yoshiepen’s journal

さまざまな領野が摩擦しあい、融合し、発展するこの今のこの革命的な波に身を任せ、純な目と心をもって、わくわくしながら毎日を生きていたいと願っています。

ブラナー・シアター・ライブ2016第二弾『ロミオとジュリエット』

こういう企画があることを、一昨日まで知らなかった。遅まきながらやっとのことで西宮ガーデンズTOHOシネマズでの上映に間に合った。刺激的なシネマになっていた。「ナショナルシアター・ライヴ」(NTLive)の向こうをはる企画なんだろう。先日、NTLiveのカンバーバッチ主演『フランケンシュタイン』を見たところなので、なかなか興味深い。NTLiveの方はもちろんロンドンのナショナルシアターのモダンな劇場群でのものだけど、こちらはウェストエンドの古色蒼然とした(?)劇場での上演を録画している。NTLiveのクラシカルな演出という路線に対抗しようとしているブラナーの「ラディカルな」意思が読みとれる?以下、公式サイトからの概説。

イギリス演劇界でシェイクスピア俳優としてその実力を認められ、映画界でも俳優・監督として活躍しているケネス・ブラナー。彼が率いる“ケネス・ブラナー・シアター・カンパニー”によるロンドン、ギャリック劇場での上演舞台3作品が映像化され、『ブラナー・シアター・ライブ』として公開。

第二弾「ロミオとジュリエット」:大ヒット映画「シンデレラ」でシンデレラを演じたリリー・ジェームズと王子を演じたリチャード・マッデンが再び共演。トニー賞受賞俳優デレク・ジャコビがロミオの友人マキューシオを演じている。

人口に膾炙した話ではあるけれど、一応キャピュレット家、そしてそこと対立するモンタギュー家の登場人物の対比図をアップしておく。

キャピュレット家
• ジュリエット - キャピュレットの娘
• キャピュレット - キャピュレット家の家長
• キャピュレット夫人 - キャピュレットの妻
• ティボルト - キャピュレット夫人の甥
• ジュリエットの乳母
モンタギュー家
• ロミオ - モンタギューの息子
• モンタギュー - モンタギュー家の家長
• モンタギュー夫人 - モンタギューの妻
• ベンヴォーリオ - モンタギューの甥、ロミオの友人
• バルサザー - ロミオの従者

以下、特設サイトからの本公演の配役リスト。

Romeo And Juliet
by WILLIAM SHAKESPEARE


LILY JAMES – Juliet
MEERA SYAL – Nurse
MICHAEL ROUSE - Lord Capulet
MARISA BERENSON - Lady Capulet
ANSU KABIA - Tybalt and First Guard


RICHARD MADDEN – Romeo
JACK COLGRAVE HIRST - Benvolio
ZOË RAINEY - Lady Montague
CHRIS PORTER - Lord Montague

DEREK JACOBI - Mercutio
SAMUEL VALENTINE - Friar Laurence
TAYLOR JAMES - Prince

全体的にドタバタしていて、今まで見てきたこの劇のイメージが覆る。例えばゼッフェレリ (Franco Zeffirelli)のかの有名な映画などが採った路線の真逆。まだあどけなさの残る可憐な恋人たちというより、いかにも現代的なカップル。

口撃(?)の応酬のボルテージの半端ない高さ。若いカップルがそうならば、年長の人物たちはそれ以上。暴力的なまでに激しい。力と力のせめぎ合いをみせる。シェイクスピアのセリフはそのままに、そこにスパイスが効かされている。これ、役者泣かせだろう。日本の役者にはほぼ無理と思われるレベル。第一これを日本語に直す段階で、こけること間違いなし。立て板に水のごとく喋りまくる人物たち。語られるのは韻を踏んだ美しいlines。この齟齬にまず戸惑ってしまう。しかし物語が進行するうちに、これもありかもと思い始める。

この立て板に水のセリフをどこまで決めれるかで、役者の力量が一目瞭然となる。もっとも素晴らしいのは予想通り、マキューシオを演じたデレク・ジャコビ 。 どの劇評もこの点では一致している。以下、The Guardianの劇評から、ジャコビ賛美の箇所

All of Derek Jacobi’s lines are flutingly located. He is in a show of his own as a dandy Mercutio. A parody of a young blood, he comes on in dapper suit and co-respondent shoes, twirling a cane. He sticks “boom-boom” at the end of a line to land a bon mot. It’s scarcely mercury that is running through his veins, but he just about makes sense of casting an elderly actor in the quicksilver part.

上演前にブラナーがちょこっと舞台に出てきて説明をするところがある。それによるとマキューシオは、晩年のオスカー・ワイルドをイメージしたという。酒場で若い人とワイワイ言って酒を飲み、洒落た言葉を連発、そのまま真夜中の街に消えていく中年男。誰もそれがワイルドだと知らなかった。そのおしゃれ度ゆえにある種の伝説になっていたのだけど、あとでそれがあのワイルドだと判ったという。2013年3月にロンドンのDuke of York劇場で見た『ユダの接吻』でのルパート・エヴァレットが演じた晩年のワイルドを思い出していた。

ジャコビのマキューシオは実にイキがいい!よどみなく流れるようなセリフ、その言葉以上に「物語る」身体。これらがイギリスの舞台役者の素晴らしさを余すことなく表している。おん歳、78歳!そのちょっと気取ったポスチャー、台詞回しは、私にはあのNaked Civil ServantでのQuentin Crispを想い起こさせた。これ、今じゃyoutubeで見られる。ぜひ、比較してみてください。

もう一人良かったのが乳母役のMEERA SYAL。エグくてエロい乳母は、このお芝居の儲け役ではあるけれど、ここまで過激なのは初めて。呆れるやら、可笑しいやら。でも楽しい。また、ジュリエットの暴力的な父親を演じたMICHAEL ROUSEもなかなかのもの。劇評も彼を褒めているのが多かった。

そして、主人公二人。ジュリエット役のLILY JAMESは可憐というより、激しいお嬢さん。感情の起伏をきちんと演じていたし、滑舌も良かった。対するロミオ役のRICHARD MADDENはその点ではマッチしていなかった。時々モゴモゴっとなるところ、シェイクスピア役者としてはどうかと思ってしまった。それを指摘している劇評もあった。

全体として新しい「ロミオとジュリエット」像を呈示して見せるということでは、大いに意味のある演出だった。ブラナーの意気を大いに感じた。ちょっと懐かしかった(?)のは、この舞台となったギャリック劇場 (The Garrick)。ここで2013年3月に『ロック・オヴ・エイジズ』(Rock of Ages)を見ている。

このギャリック劇場、狭い上にトイレの数が少なく、休憩時間に長蛇の列だった。ロンドンの旧式劇場の典型。これをカメラが上から撮っている。モノクロなので、まるで50年も前の劇場のいるような感じがうまく出せていた。私は一階席のかぶりつきで見たので(当日ギリギリに席をとったら、ここしかなかった)、天井桟敷からの劇場を映しているシーンが興味深かった。それにしても、ホントに古い。すべてが旧式。ウェストエンドの劇場はほぼこんな感じ。収容客席も多くはない。でもあのコージーな雰囲気はどこか大衆演劇の劇場に通じるものがある。