・ハウス シネマシーズン」公式サイト

【振付】   マリウス・プティパ&レフ・イワノフ

【追加振付】 リアム・スカーレット&フレデリック・アシュトン

【演出】   リアム・スカーレット

【美術・衣装】ジョン・マクファーレン

【作曲】   ピョートル・イリイチ・チャイコフスキー

【指揮】   クン・ケセルス

【出演】   マリアネラ・ヌニェス(オデット / オディール)
       ワディム・ムンタギロフ(ジークフリート王子)
       ベネット・ガートサイド(ロットバルト:悪魔 / 女王の側近)
       エリザベス・マクゴリアン(女王)
       アレクサンダー・キャンベル(ベンノ:ジークフリートの友人)
       高田 茜 (ジークフリート王子の妹)

       フランチェスカ・ヘイワード(ジークフリート王子の妹)

各幕での主要踊り手たち

第1幕 ワルツとポロネーズ
ティアニー・ヒープ、 ミーガン・グレース・ヒンキス、金子扶生(ふみ)、マヤラ・マグリ、マシュー・ボール、ジェームズ・ヘイ、フェルナンド・モンターニョ、マルセリーノ・サンベ 

第2幕&4幕 2羽の白鳥
クレア・カルヴァート、マヤラ・マグリ

第3幕
イッツィアール・メンディザバル(スペインの王女)
メリッサ・ハミルトン(ハンガリーの王女)
崔 由姫(イタリアの王女)
ベアトリス・スティクス=ブルネル(ポーランドの王女)

 

2018年のバレエ界最大の話題作!
初日から絶賛の嵐を呼んだ31年ぶりの新プロダクション版!

チャイコフスキーの美しい旋律に乗せた、クラシック・バレエの不朽の名作がロイヤル・バレエ団によって、31年ぶりに新演出によるプロダクションに一新された!
従来の2幕の白鳥たちが舞う湖畔のシーンはそのままに、気鋭の美術家ジョン・マクファーレンによる絢爛たる舞台美術と衣装、弱冠31歳の振付家リアム・スカーレットの手によって新しい振付と設定が加わった。英国バレエ伝統の演劇性を強調した演出により、鮮烈で壮麗な愛の傑作が誕生した。

オデットとオディールの二役を演じるのは、ロイヤル・バレエを代表するトップ・プリマのマリアネラ・ヌニェス。気高く抒情的なオデットとトリプルも織り交ぜた32回転のグランフェッテなどの超絶技巧で魅惑的なオディールを演じ分けた。また悲劇的な運命の中で王子との愛に殉じる強い想いがあふれる姿は深く心を打つ。王子ジークフリート役は、優雅な立ち姿と長い手脚、伸びやかな跳躍が貴公子そのもののワディム・ムンタギロフ。ふたりの至高のパートナーシップも見もの。
新しい設定として加えられた王子の妹たちを、プリンシパルの高田茜とフランチェスカ・ヘイワードが演じ従来の振付よりも長く登場し、華麗な踊りも堪能できる。
白鳥たちの衣装は、従来の長いスカートからクラシック・チュチュに変更。眩い輝きを放つ絢爛豪華なプロダクションにドラマティックな陰影を加えたスカーレット版「白鳥の湖」。新たな伝説がここに始まった。 

 

演者でいえば、マリアネラ・ヌニェスとワディム・ムンタギロフのペアは、映像になった『ルグリ・ガラ』で見ている。「ジゼル」からパ・ド・ドゥを、そしてドンキホーテ」を二人で踊っていた。ロイヤル・バレエの最高位のプリンシパルだということだった。今回の『白鳥』では、王子役のムンタギロフが抜きん出ていた。スリムで脚が長い。そして踊り、特に第3幕でのフェッテ(回転)が秀逸だった。ヌニェスは私の好みでいうと、いささか筋肉質すぎるし、量感がありすぎる(ファンの方、ごめんなさい)。もちろんかのグランフェッテは素晴らしかったんですけどね。安定感もあり、技術的には最高峰であるのは間違いない。

 また、王子の妹役のフランチェスカ・ヘイワードは今年3月の『マノン』で主役を踊っていた。マノンの娼婦性を描き出すのにふさわしい、肉感的な体躯だった。また、踊りもダイナミックだった。モダンの方に向いた人という印象だった。

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高田茜、金子扶生のお二方は昨年8月の「パリ・オペラ座」と「ロイヤル・バレエ」の来日合同公演(於兵庫県立芸術文化センター)で見ている。高田茜さんは「バレエ・スプリーム」では失望したのだけれど、今回ははまり役だし、儲け役だった?踊りにキレがあり、美しかった。もう一人のアジア系ダンサー、崔由姫は例の失望した『アリス』で主役を張っていたダンサー。

今まで見てきたロイヤル・バレエの踊り手とは違ったダンサーがほとんどだった。しかもレベルが上のように感じた。特にコールド(群舞)での揃い方が見事だった。見るたびに、「ロイヤル・バレエでの群舞には揃うということを期待しない方がいいのね」と失望していたので、背負い投げにあった感じ。ロシア・バレエの専売特許である古典バレエ。そこではソロ、パ・ド・ドゥと同程度にコールドが重要だし、売り物なのだけど、ロイヤル・バレエはどちらかというとモダン系。そう感じていたので、今回は意外だった。個性を消滅させるというか、集団の中に溶け込ませることで、群舞は成功するように思っていたけど、今回の演出では、集団としても揃っていつつ、個も感じられた。それを確認できたのは、大スクリーンで大写しの映像を見ることができたから。群舞はオケピ近くの前列席で見ても、その特徴はつかめない。今回の映像の秀逸だったところは、群舞を執拗にあらゆる角度から撮っていたこと。とくに真上から鳥瞰図的に撮ったもの。中心部から上下、左右に円を描くように広がる群舞がダイナミック、かつ斬新だった。

演出のリアム・スカーレットが、映像化にも注文を付けたのだと思う。彼は、おそらく完璧主義者。今回の演出は画期的というか、革命的。あの(退屈な)『白鳥』がここまで意表をつく斬新に生まれ変わるのは、本当にオドロキ。その点で、古典とコンテンポラリーとの橋渡しをした演出だったように感じた。それも「神は細部に宿る」を地で行き、彼の思い描くアイデアルな姿に近づけるため、コールドでもダンサーひとりひとりの動きを細かく指導したに違いない。白鳥たちにチュチュを纏わせるように「指導」したのも、その表れだろう。また、群舞では今までのものとは違った流れ、編成にこだわり、そこに大きなムーブメントを発生させていた。個と集団との対比と融合とを、狙った演出は、今までの古典バレエのそれとは、方向性がまったく異なっているように感じた。

装置を手がけたジョン・マクファーレン(John Macfarlane)は今年、2月に見たMET ライブ・ビューイングのオペラ、『トスカ』の舞台装置の責任者だった人。聖アンドレア・デラ・ヴァレ教会の荘厳な内部をリアルに立ち上げた装置が、今でも眼に浮かぶほど圧巻だった。

今回の『白鳥』の背景も、王宮内の荘厳さを極めて写実的に描出していた。また、今までの『白鳥』では常態だった湖の光景は、王宮のリアリティとは対照的に、かなりアブストラクトに描き出されていた。特にそそり立つ岩を中心に持ってきたこと、また、背景を薄明かりがさすだけの闇にしたことで、不吉さが際立つ効果があった。私が感心したのは、このアブストラクトの方。幕間に彼が舞台背景の製作をところが映し出されているのだけれど、なんと、彼、背景をひとつひとつ筆で描き込んでいるんです。「僕は画家だから」というのが本人の弁。ものすごい時間、労力をかけての作業。感動してしまった。

最近立て続けにみたナショナル・シアターの演劇、ロイヤル・バレエのライブビューイング。演劇よりバレエの動員数の方が若干上回っているように感じた。もっとも、観客層は重なっているとはいえないだろうから、比較しても意味ないかもしれない。また、神戸、西宮の違いはあるのかもしれないけど。共通しているのは、以前より客が増えていたこと。ライブビューイングの認知度が高まっているのだろう。それに、現地に行かなくても、近くの劇場でチケット代金3600円で(これはMET、ロイヤル・オペラ、ロイヤル・バレエ、そしてナショナル・シアターで共通している)最新版の舞台を「見れる」というのは、非常にありがたい。