yoshiepen’s journal

さまざまな領野が摩擦しあい、融合し、発展するこの今のこの革命的な波に身を任せ、純な目と心をもって、わくわくしながら毎日を生きていたいと願っています。

プッチーニ作曲 オペラ『トスカ』METライブビューイング@神戸国際松竹2月20日

以下、松竹サイトからの演目紹介。

指揮:エマニュエル・ヴィヨーム
演出:デイヴィッド・マクヴィカー
出演:ソーニャ・ヨンチェヴァ(トスカ)、ヴィットーリオ・グリゴーロ(カヴァラドッシ)、ジェリコ・ルチッチ(スカルピア)、パトリック・カルフィッツィ(サクリスタン)

MET上演日:2018年1月27日
言語:イタリア語

1800年のローマ。孤児の身から美声を認められて人気歌手になったトスカは、パリ帰りの画家カヴァラドッシと恋に落ちている。だがフランス革命下で育ったカヴァラドッシは筋金入りの共和主義者で、ローマを支配しているナポリ王国の警視総監スカルピアから狙われていた。脱獄してきた友人の共和主義者アンジェロッティをかくまったカヴァラドッシは、スカルピアに逮捕されてしまう。トスカに横恋慕するスカルピアは、彼女を呼び出し、恋人の命と引き換えに肉体を要求するが…。

冒頭からセットの豪華さに圧倒された。今まで見たことのないほどリアリティのある舞台装置。METでもCGを駆使して舞台設定をすることが最近多いけど、そういう予想を見事に覆したセットだった。ヨーロッパのどの劇場も敵わない。METほど予算がつかないから。この『トスカ』、一つ間違えばソープオペラになってしまうほど、べったりとした内容なのだけど、それがこのリアルの極地のような装置により、逆にサブライム(sublime)化されていた。主人公はこの舞台だったのかも。幕間のこの装置を手がけたジョン・マクファーレン(John Macfarlane)氏へのインタビューがあって、興味深かった。彼自身はこのオファーを受けた時、怯んだという。というのも『トスカ』の舞台装置といえばフランコ・ゼフィレッリFranco Zeffirelliと相場が決まっていたところに、あえて挑むことになるから。結果としては大成功だった。

舞台を抽象化する傾向がある最近のオペラ。まるでその逆を行くかのようなこの装置の華麗さ。そう、こんな「行き方」もあるのかと、納得したし、マクファーレン氏の矜持をみた気がした。とにかく、すごかった!能の舞台が引き算で成り立っているのに対し、こちらは足し算。それもマキシマムの。

もちろん主役の二人、ソニア・ヨンチェヴァ(トスカ)、ヴィットーリオ・グリゴーロ(カヴァラドッシ)もよかった。二人とも予定されていた歌手が降板になり、急遽起用された。そう思えないほど、役になりきった演じぶりだった。ただ、「トスカといえばマリア・カラス」というほどのイメージが定着している(ビデオでしか見たことはないのだけれど)ので、ヨンチェヴァはカラスに比べるとふっくらしすぎな感じは否めない。ブルガリア出身と読んで、納得。どこか土着的な匂いがしたから。降板した美人歌手、Kristine Opolaisの方がイメージに合っていたと思う。METはヨンチェバをここ何シーズンかよく使っているのだけれど。ヨンチェヴァ、たしかに声量のある美声ではあるけれど、次に彼女が(「絶世の美人」役で)出るときは、多分行かない。

美人で思い出したのだけれど、2014年ミラノ・スカラ座での『皇帝の花嫁』で主役Marfaを演じたオルガ ・ペレチャッコ(Olga Peretyatko)が今まで見た中で抜きん出て美人歌手だった。彼女とはそのすぐ後、METのオペラ『清教徒』でも出くわすことになり、幸運を喜んだもの。(メゾ)ソプラノの声質、声量共に素晴らしい歌手。なんと昨年新国立劇場で『ルチア』を歌ったらしい。見逃してしまっていたのが口惜しい。Youtubeで一部見られるのでリンクしておく。脱線失礼。ライブビューイングのインタビュワーを務めたイザベラ・レナードも細身の美人。彼女の写真がアップされたHPをリンクしておく。彼女が出演するライブビューイングは、見逃さないようにしたい。

というものの、MET頻出のアンナ・ネトレプコといいヨンチェヴァといい、昨今のMET はふっくら好みなのかしらん?

人選は難しい。この『トスカ』が出るまで、指揮者のジェイムス・レヴァインの例のスキャンダルがあったり、主演歌手降板があったりのゴタゴタ続きだったようで、ひとまず成功したことは喜ばしいことではあるのだけど。

今回のプロダクションで私が最も感動したのは、スカルピアを演じたジェリコ・ルチッチ。奥行きのあるバス、かつ卓越した演技力。すごい歌手。また、もう一人圧倒的存在感があったのが、冒頭から登場する堂守り役のパトリック・カルフィッツィ。彼がコミックリリーフ役(ハーレキン)を果たしている。彼も奥行きのあるバス。でも役柄、軽やかに歌わなくてはならない。演技もだけれど、歌唱もぴったりだった。どこか現代的な感じがしたのは、カルフィッツィの役解釈によるものだろう。

New York Times評も良いものだった。MET劇場は5階までびっしりと人が入っていて、カーテンコールではスタンディングオベーション。

それと驚いたのが、神戸松竹の劇場での観客数が今までのMETライブビューイング上映とは桁違いに多かったこと。もちろん中高齢者が多いのだけど、男性比率が高い。オペラ好きが上映にも来るようになったんだと、かなり驚いた。本場で見れば日本円で2−3万円。それが3600円で見られるんですからね。当然かもしれない。