yoshiepen’s journal

さまざまな領野が摩擦しあい、融合し、発展するこの今のこの革命的な波に身を任せ、純な目と心をもって、わくわくしながら毎日を生きていたいと願っています。

切断された円環 「渋谷・コクーン歌舞伎 『切られの与三』」@シアター・コクーン5月11日

チラシ画像は以下。

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なお、オフィシャルサイトが非常にスタイリッシュ。リンクしておく。

解体/再構築/解体の串田ワールド全開

歌舞伎の解体?

さすが串田、「ここまでやるか!」のオンパレード。串田色全開。原作の背景にあると思われる輪廻転生思想はそのまま踏襲されたかに見えて、最後には見事に外される。円環は切断された。それが歌舞伎の解体、再構築、再び解体という作業と連動しているように感じた。「歌舞伎」であって、歌舞伎ではない、そんな『切られの与三』だった。まるで不条理劇を見ているようだった。

とはいっても、そこには歌舞伎という鉄壁の下地があるので、不条理劇的仕掛けも展開も、違和感なく収まってしまう。どう弄ろうが、いかに荒唐無稽であろうが、舞台として収まる。改めて歌舞伎のしたたかさを感じた。同時に可能性も強く感じた。見終えた後、与三郎が白い布が舞う中を彷徨する最終場面は要らないって思ったのだけれど、あれこそが「解体」を表象する串田演出のキモだったのだと思う。私はやっぱりどこかで「歌舞伎」を期待していたんですね。

人物造型の解体

与三郎とお富の出会い、再会、別れ、再会が繰り返される。それに他の人物との再会、別れが連動しているのだがこちらも繰り返し。もちろんそこにはお約束の「宝刀探し」と血肉の因縁話が絡んで、繰り返しを回転させるファクターになっている。作者の瀬川如皐のみならず、黙阿弥、南北にも見られる江戸歌舞伎常套の手法でもある。

役者の解体

解体、再構築、解体という作業は役者個人にも見られた。もちろん七之助をはじめとして歌舞伎役者がほとんどを占めていたのだけれど、あまり歌舞伎臭を感じなかった。串田の演出だろう。彼らが出している歌舞伎臭は極力抑えられ、もしくは消されて、各自そこから新しい何かを創り上げることを求められたのだと思う。いかにも歌舞伎役者然とした人はいなかった。そこに何か新しいものは生まれていたのか。答えはイエスである。私が見たのは初日から3日目だったのだけれど、後になるにしたがってさらに洗練度は高まってゆき、役者陣と舞台との結合がより確かなものになってゆくはず。

それにつけても、いかにも歌舞伎役者という人がいなかったことは串田演出には「幸い」だったのかもしれない。故勘三郎だったらこうはいかなかったのでは?歌舞伎役者である自己像、自己主張を打ち出しただろう。子息の七之助は違っていた。幕はじめにちょっと頼りない感じに見えたのは、まだ「躊躇い」のようなものがあったのでは?与三郎造型の彼の解釈だったのかもしれないのですけれどね。強い自己主張はなかったし、逆にそれが生きていたように感じた。今までは父、兄の陰になりがちだった存在が、新しい立ち像の造型に成功したように感じた。最近の彼の舞台にもそれを感じていたけれど、より確信した。

亀蔵は蝙蝠安?」の予想に反して藤八役。相変わらずの手練れぶり。とはいえ、以前に白粉を塗られてにやけた藤八も見ているんですけどね。扇雀は野田版歌舞伎、串田版『四谷怪談』等よりもずっとロープロファイルに徹していた。これも優れた演出だと思った。梅枝はもともとそんなに自己主張するタイプではないけれど、ここでも非常に素直に串田演出に収まっていた。萬太郎、鶴松もしかり。歌女之丞も臭みを抑えた演技が生きていた。それに対して笹野高史は思う存分暴れて存在感を発揮。これも面白かった。串田の目論見通りだと推察する。全編串田カラーに染まった舞台だった。

木ノ下裕一氏の頑張り

補綴の木ノ下裕一氏。この長い作品をリーズニングがそこそこ通るようにする組み立て作業はとても大変だったと想像する。でもそのおかげで歌舞伎のサマを異様にデフォルメしないで、歌舞伎として通るものに仕立てることに成功していた。快挙。快挙といえば、やはりこの舞台。美術は串田本人が担当したとのことで、これもいかにも串田らしい。何もない舞台を、8体ほどの大きな木枠で切り取って場を作り上げるという作業は、さすがだった。最近だとロンドンのロイヤルシアターで似た仕掛けを見たっけ。

観客は『ワンピース』のそれとは全く違っていたけれど、これは予想通り。予定調和劇を期待する人は初めから来ないだろうから。以下、「歌舞伎美人」サイトから詳細をお借りする。

瀬川如皐 作 「与話情浮名横櫛」より
木ノ下裕一 補綴
串田和美 演出・美術

与三郎      中村 七之助
お富       中村 梅枝
伊豆屋与五郎   中村 萬太郎
下男忠助     笹野 高史
赤間源左衛門   真那胡 敬二
おつる      中村 鶴松
小笹       中村 歌女之丞
海松杭の松五郎  片岡 亀蔵

観音久次      中村 扇雀


ヨサブロウが走りぬけた
因果の中をキズだらけになって
オトミ、お前は一体だれなんだ?
 1994年の誕生以来、とどまることなく進化を続ける「渋谷・コクーン歌舞伎」。古典に新たな風を吹き込み、劇場空間には熱気が満ちあふれ、これまで数々の話題作を生み出してきた。
 第十六弾となる今回、コクーン歌舞伎に待望の新作が登場。美男美女が別れと再会を繰り返す江戸世話物の人気作『与話情浮名横櫛』が、まったく新たな演出で生まれ変わる。串田和美の演出・美術、木ノ下裕一(木ノ下歌舞伎主宰)の補綴で、古典と現代を融合させる新しい挑戦が今ここに始まる。
 出演は与三郎に中村七之助、お富には今回がコクーン歌舞伎初出演の中村梅枝、そして中村扇雀をはじめ、片岡亀蔵中村萬太郎中村歌女之丞中村鶴松、真那胡敬二、笹野高史
 奇遇な出逢いを繰り返す与三郎とお富、その因果の渦に巻き込まれ、運命に翻弄される周囲の人々、それぞれの生き様を描いた疾走感あふれる『切られの与三』。