yoshiepen’s journal

さまざまな領野が摩擦しあい、融合し、発展するこの今のこの革命的な波に身を任せ、純な目と心をもって、わくわくしながら毎日を生きていたいと願っています。

映画『ロンドン、人生はじめます』(原題 Hampstead, 2017)

地味に中年男女の恋愛を描いています

『マディソン郡の橋』ほど深刻じゃない?

ブリティッシュ・エアウエイズのヒースローから羽田に帰るフライトの中で見た映画。日本ではまだ封切られていはいないよう。ホームドラマ、それも中高年の男女の恋愛を描いているドラマ。『マディソン郡の橋』のような「深刻さ」はない。どこまでもホームドラマ。ふんわり甘い綿菓子でコーティングされた雰囲気。

ロンドンの天文学的地価高騰が背景に

もちろんグレーター・ロンドン地域で深刻な社会問題になっている地価高騰と、そこからあぶれ、はみ出しててしまった人たちがいかに生き延びるのかという問題とが背景になってはいるものの、それを告発するような鋭さはない。かといって、「甘ったるい!」と切り捨てるにはちょっと「もったいないカナ」という部分もある。私はこのほんわかした雰囲気を買う。

明快なストーリー

キートン演じるエミリーのかっこよさとグリーソン演じるドナルドの素朴さで魅せる

舞台はロンドン郊外の街、ハムステッド。ロンドンとは打って変わって、まだ森(Hampstead Heathというらしい)の残るのどかな田園地。郊外の街らしく、おしゃれな店が通りに並ぶ。住んでいるのは、当然ながらそこそこ裕福な人たち。

ダイアン・キートン(Diane Keaton)が演じる主人公のエミリーは夫に死なれた後も、ポーターのいる「高級」アパートに住んでいる初老の女性。息子もハムステッドに暮らしているけれど、一人住まい。ブティックでアルバイトをしたり、ボランティア活動をしたりして過ごしている。ただそれでは生活費を賄うのは苦しく、日々のお金の工面と借金返済に追われている。とはいうものの、ダイアン・キートンからその「苦しさ」は全く感じられない。おしゃれな服、おしゃれな帽子、持ち物のどれもがキートンの趣味の良さだけではなく、裕福なことを表している。

私が「目撃」したロンドンの街の汚さ、混み方とは際立った対比をなしている街、ハムステッド。住んでいる人もロンドンで見かけた移民労働者の貧しさとは対照的。天国と地獄というのはちょっと大げさでも、それに近いほどのこの違い。それがショックだった。地価は当然天文学的高さだろうし、物価も高いだろう。

彼女のアパートは最上階なので屋根裏が付いていて、夫の遺品が収納されている。その中にあった望遠鏡で周りを「のぞき見」するエミリー。それが彼女とハムステッドの森の掘っ立て小屋に暮らすドナルドを結びつけるきっかけを作ることになる。

ドナルドはいわばホームレス。市当局から小屋を立退くように要請されている。頑として立ち退かないドナルド。街には彼をサポートしようとするボランティア団体が立ち上がるけど、彼は彼らのことも信用していない。孤高の初老男性。この役を演じたのはアイルランド生まれの俳優、ブレンダン・グリーソン(Brendan Gleeson)。『ヒトラーへの285枚の葉書』に出演している。この人がとても魅力的なので、映画を最後まで見てしまった。ハムステッドの公園にマルクスの胸像があるのだけど、それと並ぶとまるでそっくり!でもね、温かい魅力が発散されているんです。男前でもないし、太っているしで、どう見てもかっこよくはないのだけれど、どうしようもなくチャーミングだった。

キートンが徹底して都会的で洗練されている。服装も物腰も。それに比べて、グリーソンはおしゃれ度は低い。でも魅力はキートンを凌いでいる。すごい役者を見てしまった!マルクスの「無産者」(プロレタリアート)?を標榜しているかのような生活ぶり。それを飄々と演じていた。このブレンダン・グリーソン、35歳になって突如役者になろうと決めるまでは、なんと小学校教師だったそうな。もちろんアイルランドで。アイルランドの役者はさすがにいいですね。味わいがあります。ハリウッドスターが出せない味が。ケルトの血なんでしょうか。

で、話を短くまとめると、エミリーは立ち退きを迫られている彼を見かねて、弁護士と折り合いをつけ裁判に持ち込み、ついに彼の居住権を獲得するのを助けることになる。テレビにも中継されて、まるで二人は「英雄」。このあたりも皮肉が効いているような。二人のベッドインシーン?もなかなか面白ろかった。

「めでたしめでたし!」の結末

エミリーは夫の遺したアパートを売り、田舎に移り住むことを決意、でもドナルドは彼女と一緒には行かないで、掘っ立て小屋に残る。でも何ヶ月かすると、にわか造りのボートを仕立てて、彼がエミリーの元へとやってくる。二人の老いらくの恋が成就するところで終わり。

批評家受け悪し

こんな「めでたさ」が批評家のメガネにかなうはずもなく、IMDbでは5.8/10の評価。Rotten Tomatoesではもっと辛くて、4.3/10。The Guardianの映画評も散々。
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