yoshiepen’s journal

さまざまな領野が摩擦しあい、融合し、発展するこの今のこの革命的な波に身を任せ、純な目と心をもって、わくわくしながら毎日を生きていたいと願っています。

ケルティック能『鷹姫』Celtic Noh “At the Hawk’s Well”

今年の2月にケルティック能『鷹姫』公演は終わっている。無念。ネットにアップされているチラシには以下のキャッチコピーが。

「100年前、能の原作を書いた外国人がいた−−アイルランド人作家W.B. イェイツ原作による夢幻能『鷹姫』をケルト神秘のコーラスを伴った新たな演出で描く!」
「ケルトの神秘と能の幽玄が溶け合う!」
「天上のコーラスと地謡が響き合う!」

一応学部は英文学専攻だったので、W.B. イェイツの詩はいくつか読まされた。その時に彼が書いた能、“At the Hawk’s Well”(鷹の井戸)について説明は聞いている。先生の評は「能を見たこともないイェイツが書いた作品ですからね」っていうもので、強いて奨励されるようなことはなかった。日本人からするとどこか違和感があったからかもしれない。今から思うと残念だった。とはいうものの、その頃は能自体もほとんど知らなかったし、興味もなかったから、「えっ、なにこれ?」っていう程度で終わっていただろうけど。

イェイツはそもそもどこから能のアイデアを入手したのか。なぜ見たこともない能を作品にしようとしたのか。それを遡ると、アーネスト・フェノロサが日本滞在中に梅若実(五十二世)に謡を習ったことに端を発するらしい。フェノロサは日本にお雇い外国人として来日、日本美術にハマり、1890年にアメリカに帰国してからはボストン美術館東洋部長として日本美術の紹介を行った。彼の遺した文書の中に能楽論があり、それを整理していたエズラ・パウンドが衝撃を受けた。パウンドはのちにこれをフェノロサとの共著、『日本の古典演劇の研究』として発表した。イェイツはそれを読んだのだ。「能」は、神秘主義傾向を持ち、ファンタジーに強く親和性のある彼のケルト魂に響くものがあった。それが1917年に発表された『鷹の井戸』になったというわけ。

ロンドンで上演された時、鷹の女に扮したのはダンサーの伊藤道郎だったという。この情報は「松岡正剛の千夜千冊」でいただいた。ありがとうございます。常々、啓発されております。

この『鷹の井戸』は横道満里雄が改作し、『鷹の泉』となり、喜多実が1949年に初演。ただ、横道はこれにさら手を加えて『鷹姫』を書き、観世寿夫が1967年に初演した。曲も担当した。詩人の高橋睦郎がこれをさらに改作して、今の『鷹姫』が完成した。

今年2月に現梅若実(五十六世)がこれを演じたということで、フェノロサと梅若とをつなぐ環が完結したことになる。この鷹姫サイトにこの辺りの歴史、経緯、由来等の解説がある。日本文化とケルト文化との親和性を記したリンク先が特に興味深い。

この『鷹姫』、ケルティック・コーラス・グループ「アヌーナ」を音楽に使用しているとのこと。youtubeで一部を聴くことができた。幻想的で神秘的な歌声。どこか能の地謡に通底する。地の底から滲み出るかと思えば、高く宙に舞い上がる感じがまさにそう。魂を揺さぶられると同時に癒される。

ちょうど羽生結弦さんが来期のSPにショパンの「バラード一番」を選んだというニュースを読んだばかり。「SEIMEI」や「Hope & Legacy」では自然との一体感を演出、まるで霊媒のように自然と我々を繋いでくれた。あの神秘的な感覚。彼にしか表現できないもの。『鷹姫』で、彼がケルトの妖精になって、あるいは日本的アニミズムの霊媒者になって舞っている姿を幻視してしまった。

このケルティック能『鷹姫』サイトに付いていた今回のケルト文化と日本のそれとの融合についての概説は以下。

『鷹姫』は、能の有史以来、外国人原作による今なお演じ続けられている唯一の演目です。日本文化とケルト文化に通じあう思想が融合した極めて稀な能作品であり、西洋の文化人達が優れた日本の芸術に心酔したことから始まり、今日まで発展し続けられてきた精神的交流の結晶でもあります。
 アイルランドのノーベル賞受賞作家 W.B.イェイツは、フェノロサ、パウンドらから知らされた日本の能文化に強い影響を受け、その中に当時彼が復興させようとしていたケルトの思想と共通する「異世界」と「幽玄」の存在を認め、戯曲『鷹の井戸』を執筆しました。この作品は1916年にロンドンにて初演、そして1917年に出版されました。『鷹の井戸』はその後日本に逆輸入され、新作能『鷹姫』として現在も演じられています。
 2017年(平成29年)は、『鷹の井戸』出版100周年、『鷹姫』初演50周年、そして日・アイルランド外交関係樹立60周年に当たります。この節目の年に、現代の能楽界を代表する人間国宝であり、この交流の発端となった梅若実の曾孫である観世流梅若会“梅若玄祥”と、イェイツの思想を受け継ぎケルト神秘の精神を体現するコーラス・グループ “アヌーナ”による新たな演出で『鷹姫』を描き、更なる両文化の融合を実現します。
 日本が世界に誇る芸能、「能」の持つ高い芸術性と幽玄の精神を、神秘のケルティック・コーラスと共鳴させ、これまでにない新たなる感動を生み出す。それがケルティック 能『鷹姫』です。

見逃したのは二度と捕まえることはできない。でももう一度どこかで演じてくれないだろうか。ネット掲載の写真をお借りして、アップさせていただく。