yoshiepen’s journal

さまざまな領野が摩擦しあい、融合し、発展するこの今のこの革命的な波に身を任せ、純な目と心をもって、わくわくしながら毎日を生きていたいと願っています。

[演劇極上文學Ⅺ『人間椅子/魔術師』@近鉄アート館12月23日

休憩なしの2時間半、きわめてインテンシブな舞台。若い役者さんばかり。しかもAll male cast。観客は予想通り若い層。私の席は中央の最後列だったので、客席全てが俯瞰できた。みなさんしっかりと前を向いて熱心に観劇しておられた。感心、感激。

極上文學の舞台は以前に一度見ている。その時は泉鏡花の『草迷宮』だったのだけど、「朗読」ならぬ芝居の演技のうまさに圧倒された。役者のレベルの高さに驚いた。今回も同様の感慨を持った。今まで見てきたいろんなジャンルの小劇場系の芝居の中で、その革新性と内容の濃さで抜きん出ていた。

以下が当日の詳細。

【演出】 キムラ真(ナイスコンプレックス)
【脚本】 神楽澤小虎(MAG.net)
【音楽】 橋本啓一
【原作】「人間椅子」「魔術師」(江戸川乱歩 作)
【キービジュアル】尚 月地

【配役】
椅子職人   石井マーク
明智小五郎  松本寛也
佳子夫人   小西成弥
文代     長江崚行
魔術師    ROLLY

乱歩の「人間椅子」と「魔術師」をインテグレイトさせた作品。どちらかというと「魔術師」の中に「人間椅子」を入れ込んだ入れ子構造になっている。「人間椅子」のみではまるで一篇の詩のようになってしまうから、それを膨らませるために「魔術師」という推理劇を外側に設定した?

この二つの作品の指向するところがまるで違うので、かなりの無理があることを承知の上での合体だろう。「魔術師」の方は探偵、明智小五郎が出てくる普通の(?)探偵もの。明智(あの杉下右京のモデルだと秘かに思っているんですけどね)が人の心の暗闇を手がかりに事件の真相を探って行くというその手法は確かに面白いけど、現代の社会情勢から見ると無理があるのも事実。その「無理」が、逆に怪奇趣味を掻き立てるるんですけどね。怪奇的な、もっといえば非現実的な要素を「魔術師」から抽出、それを「人間椅子」の怪奇に乗せ、さらに発展させたのが今回の芝居といえるかもしれない。

「江戸川乱歩」というペンネームは承知の通りアメリカの文学者、エドガー・アラン・ポーの名をもじったもの。ポーもその怪奇的な作品群で高い評価を受けているが、その後継者という意味づけを自らに課した乱歩。当然のことながら、普通の探偵もの(例えば松本清張のような)とは全く違った路線をとる。論理的に事件を解決するというより、事件の奥にある言説化できない何かに照準が合わされる。人間椅子が孕んでいるその「何か」を「魔術師」が提示する謎と掛け合わせるという着想に感心した。

土台となる乱歩の作品、それに二つの作品を掛け合わせるという着想が優れているから、この芝居は最初から成功が約束されたも同然。役者陣もそれに見合う芸達者たちが揃っていた。何と言っても、男優のみでこれを演じきったというのが、舞台を成功させた要因に違いない。ここに舞台そのものが乱歩のパロディとして立ち上がってくるから。原作に淫しながらも、それに溺れず、というか逆に転覆させようというその意気込み。その意気に感動した。

役者が良かった。中でも魔術師役のROLLY の諧謔精神が際立っていた。この方のみ関西出身?パロディをパロディとして演じられる稀有な役者だと思った。文代、佳子、それぞれを女装で演じた二人の役者さんたちも良かった。あまりにも「リアル」で、それがなんかおかしかった。

また、芝居の時間を彩る橋下啓一さんの演奏が非常に効果的に使われていた。