yoshiepen’s journal

さまざまな領野が摩擦しあい、融合し、発展するこの今のこの革命的な波に身を任せ、純な目と心をもって、わくわくしながら毎日を生きていたいと願っています。

「異界」の現出ー能『鉄輪』@貴船神社 中継 NHKBSプレミアム「京都異界」 8月9日

京都異界探訪というテーマの番組。それも午後7時に始まり、4時間にわたるもの。「異界との中継リハーサル」がNHKのサイトにアップされている。以下、当該サイトからの番組解説

貴船神社や伏見稲荷大社などには、異界への入り口があるという。京都にある名だたる伝説の地を生中継でつなぎ、不思議な物語を4時間かけて語る。

もちろん、安倍晴明を祀る晴明神社がある一条戻橋からも中継があった。ちょうどこの放送日の午後、羽生結弦選手のオリンピックでのフリー演技の曲が「SEIMEI」と発表されたところ。私にはあまりにもタイムリーな事件で、興奮してしまった。羽生結弦選手と安倍晴明とが、人智を超えた形で結ばれているような、そんな不思議な感覚を持った。すべては「偶然の一致」なんだろうけれど。なんか、うれしいじゃないですか!

しかも、貴船神社ゆかりの能、『鉄輪』の奉納の実況中継を見ることができた。もちろん全部ではなかったけど、大槻文蔵師の鉄輪をつけたシテを見ることができただけでも、幸運だった。ネットで検索をかけてもこの日の『鉄輪』奉納についての予告はないんですよね。一部の関係者にのみ公開だったのかもしれない。迂闊なことに録画するのを忘れていたので、以下の演者の方々には誤りがあるかもしれない。

シテ 大槻文蔵
ワキ 福王知登

後見  大槻裕一

小鼓 成田達志
太鼓 中田弘美
大鼓 山本哲也
笛 杉信太朗

地謡構成員はよくわからず。でも浦田保親さんは確か。また、大槻裕一さんのお父上、赤松禎英さんもおられたと思う。

例によって「銕仙会」サイトから、この演目の解説をお借りする。

夫に捨てられた都の女(シテ)が毎夜貴船明神に丑の刻詣でをしていると、ある夜、神職(間狂言)から神託を告げられる。それは、全身を真っ赤に彩り、頭に鉄輪を載せてその三本足に火を灯せば鬼となれるというものであった。一方、その女の夫(ワキツレ)は最近夢見が悪いので、陰陽師安倍晴明(ワキ)に占って貰ったところ、今夜にも前妻の呪いによって絶命するという。晴明は夫と新妻の人形を作り、呪いを人形に転じ換えようと祈祷をする。そこへ鬼と化した前妻(後シテ)が現れ、人形を責めるが、晴明の祈りによって御幣に降臨した神々に責め立てられ、鬼女は退散してしまうのであった。

この解説にあるように、鉄輪の女を鎮めたのは安倍晴明だった。この日の午後にちょうど羽生結弦さんのフリー曲が「SEIMEI」と決まったっと聞いたばかり。不思議な因縁を感じたのも、宜なるかな?

ただ、能の舞台にはそういう「繋がった想い」を打ち消す猛々しさ、それに違和感があった。頭には鉄輪、体には毒々しいほど真っ赤な衣装をまとった大槻文蔵さんのシテは鬼気迫っていた。能『鉄輪』にゆかりのある貴船神社。たまたま今年はNHKの撮影があったとしても一般には公開されていない能の奉納。その意味を否応なく知らしめられた映像だった。奉納は密やかに行われるものであるということを。鉄輪の女の魂鎮めの儀式としての奉納能だということを。今回はNHKのおかげで、そのお裾分けを与ることができたんだと感じた。

そこそこの大きさのある能舞台と違い、極めて狭小な神社の舞台。そこでの能は、会館で見てきた能とはまったく違ったものに見えた。それは談山神社での奉納能でも持った感慨ではあったけど。能の原点に立ち戻ったような、そんな感覚が湧き上がってきた。