yoshiepen’s journal

さまざまな領野が摩擦しあい、融合し、発展するこの今のこの革命的な波に身を任せ、純な目と心をもって、わくわくしながら毎日を生きていたいと願っています。

猿之助の『雪之丞変化(ゆきのじょうへんげ)』@博多座2月9日夜の部

「市川猿之助早替り並びに宙乗り相勤め申し候」と但し書きが付いている通り、昼の部とは趣向の異なった猿之助の宙乗りが見られた。このサービス精神からも察せられる?ように、従来の「雪之丞変化」の演出とは違っていて、そこにかなりの「差別化」が施されていた。猿之助が猿之助たる所以。確認するには一度見ただけでは十分とは言えず、もう一度見るべきだったかも。不完全燃焼感を持て余し気味。

原作は三上於菟吉。あまりにも人口に膾炙した作品。といってもかなりの昔の話。長谷川一夫(新旧2ヴァーション)、美空ひばりのものをずっと前にDVD で見ている。当時、「美空ひばり論」を書こうと考えていた関係で、彼女の主演映画作品をたっぷりと見たのだが、「『雪之丞変化』は何といっても長谷川一夫でしょ」という評判を聞いて、長谷川作品も(ついでに)見た。「旧」版の方は保存状態があまり良くなく、その上モノクロームだったけど、それでも長谷川の雪之丞は鮮烈だった。おそらく昔の歌舞伎の女形はこうだったんだと思わせる色っぽさが白黒の画面から立ち昇っていた。

猿之助は平成27年に『雪之丞変化』をすでに舞台に載せている(於中日劇場)。その時の脚本・演出も今回と同じく石川耕士だったのだろうけど、今回は猿之助がかなり手を入れたのだと推察している。随所に猿之助好みの趣向が盛り込まれていたから。以下、「歌舞伎美人」から拝借した情報。

<配役>
中村雪之丞/闇太郎  猿之助
脇田一松斎  門之助
土部駿河守後に土部三斎  男女蔵
門倉平馬  巳之助  
軽業のお初  米吉
丑三ツの次郎  隼人
三斎娘浪路  梅丸
むく犬の源次  弘太郎
中村菊寿郎  寿猿
侍女滝乃  笑三郎
中村菊之丞 猿弥 
雪太郎母ゆき  笑也
おもと  竹三郎 
孤軒先生 平岳大


<みどころ>
戦前戦後を通して大衆の絶大な支持を集めた名作を、エンターテインメント性たっぷりに舞台化した作品です。
 過去、長谷川一夫主演の舞台や映画が一世を風靡、宝塚歌劇団でも上演されるなど、歌舞伎役者、雪之丞の復讐の物語は圧倒的な人気を誇ってきました。

 猿之助扮する主人公、中村雪之丞は上方の人気女方。幼い頃、長崎奉行と悪徳商人の画策で、廻船問屋の父は濡れ衣を着せられて自害、母も殺されてしまいました。その復讐を誓う一子、雪太郎(雪之丞)の活躍が、妖しく美しく、冒険活劇を見るようにスリリングに描かれます。
 両親が亡くなってから15年後、美貌と芸で、上方の人気役者に成長した雪之丞は復讐を誓い、両親の仇を討つため剣の修業を積みます。師の脇田一松斎に奥義を授けられるほどの腕前になった雪之丞はやがて、江戸にお目見え、宿敵の土部三斎や広海屋らと出会い…。劇中、雪之丞と、土部三斎の娘、浪路との恋あり、女スリのお初、義賊・闇太郎の暗躍など、手に汗にぎる展開です。

 これまでの雪之丞作品にない宙乗りあり、古典歌舞伎の劇中劇ありと、猿之助らしい趣向満載の華やかな作品となりました。
 猿之助は、雪之丞と闇太郎の2役を演じ分けます。立役と女方を兼ねる役者らしい猿之助の魅力あふれる舞台です。

各場毎の内容はその②に後日書くつもり。今日は全体の印象と各役者のキメの見所を。

全体としての印象は、復讐劇の要素がかなり弱かったように感じた。二度見ればまた違った印象になるのかもしれない。長谷川一夫の映画を先に見てしまているので、余計そう感じたのかも。映画の場合、仇の土部三斎をみる雪之丞の視線をクローズアップしていた。彼の怒りと復讐への強い意思が、視線のクローズアップによって、よりリアルにみる者に伝わる。映画の利点を生かした心理描写。舞台で「視線」を際立たせるのは難しい。それが課題かもしれない。

「復讐」を主軸とするのではなく、あくまで一つのファクターとしてみせるというのであれば、これでいいのかもしれない。というのも、この芝居全体のキモが役者、猿之助の華麗さを見せるというところにあったように思えるから。ど真ん中に居る猿之助を他の役者たちが取り囲み、支えるという構図。猿之助がもっとも輝くように配置されているのは『男の花道』もそうだった。こちらはよりそこに重点が置かれていた。

各役者たちは猿之助を支えるという役目に忠実にありながら、自分自身のキャラをも「立たせ」なくてはいけない。それぞれが「必死」だったと思う。チーム澤瀉屋の面々はそこのところの呼吸がわかっているので、無理なく自身を表現できていた。でもそれ以外の役者は割りを喰ったかも。巳之助はこのちょっと解釈に困る役をどう捉えるかに困ったのでは。彼は複雑な役でより光る役者さんだけど、平馬よりもっと奔放さのある役柄が似合っていたはず。最後の場面でヨボヨボの「新入役者」として出てきたののは、とても良かった。彼の精一杯の「反抗」?

米吉も以前にもこの手の役で見たことがあるけど、むしろ彼を浪路として見たかった。お侠ですれっからしという役も無理なくできる女方ではあるけれど、やっぱり美しい娘で見てみたい。隼人も然り。もっと彼のニンにあった役を「創っても」良かったのでは。やりにくいので、控え目にしていたような気がする。

平岳大にも巳之助と共通した印象を持った。もっと弾けた役の方が似合っているけど、そうなると医者役がいなくなる。難しい。

チーム澤瀉屋はほぼ完璧。笑三郎、笑也、猿弥、平岳大、そして門之助、ニンにハマった役。嬉々として、それでも出しゃばらずに自身のキャラをしっかりと出していたのはあっぱれ。