yoshiepen’s journal

さまざまな領野が摩擦しあい、融合し、発展するこの今のこの革命的な波に身を任せ、純な目と心をもって、わくわくしながら毎日を生きていたいと願っています。

能『清経 替之型』in 「東京青嶂会」@国立能楽堂6月3日

『清経』を見るのは初めて。とても贅沢な舞台だった。シテは生徒さんだったけど、シテツレに女性能楽師の鵜沢千絵さん、ワキに宝生欣哉さん。囃子方もそれ以上に豪勢。小鼓に大倉源次郎さん、大鼓に亀井広忠さん、笛を一噌隆之さん。お囃子の音が流れてくると、ワクワク感が高まる。

以下、大槻能楽堂のサイトから拝借した『清経』の概説。

■登場人物
シテ・・・平清経
面:中将
装束:梨子打烏帽子、白鉢巻、厚板又は縫箔、白大口、長絹、太刀
ツレ・・・清経の妻
面:小面
装束:摺箔、紅入唐織、鬘扇
ワキ・・・淡津三郎
装束:段熨斗目、白大口、掛素袍、男扇、男笠、形見(守袋)
■あらすじ
家臣の淡津三郎が平清経の形見の黒髪を届ける為、清経の妻のもとへやってくる。 妻は、夫が入水したことを知らされる。再会の約束をして戦場へ行った夫が、討死や病死ではなく、自ら死を選んだことを怨めしく思い、届けられた形見を返し、悲嘆にくれて床に臥す。 妻の夢枕に清経の霊が現れて、形見を返した恨みを云うが、死を決意するに至った経緯、月の夜に舟の上で笛を吹き朗詠し入水した最期の模様を仕方話で物語る。修羅道の戦いの苦しみを訴えるが、最期に唱えた十念の功徳によって成仏できたことを告げて消えていく。
■小書
恋之音取(観世・金春)、音取(宝生・喜多)、披講之出端(金剛)、
曲中之応答(観世)、替之型(観世)
■舞台展開
1. 清経の妻(ツレ)が登場、脇座へ着座する。
2. 清経の家臣・淡津三郎(ワキ)の登場。清経が豊前の国(九州)柳が浦の沖で自害したこと、形見の遺髪を届ける為に、都へと戻ってくる。
3. 清経の妻は淡津三郎から夫の訃報を聞き、討死や病死ならともかく再会の約束を破って自ら身を投げたことを怨めしく思い、悲しみにくれる。
4. 妻は、受け取った形見の黒髪を手向け返し、涙しながら床に臥す。
5. 清経の霊(シテ)の登場。妻は夢であっても再会できたことを嬉しく思うが、偽りの約束を怨めしくも思う。清経は妻が形見を返してきたことを恨む。
6. 清経の霊は、源氏に追われ、九州へと落ちた平家であったが、切に哀願した宇佐八幡にも見放され、清経は月の夜、小舟に乗り(今謡を詠い横笛を吹き)やがて水底へと沈み行った事を妻に語る。
7. 修羅道の戦いの有様を見せた後、最期の時に十念を唱えた功徳により成仏できたことを伝えて、消えて行く。

この日の演者一覧が以下。

シテ    永田千絵
シテツレ  鵜沢光
ワキ    宝生欣哉

大鼓    亀井広忠
小鼓    大倉源次郎
笛     一噌隆之

後見    味方玄、味方團
地謡    武田崇史、中森健之介、坂真太郎、永島充
      鈴木啓吾、観世喜正、片山九郎右衛門。遠藤喜久

この日のワキシテは女性能楽師の鵜沢光さんだった。嘆きの声がやはり女性のものなので、清経妻というのが実感として迫ってきた。シテも女性。舞も謡の部分もプロ級にお上手だった。二人ともお若いので、動きのキレがいい。声もみずみずしい。これだけで普段の舞台とは違った感じがした。男性版ではない魅力があった。どういったらいいのか、面をつけた演者の性別が判らなくても、どこか舞台が華やぐ。清経のあのきらびやかな衣装、特にうわ掛けの濃紫が生き生きとして見えた。男性よりも華奢な体つきの女性だからかもしれない。笛の名人であった平家の公達にぴったり。アンドロジナスな魅力とでもいうべきか。クドキの部分に重みが欠けるかもしれないけど、それは逆に、成仏した清経の清々しい気持ちの在り方を表現しているとも取れた。

古書で入手した『謡曲百番』を「参考」にして、清経と妻との掛合い部を読んで見ると、改めて素晴らしいクドキになっていることに感動する。見ていた時は言葉を拾いきれずに、モヤモヤしていた。これからの観劇には『謡曲百番』が必携かもしれない。あらかじめ演目が判っている場合は予習して出かけ、観劇中は舞台に集中すべきでしょうけど。

『清経』は修羅能に分類はされても、普通の修羅能とは違っている。「修羅に堕ちた元武者のシテが最後は僧によって成仏させられる」というのがたいていの修羅能の筋書き。引き換えこの作品では、戦闘を放棄(拒否)、自害した清経。自害する際に唱えた十念により、成仏している。だから嘆きは妻の方にある。世阿弥が出家する前の自信作という。世阿弥のそのときの心情が窺い知れる感じがする。こういう心持ちが彼に出家させたのかと、憶測してしまった。

囃子方が実に贅沢。そこに九郎右衛門さん地頭の地謡が付くんですからね。後見が味方兄弟。至福の時を過ごせた。