yoshiepen’s journal

さまざまな領野が摩擦しあい、融合し、発展するこの今のこの革命的な波に身を任せ、純な目と心をもって、わくわくしながら毎日を生きていたいと願っています。

『皆殺しの天使』(The Exterminating Angel) [MET ライブビューイング] における“Sound and Fury”@神戸国際松竹1月30日

窒息しそうな室内から出られなくなった人物たち。そこで起きる恐ろしい出来事を描くサイコスリラー。登場人物たちは最後まで部屋の外に出られない。それを見ている観客は二重の閉塞感に苛まれることになる。シュールレアリズム映画の旗手、ルイス・ブニュエルの同題の映画のオペラ化。

背後にあるのはキリスト教信仰。それも極めて土俗的なもの。舞台はブルジョア階級の絢爛たる晩餐会ではあるのだけれど。頽廃に溺れ、神を冒涜し、ついには神を怒らせてしまった人間たち。それもブルジョア階級の人間たち。彼らの右往左往を、執拗に描く。それは「罰」でもあるけれど、ある種の必然でもある。贖罪には生贄が要る。生贄を捧げることで、いっときは解放される。でもそれは永遠の解放ではない。

同質の映画を以前に見たことがあったことを思い出した。ブニュエルと同じくメキシコ出身の監督、ホドロフスキーのThe Holy Mountain (1973)。さらに、ウィリアム・ゴールディングの『蝿の王』(Lord of the Flies、1954)が浮かんだ。こちらはブニュエル自身も影響を受けたと言っているらしい。

The Holy Mountain にも『蝿の王』にも「救い」はない。しかし、オペラ版『皆殺しの天使』の最後に提示されるのは、救済もどきのシーン。最後にやっと「戸外」に出ることのできた登場人物たちを迎えたのは元使用人たちと群衆。そして警官たち。私としてはこの群衆と警官は不要な気がした。テーマが軽くなってしまう。あの勘三郎のニューヨークでの『夏祭浪花鑑』の最終シーンがかぶった。

シネフイル(cinefil)掲載の映画評の一部がそのままオペラ版にも通じるものなので、引用させていただく。題して「世界に衝撃を与えた「反復」の描写。ブニュエルの意図とは?!」。執拗に出てくる「反復」が大きな意味を持つことを分析して秀逸。

本作には同じ行為や台詞の反復が度々描かれる。たとえば、冒頭でノビレが招待客を引き連れ自分の邸に入って来て、使用人の名を呼ぶ様子が二度にわたって示される。招待客を前にした ノビレは、乾杯の挨拶を二度繰り返す(そして二度目の挨拶の後、戸惑ったような表情になる)。

この二つの場面のみならず、劇中で同じ台詞が繰り返される箇所は数多い。
そして邸に“閉じ込められた”招待客は、囚われの身となった晩の行為を各々がまじないのように反復することで邸を脱 出することができる。さらに最終的に、彼ら全員が再び一ヶ所に閉じ込められることが暗示される のである。最後、救済されたことに感謝を捧げるべく、ブルジョアたちは教会の「テ・デウム」を 歌う礼拝に参加する。感謝式が終わると、出席者たちが聖職者共々教会内に閉じ込められたことが 暗示されるのだ(彼ら全員が教会内で立ちすくみ、外へ出ようとしなくなる)。

他者の人生を操る立場にいるブルジョア(近代社会における資本家階級)たちが、“神の摂理” のような見えざる力に操作され、自らの行為をコントロールすることのできない“操り人形”のように、同じ振る舞いをそれと気づかずに繰り返してしまう。

本作の冒頭と最後が宗教的イメージで 挟まれている(前者は大聖堂と「プロビデンシア通り」、後者は教会)ことも、神意としか言いようのない論理不在 の規則めいたものに右往左 往させられ る人物たちの 運命を暗示しているように見える。

この分析にあるように、神の問題が大きな意味を持っている。この混乱(カオス)の背後に神の摂理が働いているという解釈は的確。残念ながら汎神論的な日本人にはあまりピンとこない概念だろう。でも舞台に漂う桁外れの重さは理解できるはず。

オペラに話を戻すと、作曲、指揮のトーマス・アデスは讃えられるべきだろう。このブニュエルのシュールな映画をオペラにするなんて、無謀ともいえる試み。それを成功させたことは、いくら褒めても褒めたらない。事実、音楽の素晴らしさは圧巻。楽器も様々に工夫して、それも画期的。

映画なら20人を超えた主要人物を十数人に絞り込んだのも良かった。彼らの関係もよくわかるよう、設定されていた。これは演出のTom Cairnsの偉業だろう。

何よりもかによりも、歌い手がすべて一流。役者としても一流。さすがメトロポリタン歌劇場。これだけの人材を揃えることが可能なんですからね。2017年11月18に録画されたもの。以下、当日に頂いたプロダクション表にあったもの。

Music Thomas Adès
Director Tom Cairns
Conductor Thomas Adès

Leticia Audrey Luna
Lucia Amanda Echalaz
Leonora Alice Coote
Silvia Sally Matthews
Francisco Iestyn Davies

もっと詳しい情報の欲しい方はMET ライブビューイングのサイトにアクセスを。