yoshiepen’s journal

さまざまな領野が摩擦しあい、融合し、発展するこの今のこの革命的な波に身を任せ、純な目と心をもって、わくわくしながら毎日を生きていたいと願っています。

パリ・オペラ座バレエ団<グラン・ガラ>@東京文化会館3月9日

以下の「本日のキャスト3/9」は、NBS日本舞台芸術振興会のサイトより。

「テーマとヴァリエーション」
振付け  ジョージ・バランシン

音楽: ピョートル・イリイチ・チャイコフスキー
管弦楽組曲第3番ト長調作品55 第4楽章
振付: ジョージ・バランシン
照明: マーク・スタンリー

初演: 1947年11月26日、バレエ・シアター、
ニューヨーク、シティ・センター
パリ・オペラ座初演: 1993年6月24日

ダンサー:
ミリアム・ウルド=ブラーム(ローラ・エッケ)、マチアス・エイマン(マチュー・ガニオ)
オーレリア・ベレ、セヴリーヌ・ウェステルマン、ロール=アデライド・ブーコー、ソフィー・マイユー、シリル・ミティリアン、ダニエル・ストック、イヴォン・ドゥモル、パブロ・レガサ

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「アザー・ダンス」
振付け  ジェローム・ロビンズ

音楽: フレデリック・ショパン
マズルカ作品17-4、マズルカ作品41-3、ワルツ作品64-3、マズルカ作品63-2、マズルカ作品33-2
振付: ジェローム・ロビンズ
衣裳: サント・ロカスト
照明: ジェニファー・ティプトン

ピアノ: ヴェッセラ・ペロフスカ

初演: 1976年5月9日、メトロポリタン歌劇場
パリ・オペラ座初演: 1999年3月11日

ダンサー:
リュドミラ・パリエロ、ジョシュア・オファルト(マチアス・エイマン)

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「ダフニスとクロエ」
振付け  バンジャマン・ミルピエ

音楽: モーリス・ラヴェル
振付: バンジャマン・ミルピエ
装置: ダニエル・ビュラン
衣裳: ホリー・ハインズ
照明: マジッド・ハキミ

初演: 2014年5月10日、パリ・オペラ座

ダンサー:
クロエ: オレリー・デュポン
ダフニス: ジェルマン・ルーヴェ(エルヴェ・モロー)
リュセイオン: レオノール・ボラック
ドルコン: マルク・モロー
ブリュアクシス: フランソワ・アリュ

栗友会合唱団

演奏: 東京フィルハーモニー交響楽団
指揮: マクシム・パスカル

なお、イタリックスが変更後の配役、カッコ内がオリジナル配役。

三つの小品の組み合わせ。「テーマとヴァリエーション」は群舞中心、「アザー・ダンス」は二人の相舞踊、最後の「ダフニスとクロエ」のみが普通のバレエのプロダクション。それぞれに違った個性のダンサーがソロを踊った。

「テーマとヴァリエーション」は主役二人の変更ということもあってか、切れ味があまりなかったように思う。バランシンの振り付けということで、期待していたけど、ちょっと肩透かし。ごく平凡な群舞。もちろんレベルはとても高いんですけどね。女性主役のミリアム・ウルド=ブラームは可愛いのだけど、それだけ。個性に欠けていた。対する男性主役のマチアス・エイマンには勢いがあったし、清潔な色気もあった。「男前すぎた」なんて言ったら、叱られますよね。

二つ目の「アザー・ダンス」の女性、リュドミラ・パリエロが見事だった。アルゼンチン出身とのこと。純然たるパリ・オペラ座育ちではなさそう。それでもというか、だからこそか、枠にはめられていない自由さがあった。軽やかなんだけど、情熱的。でも奔放というのではなく、抑えた演技。エネルギーを身内に溜め込み、それを一挙にではなく、少しづつ解放してゆく。そういう「発露」のさまがショパンの曲にシンクロしていて、ストンと胸に落ちた。ずっと唸りながら見惚れていた。

また、相手役のジョシュア・オファルトもパリエロの繊細な踊りをサポートする「黒衣」に徹していたのが、とても好感が持てた。パリ・オペラ座の男性ダンサーのレベルの高さが胸を打つ。出しゃばる訳ではない。女性の踊り手をしっかりと支える。その技術の高さ!ここに感激してしまう。

そして、お待ちかねの「ダフニスとクロエ」!監督に就任したばかりのオレリー・デュポンがクロエを踊る。とても44歳には見えない美しさと、躍動感。対するダフニス役は変更で、ジェルマン・ルーヴェ。とても若く、絵に描いたような美青年。あまりにそうなので、ちょっと違和感があるほど。個性を際立たせるのが難しい。でも大抜擢に見事に応えていた。身体も容貌と見合った美しさで、デュポンと遜色のないカップルになっていた。

でもこの典型的な美男美女のカップルよりも、私は海賊の頭ブリアクシス役のフランソワ・アリュの、力強いジャンプと舞踊に目が釘付けになった。2014 年6月パリでの公演時にもアリュがブリアクシス役だったと「世界のダンス最前線」というサイトの記事によって知った。

この記事にあるように、これはこの時点で次期舞踊監督に決まっていたミルピエが振り付けたもの。私はつい先日、『ミルピエ パリ・オペラ座に挑んだ男』というドキュメンタリー映画を観たばかり。その時のミルピエの情熱的な振り付けの様子と「ダフニスとクロエ」でのダンスが一致した。実験的、モダン。それまでのパリ・オペラ座の古典的なダンスとは違った路線を導入しようとしていた。でも、結局は受け入れてもらえなかった?「ミルピエはオペラ座を去った」というコメントで映画は唐突に終わっていて、そのあたりの理由の説明は全くなかった。ミルピエ振り付けのこの作品が残ることで、彼はオペラ座に確かな足跡を残したんだと、ちょっとしんみりした。彼の振り付けはアメリカン・バレエ・シアター(ABT)との近似性が高い。ヨーロッパの古典の匂いがあまりしない。彼はフランス人ではあるものの、アメリカ生活が長かった所為か、映画で撮られている挙動もアメリカ的。こういうラフさがパリ・オペラ座のお歴々に受け入れられなかったのかも。

上に言及した「世界のダンス最前線」の記事によると、初演の2014年6月公演の折にもバランシン振り付けの曲が使われた。ただし、『水晶宮』。そこで、なんとカール・パケットとリュドミラ・パリエロが組んでいたらしい。嗚呼!その場に居たかった!口惜しい。

手の指を骨折したばかりで、よほど東京に行くのはよそうかと思ったのだけど、2万円を超えるチケット、それに観たい気持ちも抑えきれなくて、不自由な手を抱えて出かけた。泣きたいほど、いろいろ困ったけれど、なんとか無事に見ることができた。うれしい。歌舞伎も能も見るのを諦めたけれど、このオペラ座を見ることで償われた気がする。